リヴァイアサンのリーヴァ
この際、リエルに見られていたことはもう忘れよう。よく考えたらイリゼ様にも見られてるんだし……いや、駄目じゃん。俺のプライベートないじゃん!?
テンションだだ下がりでリヴァイアサンの魂を吸収する。
『デスサイズとスケッチブックのレベルが上がったよ。後でチェックよろしく』
脳内アナウンスがリエルだと分かったせいで、色々微妙な気分になる。でもちゃんと仕事してくれて感謝だよな。どんな天使なんだろ?
『んふふ、気になる? ねえ気になる? 僕って結構スレンダーだから気に入ってもらえると思うよ?』
くっ、別の意味で気になる。会話できるのは嬉しいけどさ。ところでリエルさん、スレンダーなのはどの部分でしょうか?
『もちろん君が気になっている部分さ。それに、スケッチブックのレベルが上がったから、もうじき見せてあげられるかもね』
どういう意味かわからないけど、気になるな。後で確認しないと。
まずは、リヴァイアサンを召喚してみよう。
『スケッチブック召喚、リーヴァ!』
たしか、リヴァイアサンは雌しかいなかったはず。だから一応女の子を想定して名前を付けたんだけど……。
あれ……出てこない? って寝てるし……。おーい、リーヴァ!!
『…………我の眠りを妨げる愚か者は誰だ?』
「俺だ。お前の主カケルだ」
『ふん……確かに契約により主従関係が成立しているようだが、そんなもので我を従えられると思うなよ! 魂は縛られても、肉体まで許すことはないと知れ!』
おお……さすがは伝説の一角。呼ばれてほいほい出てくるほど甘くはないか。
「リーヴァ、別に嫌がることをさせるつもりはない。お前に贈り物があるんだ」
『ほう……我の気を引くために貢物とは殊勝な主だな。よかろう、その心意気に免じて我に貢物を捧げる権利をくれてやろうではないか』
いつもと違う複雑な紋様の魔法陣が出現し、まばゆいばかりの光の奔流が徐々に人型のシルエットへと集束してゆく。
良かった……リヴァイアサンの巨体で出てきたらどうしようかと思ったよ。
それにしても、さすがの存在感だ。出てくるだけでもこんなに大変なんだな。
『ああ大丈夫、これ単なる演出だから。次から普通に戻すね』
あ……そうですか。感動が薄れるからできれば後で教えて欲しかったよ!?
現界したリーヴァは、はっきり言って異次元の美しさだった。
水色を基調とした髪と瞳に虹色の輝きが加わって神秘的な雰囲気を纏っている。
ミコトさんやイリゼ様を見慣れている俺だから耐えられるが、常人なら意識を保てないだろう。
だが……リーヴァの真の恐ろしさは、その美しさではなかった。
彼女の頭の高さは、俺のヘソくらいなんだよね。つまり――――
リーヴァの見た目は、どう見てもギリギリ2桁。うん、完全に小学生です。ありがとうございました。
ふふふ、ようやく俺が異世界に来てから足りなかったものが見つかった気分だ。言い換えれば、パズルの最後のピースがはまったような充足感と言えば分かってもらえるだろうか。
さらに野球で例えるなら、内角低め一杯のストライク。
なんであんな巨体なのに人型はロリなんだろう?
素晴らしい! 素晴らしいぞリーヴァ!!
『ふむ、我を見ても意識を保てるとは、さすがは不意討ちとはいえ、我を倒しただけのことはあるか。寝込みを襲ったとはいえ』
よほど悔しかったのだろう。言い方変えて2回言ったね。まあ事実だから言われても仕方ないけども。
『勘違いするなよ、我は負け惜しみを言っているわけではない。油断も含めて実力だからな。主の力は認めざるを得ない』
「そ、そうか、そう言ってもらえると助かるよ。それじゃあリーヴァ、指を出して」
リーヴァのちいさな指に、イリゼ鉱石から作り出した指輪をはめた。
『……なんの真似だ? ほう、これは中々……ふん……まあ、せっかくだから付けておいてやろう』
うーん、気に入ってくれた……のかな?
「リーヴァ、アイスクリームとプリン食べるか? すごく美味しいぞ?」
『ほほう……何やらたまらない匂いがするな……どれ……こ、これは…………』
無言で食べ続けるリーヴァを見ているだけで癒やされる不思議。
『はっ!? な、何を見ている!! 勘違いするなよ! 別に夢中で食べていたわけではない。久しぶりの食べものだったから味わっていただけだ。まあ、用意されたら、また食べてやってもいいがな』
良かった。気に入ってもらえたようだ。
「あとはこれを着てくれ。人型で全裸はまずいからな」
メイド服を渡す。え? なんで最初に渡さなかったのかって? ノーコメントで。え? なんでみんなメイド服なのかって? それは俺の趣味。
「リーヴァ、着方が分からないなら――――え? 大丈夫? ……そうか」
『ふむう……服など鬱陶しいばかりと思ったが、悪くない……』
メイド服に袖を通してクルクル回るリーヴァが可愛い。
くっ、頭を撫でたいが、せっかくのいい感じがぶち壊しに成りそうだから、ここは我慢だ。
『ふわあ……そろそろ眠くなってきたから我は帰るぞ。む!? 待て主、全身が汚れているではないか?』
ああ、それは貴女の返り血ですよ?
「気にするな。後で洗うから大丈夫だ」
『駄目だ! 我の主たるものわずかの汚れも許さん』
リーヴァの髪の毛が海蛇となり、全身を綺麗に洗ってくれた。あれ? なんか優しい?
「ありがとうリーヴァ」
『ふん……ちょっとは見れるようになったな。まあ我の主なのだから当然だがな』
「ああ、リーヴァに恥をかかせないように頑張るよ」
『我の気を引きたくば、その気持ちを忘れないことだな……では帰るぞ』
そう言って消えてゆくリーヴァ。来るのも帰るのも自由なんだね。
でも、嫌われてはいないみたいで良かった。
だって消える直前、
『……リーヴァという名……悪くない。勘違いするなよ、初めて貰った名だから特別なだけだ』
って言ってたしな。
さて、みんなのところへ戻ろう。キリハさん待たせると怒るしな。