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スキル保持者の行方 ジモ村のアダムとリズ


「ねえ駆、なんで山道をわざわざ歩いてるの?」

「え? だってせっかく山に来たんだからハイキング気分だよ」

「そうそう、刹那も少しは歩かないと太るわよ?」

「……美琴は黙ってて!!」

「ひ、ひぃ!? ごめんなさい」


 どうやら美琴はまだ許してもらえていないようだ。  


 トナリ町からアダムの住む山奥の村までは、大人の足でだいたい2時間ほどかかるらしい。ハイキングに丁度いいかと思ったのだが、刹那はインドア派だからな。


「もうだめ……おんぶして駆」

「はいはい、どうぞお乗りくださいお嬢様」

「えへへへ……駆の背中あったかい。にゃはあああ」


 うおっ!? 刹那がミレイヌになったぞ。ああ、猫耳似合いそうだな。今度付けてもらえるかお願いしてみよう。


「くっ、刹那、上手くやりましたね……」


『カケルさま……私もメイドゆえ体力がないのです』

「大丈夫か、ヒルデガルド? ほら乗れ』


「しまった!? 一瞬のスキをついて先を越されてしまった!? あの……御主兄――――」

「カケルさん、私、足を挫いちゃったみたいでえ……」

「それは痛そうだな。乗れソフィア」


(くっ、ソフィアは自分の聖魔法で治せるでしょうが?)


「カケルくん、カタリナ疲れちゃった……」


(はああああ!? 何自分でカタリナとか言ってんですか!? ってまずいです、席が無くなってしまいます)


「あ、あの御主兄――――」

「ねえねえクロエ、この虫何て言うの? めっちゃキモイんだけど」

「え? あ、ああ、それは――――」


『あの、カケルさん、魔力が尽きてしまったんですが……』

「なんだって!? 乗れイヴリース」


(ぐぬぬぬ、魔力お化けの貴女が魔力切れ起こす訳ないでしょうが!?)


「おいおい、どうしたんだクロエ、そんな怖い顔して? おっぱい揉むか?」

「…………結構です。お気遣いなくセシリアさん」

「はいはい、私揉みます!」

「ははは、本当に好きだな美琴は」


 もう駄目だ……御主兄様に空いている席はない。


 私の席なのに……私が専用メイドなのに……妹なのに……



「……クロエ、お前も乗るか?」


 優しい御主兄様の声に、はっと顔を上げる。


「で、でも……もう空いている席が……」

「ふふっ、そうでもないみたいだぞ?」


 見ればみんなが少しずつずれて私の場所を作ってくれている。


「み、みなさん……」

「誰のものでもない、みんなの乗り物だからね?」

「譲り合いの気持ちが大切……」


 私はまた間違いを犯すところだった。みんなの思いやりが嬉しくて、心地よくて。大好きな御主兄様に乗り込む。ああ、この安心感。世界で一番安全で安心な乗り物だ。


「……何度でも言うが、俺は乗り物じゃないからな!?」


「あの……カケル殿……」

「む、ミヤビも乗りたいのか? うーんさすがに場所が……」

「お気になさらず。勝手に足に掴まりますので」

「そ、そうか……好きにするといいんじゃないかな」



***

 


 2時間後、無事ジモ村に到着した一行。


 数百の家が軒を連ね、山奥とも思えないほどなかなか立派な村だった。


「ここがジモ村か……いよいよ会えると思うと緊張するな」


 アダムのもつスキル『チェンジ』は、世界を救うかもしれない切り札だ。何とか協力を得たい。聞き込みによって得た情報によれば、アダムは真面目で純朴な青年だということなので、誠意をもってお願いするしかないだろうな。



「あんたたち、こんな山奥の村に何の用だい?」


 当たり前だが、俺たち一行は恐ろしく目立つ。村に入る前から、何事かと村中から人が集まって来ていたのだ。


「こんにちは。俺はカケルといいます。実はこの村に住む、アダムという青年に会いに来たのですが……」


 アダムという名前を聞いた瞬間に村人たちの顔色が変わる。ん? 何かあったのか?


「……そうでしたか。私は村長をしております。ムラオーサと申します。遠いところ来ていただいて申し訳ないのですが、残念ながらアダムはもう居りません」

「え? もしかして引っ越しをされたとか?」


「……いいえ、殺されました」


 ムラオーサさんの話によれば、アダムは婚約者である許嫁と一緒に暮らしていたが、賊に襲われて殺されたという。その時に婚約者である許嫁は攫われてしまったらしい。


「ようやく成人を迎えて、これからというところだったのに……こんなひどい話がありますか? 婚約者のリズも優しい良い娘だったのに……」


 涙ながらに語るムラオーサさん。きっとみんなに愛されていたのだろう。村人たちからは強い怒りと悲しみが伝わってくる。


「……もし、よろしければアダムの家を見せてもらっても?」

「構いませんが、事件が起きた時のままですから、あまり気持ちの良いものではないですよ」

「大丈夫です。ぜひ見ておきたいのです」


 村人たちはアダムのスキルのことを知らないようだが、おそらく彼は生きているはず。



 ムラオーサに案内されてアダムの家に入る。確かに家の中には血痕がそのまま残っており、生活感も感じられるほどだ。


「ではごゆっくり、私は外におりますので、終わったら声をかけてくださいね」

「ありがとうございます。それほど時間はかからないかと思いますが」


(ヒルデガルド、クロエ、どうだ?)


『侵入者は3人。全員男。婚約者のリズは男たちに攫われております』

「侵入者の匂いはまだ追えます。そこの出口から出て行ってますね」


 断片的だが、状況は分かった。


『あの、カケルさん。当時の状況を見ることはできますよ?』

「本当か、イヴリース?」


 イヴリースの時空魔法なら、その場で起こった出来事を巻き戻して見ることが出来るらしい。さすがにあまり古いと難しくなるらしいが。さすがは魔王、半端ない。


『ではまいります。ログ・アクセス!!』


 イヴリースの魔法が発動すると家の中の時間が戻り始める。高速巻き戻しだが、俺には瞬間記憶があるので問題ない。


「止めてくれイヴリース!」


 俺の言葉に巻き戻しが緩やかになりやがて止まる。成功だ。アダムとリズが映画のように動き出す。


「ああああ!? アダム、好き、大好き!」


「「「「「…………」」」」」


 ……ごめんなアダム、リズ、ちょっと巻き戻しすぎたみたい……いやわざとじゃない!? 思ったより止まるのが遅かっただけなんだ!? 


「みんな、このことは墓場まで持って行ってくれ……」 

 

 くっ、みんなのジト目が痛い。って美琴興奮しすぎだろ!? 鼻血出すとかお前はアニメキャラか!?




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i566029
(作/秋の桜子さま)
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