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カケルの忙しい朝


 朝は何気に忙しい。


 日課の鍛錬を終え、朝練組で風呂に入った後は、朝食の下ごしらえだけ済ませてからカミラさんのお店にハーピィの卵を納品に行く。

 


「おはようカケルくん!」 


 朝なのに妖艶な微笑みで迎えてくれるのは、食料品店『夢の食卓』店主ハーフサキュバスのカミラさん。


 早くに旦那さんを亡くしていて、以来ずっとひとりでお店を切り盛りしている。


「ハーピィの卵、今日の分です。売れ行きはどうですか?」 

「ありがとう。売れ行きは絶好調よ! こんな新鮮なハーピィの卵なんて普通は手に入らないから。あっという間に売り切れてしまうわ」


 淡いパープルの髪が朝日に透けて桃色に染まる。嬉しそうに微笑む彼女はまるで少女のようだ。


「それなら良かったです。あ、近いうちにアトランティアへ行くんですけど、カミラさんも一緒に行きますか?」 

「アトランティアへ? ちなみに何をしに行くの?」


「リリスの家族にご挨拶と国際条約締結のための交渉ですね」

「……行きと帰りだけ同行させてもらえると嬉しいかしら……」


「そ、そうですね! 分かりました。出発日が決まったら連絡します」 

「うん、お願い。ところで、ねぇカケルくん……ちょっとだけ時間……良い?」


 カミラさんの紫紺の瞳が尋常でないほど熱を帯びている。呼吸も荒く苦しそうだ。


 これは完全に俺のせい。カミラさんは俺に会うと魔力酔いしてしまうのだ。


「はい、ちょっとだけなら……」

「うふふ……今日もお仕事頑張れそうだわ」


 

 うん、朝食前の軽い運動は大事だね。美味しく食べられるし。



***


 

 屋敷に戻り、朝食の準備が出来たら、今度は婚約者たちを起こすのも俺の大事な仕事……いや特権だ。



「おはようございましゅ……御主兄しゃま……」


 寝ぼすけクロエは殺人的に可愛い。こんなん、起こすだけで済む訳がない。


「きゃ、キャイ~ン。あ、朝から激しいです……」



「おはようございましゅ……貴方しゃま……」

「おはよう……とりあえず……する?」


 くっ、朝から可愛い過ぎる双子め……お仕置きが必要だな。平行動作発動!!


「ち、ちょっと、起きた! 起きたからあああ!?」

「あ、貴方様!? 駄目だってば! 激し過ぎるうう!?」


 こんな感じでみんなを起こしてゆく。まったく俺も忙しいんだけどな。


「ん……おはよう……あなた」

「おはようエヴァンジェリン。美味しい朝食が出来てるぞ」


「んふふ、本当ね。じゃあいただきます……カプッ」

「お、おい……仕方ないなあ……カプッ」


「それ駄目だってば!? あああああ!?」 


 

 ようやく全員揃っての朝食。


 朝食が終わったら、みんなをそれぞれの職場へ送ってゆく。


「旦那様……今夜は必ず戻って来てくれ……」


 顔を真っ赤にして俺の胸に顔を埋めるセレスティーナ。え? それってもしかして?


 黙って頷く可愛い姫騎士さま。


「安心しろセレスティーナ。どんな手段を使ってでも必ず帰ってくる。必ずだ」


 これは死ねなくなった。例え世界が滅ぶとしても、明日までは守り抜こう。


 

「アリサとクラウディアは、わざわざギルドまで送る必要ないだろう?」 

「カケルさま……自分で言うのもアレなんですけれど、私モテるんですよ? 心配じゃ……ないんですか?」


 目を潤ませる公女さま。くっ、己の失言を呪いたくなる。


「それは心配だな。分かった! 送るよ」


「お兄ちゃん……最近構ってくれないね……なんで? アリサのこと嫌いになった?」


 目を潤ませる世界一の妹。くっ、お前を悲しませている自分のことを嫌いになったよ。


「ば、馬鹿なことを言うな! 好きだ、大好きだ。嫌いになんてなる訳ないだろう?」


「んふふ……お兄ちゃん、大好き。じゃあ送迎よろしくね?」


 ふぅ……危なかった。妹に嫌われたら死ねる。


「カケルっち! カタリナがいないんだが?」

「あ、そういえば……多分、進化したラビ部屋にいると思いますよ?」


 あの人……基本昼まで寝ているからな……魔法少女母も一緒に。



『主、主! 早く頼む!』 

『ふん、わ、我はフリューゲルが誘うから仕方なく……』

『ふわあ……ほれ奉仕させてやるぞ』


 みんなを送り届けて屋敷に戻ってくると、グリフォンのフリューゲルと暗黒竜のクロドラ、リヴァイアサンのリーヴァが待ち構えていた。あの……召喚していないんだけど?


 フリューゲルは毛づくろい。クロドラは鱗のお手入れだ。リーヴァは髪を()かすだけ。やはり日々のケアは主のつとめ。手を抜く訳にはいかないか。


 ちなみに彼女たちが人型になっているのは、表面積の問題であって、それ以上でも以下でもない。


『うはああああ!? き、気持ちいいぞ主……も、もっと……』


 そうだろう、そうだろう。フリューゲル専用に作ったブラシだからな。


『は、はああああ……ふうふう……くっ、はぁはぁ……』


 クロドラさん……メイドたちが変な目で見るんで、少し抑えてもらってもよろしいでしょうか?


『くっ、まだだ……まだ我は負けてはいない……』


 クロドラさん……一体何と戦っているのでしょうか? 仕方ないですね……『逆鱗』


『くはあああああああああ!? それ駄目えええええええ!?』


 逆鱗をケアされて呆気なく負けるクロドラさん。どうでもいいけど、なんで人型の時の逆鱗ってあんな場所にあるんですかね? 異世界エロすぎ。


『待ちくたびれたぞ。さあ我の髪を存分に梳かすが良い!』


 リーヴァは俺に髪を梳かしてもらうのが好きらしい。俺の膝に乗って早く早くと急かしてくるのが可愛い。口には出せないが。


『んんんんんん……はあああ……良い、とても良い……そう……そこ……主は本当に上手だな』


 小学生の見た目で甘い声を出さないで下さい。お願いします。


 

 こんな感じで、俺の朝は慌ただしく過ぎてゆくのだった。

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i566029
(作/秋の桜子さま)
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