表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

270/508

世界樹の罠


「ま、まさか……ブレイヴ兄上は、樹液を採取に?」


「そうなのです……兄上が高層に向かってからもう3年……消息不明、生死も不明なのです」


 悲しそうに……いやどちらかというと恥ずかしそうに告白するシルフィ。


 恥ずかしがることなんてないぞシルフィ。兄上は男の中の男だ。誇るべき兄だ。

 

「本当はボクも連れて行ってって頼んだんだけど、危険だからって一人で……」


 そうか、そのおかげでサラに逢えたわけだから、兄上には感謝しかない。



 だけど、いつまでもこのままって訳にもいかないだろうな。王位継承の問題もあるし、家族みんなも心配している。だったら俺のやることは一つしかないじゃないか。



「俺が……俺が必ずブレイヴ兄上を連れて戻ってきます」

「おおっ、婿殿……それは本当かね?」

「もちろんです。ついでに樹液も手に入れてきますよ」


(嘘ね……樹液が本命で兄上がついでね……)

(うん、樹液が9割で兄上が1割だね)


 シルフィ、サラ、それはいくらなんでも言い過ぎだろう。せいぜい6:4ぐらいだよ!? 樹液はほら、担当大臣としての仕事の一環として……うんぬんかんうん。



***



 結局、晩餐会が始まるまでの間に、世界樹の高層へ向かうこととなった。



「みなさま初めまして。護衛ならびに案内役を務めさせていただきます、白百合騎士団長リーリエです」


 真っ白な鎧に身を固めた美しいエルフの騎士団長リーリエさん。気の強そうな高潔な佇まいに俺と美琴の興奮は最高潮だ。まったくこれだから異世界人の業は深い。


(せ、先輩……来た、エルフの女騎士来たよ!?)

(ああ、絵にかいたようなエルフの女騎士が来たな)

(で、でも先輩……世界樹にはオークがいないよ!?)

(ふふっ、大丈夫だ美琴、世界樹先生を信じろ)


「リーリエさん、カケルです。案内よろしく頼みます」


 大変失礼な妄想はおくびにも出さず、さわやかスマイルで握手をする。


「くっ、こ、これが英雄の力……ま、負けない、この程度で屈したりはしない……」


 素晴らしい……想像以上の逸材だった。俺の手を握ってまだそんなことを言えるとは……美琴、よだれが垂れてるぞ!?



***



 世界樹の高層に行くには、国の許可が必要になる。様々な危険が待ち受けているかららしい。



「実は、高層は女性にとってとても危険な場所なのです。残念ですが、勇者様以外は許可できません」


 ということで、高層に行くのは、俺と美琴とリーリエさんの3人だけだ。なんて都合の良い……いやみんなには申し訳ないが、ここは俺たちに任せて欲しい。


「みんなすまない。お前たちをエロい……いや危険な目に遭わせるわけにはいかないんだ」


「「「…………」」」


 うっ……みんなのジト目が痛い。ほら美琴なにか言ってやれ。


「ぐふふ……」


 駄目だ……美琴の奴、すでに妄想で正気を失ってやがる。



 みんなのジト目に見送られて、世界樹高層へと出発する。


「それで……どうやって高層へ?」


 危険な高層への道は険しい。まさか木登りをするのだろうか?


「え? 普通に階段ですけど?」

「あ、ソウデスカ……」


 3人で世界樹内部にある螺旋階段を上ってゆく。


「足元に気を付けてください。ってしまった!?」


 先頭を進んでいたリーリエさんが突然声を上げる。


 壁や床から無数の(つる)が伸びてきて、リーリエさんの体を拘束してゆく。


「こ、これは、世界樹の(つる)です。全身を拘束して女性から魔力を吸収するのです……くっ、やめろ!? うっ、鎧の隙間から……あ、ああああ!?」


 俺も美琴も、突然の事態に体が動かせない……いや動かない。


(くっ、さすがは世界樹……こんな罠が待ち受けているとは……みんなを連れてこなくて正解……いや後悔)


「美琴、気を付けろ、初見の魔物……いや魔物ではないが、とにかくどんな力を持っているかわからない。焦らずじっくり観察するんだ」

「わかってるよ先輩、こんな素晴らしい……いや恐ろしい敵は初めてだから慎重にいかないとね」 



 鑑定眼によれば、一定の魔力を吸収したら解放してくれるので、魔力が減る以外は無害らしい。俺たちにとっては大変有益だが。


 心から助けてあげたいが、世界樹を傷つけるわけにもいかないし、見守る以外に選択肢はない。まったく世界樹最高だぜ。



「はあはあ……申し訳ございません。案内役といいながら、あんな初歩的な罠に引っかかるとは……」


 真っ赤に上気した顔で荒い息をはくリーリエさん。いいえ、貴女は最高の案内人ですよ。美琴と顔を見合わせて力強く頷く。


「あの……大丈夫ですか? 具合が悪そうですよ?」

「だ、大丈夫です。樹粉の影響に加えて、先ほどの罠のせいで体がおかしくなっているだけです」


 いや……全然大丈夫じゃないでしょ!?


「ふふっ、たとえ体が屈したとしても、心までは屈しない。それが騎士道ですから」


 凛とした眼差しからは樹粉の影響など感じられない。素晴らしい精神力。まさに騎士の鑑だ。最高ですリーリエさん。



***


 

 しばらく上り続けること30分。ふと疑問に思ったので、リーリエさんに尋ねてみる。


「でも、ブレイヴ兄上は、なぜ3年も戻ってこないのでしょうか?」

「……もしかしたら、ブレイヴ殿下は、伝説の廃エルフに出会ってしまったのかもしれません」


「「は、廃エルフ!?」」


 美琴とともに歓喜に震える。やはり、エルフといえばハイエルフ。エロフとダークエルフは揃っているので、これでコンプリートエルフだ。


 エルフの上位腫で、エルフよりもさらに長命で美しい、ファンタジーの定番。ふふふ。


 ってちょっと待て!? 廃エルフって何? ハイエルフじゃないの!? いや音は同じなのになんで分かるのとか突っ込まないでね?


 しかもよく考えたら、シルフィたちって進化してハイエルフになってたから、もうコンプリートしてたよ。廃エルフはまだだけど。


「先輩……なんか残念な感じのエルフだね……」

「そうだな……あまり関わりたくない感じのエルフだな……」



 とはいえ、今更行かないわけにもいかないしな。


 まだ見ぬ種族? に思いをはせながら、俺たちは階段を上り始めるのだった。



「……ねえ先輩。飛んでいったほうが早くない?」

「……それな、俺も今気付いたよ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
i566029
(作/秋の桜子さま)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ