冒険者パーティ『氷の翼』
一方、フリューゲルに乗ってノルンへ向かったキタカゼたち『氷の翼』一行。
人目につかない場所で地上に降りると、徒歩でノルンの町へ向かう。
フリューゲルは、付近一帯を空から調べるため、後から合流する予定だ。
身分証は、刹那が作ったギルド公認の偽造カードで、冒険者ランクとパーティランクは、
共にA級で用意されている。
実力的にはS級でも足りないのだが、S級となれば、大国でもわずかしかいない英雄クラスの冒険者だ。こんな田舎町に現れたら、それだけで大騒ぎになってしまうだろう。あまり目立つのも良くないということで、このランクに落ち着いたのだ。
『でもよ、このパーティ名なんとかならないのかよ?』
シュヴァインはずっと不機嫌だった。パーティ名『氷の翼』は、明らかにキタカゼを意識した名前だ。自分たちの要素がまったく入っていないのだから彼が不満を覚えるのも当然かもしれない。
『無礼者! 王さまの付けて下さった素晴らしいパーティ名に疑義を呈するとは、万死に値しますよ?』
キタカゼは、カケルからもらったこの名前を、宝物のように大事に想っていたので、シュヴァインの言葉に怒りを爆発させる。そのブリザードのような怒りに、シュタルクとハルクは、早々に君子危うきに近寄らずと口をつぐんで距離を取る。
『えー、ボクはこのパーティ名、格好良くて結構好きだけどな?』
『てめえ、ハルト裏切る気かよ?』
『……やはりハルトは見所がありますね』
キタカゼがハルトの頭を撫でる。
『えへへへ……』
真っ赤になって照れるハルト。
(くっ、ハルトの奴、上手くやりやがって……)
内心死ぬほど羨ましいが、こうなっては後の祭り。自業自得だ。
『シュヴァイン……何か言うことはないのですか?』
『くっ……文句を言ってすいませんでした……これでいいか?』
『……まるで誠意が感じられませんが、まあいいでしょう。さあ早く町へ入りますよ』
一行は、早速、町に入るための列へと並ぶ。
とんでもない美男美女のパーティの出現に、並んでいた人々が騒然としたのは言うまでも無い。
***
『おい、早くしてくれ! もう町へ入って良いんだろう?』
シュヴァインが苛ついたように衛兵に声をかける。
「へ? あ、すいません!? ど、どうぞお入り下さい。ようこそノルンの町へ」
キタカゼに見惚れていた衛兵が、バツが悪そうに離れて行った。
(……ま、気持ちは分かるけどな……)
シュヴァインはチラリと横目でキタカゼを見る。冒険者風の装備に身を包んでいても、溢れ出る魅力は隠しようがない。アイスブルーの冷たい目で睨まれると、妙な性癖に目覚めそうで怖くなる。
『……何ちらちら見ているのかしら?』
『うえっ!? な、何でもねえよ。それより早く酒場に行きたいんだが……』
『……は? 馬鹿なの? オークなの? まずは冒険者ギルドで情報収集に決まってるでしょう?』
キタカゼが信じられないとばかりにシュヴァインを睨みつける。
『……ったく、真面目かよ。主だって急がなくて良いっていってたじゃねえか?』
一方のシュヴァインは、手をひらひら振って取り合わない。
『……シュヴァイン、気持ちはわかるけど、これはリーダーが正しいよ。まずはターゲットの安全確保が最優先なんだから』
『そうだな。ターゲットさえ見つかれば、後は見守るだけの簡単な仕事だ。そうなったら好きにすれば良いだろう』
シュタルクとハルクが至極まっとうな正論を吐くので、シュヴァインは何も言い返せない。
『ぐぬぬ……分かったよ。ささっと終わらせて飲みに行こうぜ』
『シュヴァイン……ギルドにも酒場があるから大丈夫だよ?』
『おおっ! そういえばそうだったな。よし行こう。早く行こう』
現金なシュヴァインに苦笑いの一同。キタカゼに至っては完全に無視している。関わるだけ無駄だと、早くも悟ったのだろう。
一行が冒険者ギルドに入ると、またもや場が騒然となる。
キタカゼの異次元の美しさに加えて、男性メンバーもタイプが違う超美形揃いなのだ。シュヴァインもキタカゼには全く刺さらないが、酒場にでも行けば、間違いなくモテまくるだろう。
一行のあまりのオーラに、受付に並んでいた冒険者たちも思わず道を譲ってしまう。
『美しいお嬢さん。受付はこちらでよろしいですか?』
「ふぇ!? は、はい……ようこそ冒険者ギルドへ。え、A級冒険者!? ご、ご用件は?」
シュタルクの王子様スマイルに、受付嬢もポーッと見惚れてしまう。
『実は、私たちより数日前にこの町へ来た仲間を探しているんだ。リズとクルミっていう女の子たちなんだけど?』
「なるほど、人探しですね。特徴は分かりますか?」
『リズは青い髪の人族の女性で、クルミは銀狼族の獣人の女の子だね。二人とも凄い美少女だから目立つと思うんだけど』
「ああ! 憶えてます! すっごく可愛いから私たちギルドの中でも話題になったんです!」
受付嬢のお姉さんは、興奮気味にガッツポーズをとる。
『それは良かった。それで彼女たちは今は何処に?』
「え〜と、たしか担当は……ハンナ! ちょっと来て!」
呼ばれてやって来た茶髪のお姉さんが、ペコリと頭を下げる。
「ハンナです。リズさんとクルミちゃんたちなら、私が担当しました。彼女たちなら、もうこの町には居ませんよ?」
『え? そうか……それは残念だね。それで彼女たちは何処へ向かったのかな?』
「路傍の花という女性冒険者パーティを護衛に雇って王都へ向かったはずです。シュタルクさま」
普通なら個人情報など教えないのだが、A級以上の冒険者には、ギルドが情報提供する義務が規定されている。氷の翼をA級にしたのもその為に他ならない。
「あ、王都へ向かうなら必ずネストの町を経由すると思いますよ!」
『情報提供感謝します。みんな、行きますよ』
黙って成り行きを見守っていたキタカゼが、もう用済みとばかりに出発を告げる。
『は? 何だよ、いま酒を頼んだばかりだぞ』
ギルドに入るなり、酒を注文していたシュヴァインが慌ててキタカゼを制止する。
『……そういえば貴方も居たのですね……まったく……お店に迷惑をかける訳にもいきませんから、早く飲んでしまいなさい』
『へへ、ありがてえ! キタカゼも一杯どうだ?』
『……無駄口叩いているなら、凍らせた酒を胃にねじ込みますよ? 3、2、1』
それはたまらんと、慌てて酒を飲み干すシュヴァイン。
氷の翼一行は、ノルンに着いて早々町を離れることになった。
『……はい、そうです。これからネストという町へ向かいます。いえ、とんでもないです。ふふっ、ありがとうございます』
楽しそうにカケルに報告するキタカゼと、その様子を苦笑いで見守るパーティメンバー。
彼らの旅は始まったばかりだ。