不純異性交遊担当大臣
「勇者美琴です。カケル先輩の婚約者です」
美琴さん……なぜ婚約者を強調したんだい?
「おおっ、異世界の勇者さまとは……大変失礼致しました。しかも大変お美しい……」
「ふふっ、あまり本当のことを言われると困ります陛下」
陛下の美琴を見る目がいやらしく感じてしまう不思議。まあ見るだけなら許しましょう。俺のアイドルは宇宙一だし、美琴も嬉しそうだし?
「バドル辺境伯の娘、リーゼロッテです。カケル殿の婚約者です」
負けじと婚約者アピールするリーぜロッテ。一体誰と争っているんだい?
「おおっ、あの武勇の誉れ高いバドル家のご令嬢とは、これまたお美しい」
陛下のリーぜロッテを見る視線はやはりいやらしい。まあ見るだけにしておいたほうがいいですよ? どつかれたらバラバラになりますからね!?
「魔人帝国ミッドガルド子爵ソニアです。主様の婚約者で主に諜報活動をしております」
「おおっ、魔人とはかくも美しいものなのか!? うむ、今後はぜひ仲良くしたいものだな」
相変わらずいやらしい陛下の視線はソニアを捉えて離さない。周囲のジト目を浴びながらも、ぶれない姿勢に敬意を抱かずにはいられない。さすがです、お義父さま。
「アルゴノート第3王女、クロエ=アルゴノートです。御主兄様の婚約者で、専用妹メイドをしております」
さすが王族。洗練された所作で綺麗な礼をする。だがクロエさん、専門用語が多すぎて、他の人には意味不明じゃないの!? いきなり御主兄様とか専用妹メイドとか言われたら俺ならドン引きだよ!?
「おおっ、これはようこそ。クロエ殿。意味は分からなかったが、関係の深さは伝わってきたよ。それにしても素晴らしい美貌とモフモフをお持ちだ。ちょっとだけ触らせてもらっても? え? 駄目? ……そうか」
すごいな陛下!? 初対面でモフモフを触らせろとか、さすが王族メンタル。俺も見習わないとな。
お義父さまが見えない血涙を流しているのがわかるが、俺のクロエをモフらせることは出来ないんだ。許して欲しい。
「カケルさまの婚約者で専用メイド長ヒルデガルドです。上から下のお世話まで、させていただいております」
俺のデザインした最高のメイド服に身をまとった絶世の美女ヒルデガルドは、もはや神の描いた絵画のように至高の輝きを放っている……が、言い方考えようね!? 誤解を招くからね!? え? 事実? ソウデスネ。
「おおっ、これは……美しいという言葉では足りない。ふつくしい。婿殿、そのメイド服と専用メイドについて後で詳しく……」
お義父さま……実にお目が高い。喜んで相談に乗りましょう。ふふふ。
ちなみにミヅハは同席していない。エルフは精霊に特別な畏敬の念を持っているから、超精霊である彼女がいたら大変な騒ぎになってしまう――――というのは表向きの理由で、本当は俺がミヅハを独占したいだけなんだ。
(お兄様……好き……大好きです)
うれしそうなミヅハの思念が心地よい。
***
互いに自己紹介も済んだところで、条約と国際会議の件を確認する。まあ、ガーランドに関しては、前もってシルフィとサラが細部まで詰めておいてくれたから、今回は確認するだけだ。
また、国を守った褒賞として、公爵位と上層の一等地に邸宅を与えられた。しかも、なんと邸宅の敷地内に世界樹の枝があり、落ちた葉は自由に使っていいのだとか。
(ミヅハ、世界樹の葉には何か効果があるのか?)
(はい、お兄様。世界樹の葉には精力増強絶倫の効果があります)
おいおい……世界樹最高かよ? 早速落ち葉を集める使用人を雇わなければなるまいて。
「そして婿殿には、名誉職である不純異性交遊担当大臣をお願いしたい」
え!? それって名誉職なんですか? なんか不名誉な感じが……いや引き受けますけどね! 内容聞かないうちからやる気満々ですけどね!
「……慎んでお引き受けいたします陛下」
「……まだ内容を言っていないのだが!?」
「はいはい、私も副大臣になりたいです!」
勢いよく手を挙げる美琴。
「そ、そうか……ありがとう。実はエルフという種族は性に関して非常に淡白でな。できれば樹粉症以外でも盛り上げていきたいのだが、なかなか成果がでないでいるのだ」
深刻そうに告げる陛下には申し訳ないが、俺の知っているエルフは、ほぼほぼ全員エロフなので眉唾にしか聞こえないんですが!? え? 王侯貴族は例外? なるほど納得。
ガーランドも少子化が深刻で、このままだと国の人口が減る一方らしいので放置はできない。
「お任せください。困っている人々の力になること、それが異世界から来た俺たち――――」
「――――私たちの使命だから!」
力強く宣言するカケルと美琴を生暖かいまなざしで見守る婚約者たちの姿がそこにはあった。
***
「な、なんですって!?」
俺は思わず絶句した。椅子がなければ、そのまま地面にへたり込んでいたかもしれない。
「すまんな、婿殿。世界樹の樹液を採取することは掟で禁じられているのだ」
衝撃の事実に言葉が出てこない。陛下の言葉も耳を素通りして聞こえているのに意味がわからない。いや……違う、ただ信じたくないだけなんだ。
俺があまりに落ち込んでいるので、婚約者たちも意味がわからず、声をかけられないでいる。実際は呆れているだけかもしれないが。
「ふぅ……やはり婿殿はブレイヴによく似ているな……」
「そうですね……あの子を思い出します」
「あの……ブレイヴというのはもしかして?」
「ああ、私たちの長男、第一王子のブレイヴのことだ、婿殿」
やはりか……一向に姿を見せないのでおかしいと思っていたが、どこかへ出かけているのだろうか?
「カケルくん……実は、樹液を得る方法がひとつだけあるんだ」
唐突になんですか? ノーラッド兄上、早く教えてください。
「この上層よりはるか上の高層に、世界樹から樹液が染み出す場所があると云われているんだ。昔はそこから樹液を得ていたらしいのだが……兄上は、その伝承を信じて……」
「ま、まさか……ブレイヴ兄上は、樹液を採取に?」
兄上は、その名のとおり勇者であったのか……




