オールラウンダー
ダンジョンでの採掘を終えてバドルの冒険者ギルドに戻る。
みんな心地良い疲労感と達成感でとても良い笑顔だ。今度はセレスティーナたちも連れて来ないと不公平だな。
「それにしても、呆れるぐらいに大量にとれたわ。しかもインゴットで。これもあのツルハシのおかげね」
「これでバドルの冒険者ギルドの財政も潤います」
採掘した貴金属類の売却手数料は冒険者ギルドの収入になるからな。
リリスとリノも良い息抜きになったのではないだろうか。働かなくても大丈夫なぐらい稼いだことは置いておくとして。
「マイカもありがとう。おかげで素晴らしい成果を上げることが出来たよ」
ダークエルフの少女の灰色の髪を撫でる。
「ふえっ!? だ、だから子ども扱いすんなって」
「してないさ。リリスだって撫でてるだろ?」
「そういえばそうだな……ってそういう問題じゃねえ!?」
褐色の肌でもわかるくらい、顔を真っ赤にして叫ぶマイカ。
「それで、今後なんだけど、良かったら俺のところで働かないか? もちろん兄弟みんな一緒に。住むところも用意するから」
「あ、ああ、その、すげえ嬉しいし、ありがたいんだけど、俺……学院行こうと思ってさ」
「学院?」
「私が推薦したのよ。マイカは磨けば光る逸材だからね!」
リーゼロッテが自慢げに胸を張る。
「それは良いな! でも兄弟たちはどうするんだ?」
「実は、バドルに新しい幼年学舎を作ることになったの。読み書きや計算、生活に必要な知識を教える場所。もちろん学費は無料。マイカの兄弟たちもそこに通わせるから大丈夫」
基礎教育の重要性は計り知れない。将来の辺境伯領は、人材に困ることはなさそうだな。
「でも、バドルの学院って貴族のエリートばかりだったりするんじゃないのか?」
マイカがいじめられたりしたら……
「王都の学院とは違うのよ、面白い才能がある子ばかりが集められてるから、身分とか関係ないわ。あのマリネだって学院出身よ?」
カケルノにいる人形使いを思い浮かべて安心する。あの子で大丈夫なら、マイカなら余裕だろ。
「そうか、なら安心だ。でも、もしいじめられたりしたら俺に言えよ? ぶっ飛ばしてやるからな」
「大丈夫だって。ったく、もし親がいたらあんたみたいな感じなのかな?」
親がいないマイカにとっては、家族のこんな当たり前のことすら知らないんだよな。照れ臭そうに笑うマイカが愛おしくてたまらない。
しっかりと抱きしめて頭を撫でる。
なんだ? 一瞬マイカの身体が淡く光ったような気がした。
「俺はいつでも待ってるからな。変な男に引っかかるなよ?」
「ば、馬鹿野郎! 俺はカケルさん以外……って何言わせんだよ!?」
「……ロリコン先輩、自覚無いみたいだけど、それ完全に口説いてるから」
美琴の痛烈な指摘に我に返る。そうだった。俺はロリコンではない。オールラウンダーだ。
「これは入学祝いだ。使ってくれ」
限界までスキル付与したネックレスと、マイカ専用の短剣、そしてアンダーウェア。
下着ではない、アンダーウェアだ。間違えないで欲しい。変態になってしまうから。
「あ、ありがとう……」
おや? 少し残念そうなのはなぜだ?
「んふふ〜、大丈夫だよマイカ。ロリコン貴方様は、成人したらきっと指輪くれるから!」
「サラさん、ち、違っ、そんなこと思ってねええ!?」
「そうだな……ロリコン駆は、期待を裏切らない」
………サラ、刹那、お前らロリコン言いたいだけだろ!?
ありがとな、カケルさん。あんたが俺を助けてくれなかったら、今頃どうなっていたかわかんねえ。
本当は、いますぐそこへ行きたい、飛び込みたい。でも足んねえんだよ。
カケルさんの周りはすごい人たちばかり。きっとカケルさんなら、そんなこと気にするなっていうだろうけど、俺が気にするんだよ。
自信を持って隣に立ちたい。カケルさんの役に立ちたいんだ。
だから……ちょっとだけ待っててくれよな?
でも、その間にまた婚約者が増えてそうな気も……いや絶対増えてる。
ははっ、でもそんなの今更か。
好きになっちまったんだから仕方ねえ。
覚悟しろよ、もっと魅力的になって離れられないようにしてやるからな。
***
しかし、さっきのは一体なんだったんだ? マイカのステータスに追加された【カケルの保護】とかいう意味不明の称号? みたいなやつ。あとでミコトさんかイリゼ様に聞いてみよう。
明日は、いよいよ王都へ行く。俺はミヤビさんと一緒に王さまに会い、魔人帝国との条約締結に向けた話をしなければならない。他のみんなは、今日稼いだお金で王都で買い物ツアーをするらしい。
アルカリーゼが加われば、目指す国際条約もより実効性が増すだろう。はやく平和な状態を取り戻して、復興をすすめたい。俺の力が役に立つのなら、喜んで働くつもりだ。
セレスティーナたちをイリゼスに迎えに行くまでもう少し時間がある。
婚約者たちは、バドルの街へ買い物ツアーするらしいので、俺は神殿に向かう。
『あら、カケルくん。最近は良く逢いに来てくれて嬉しいわ』
先日の一件から、イリゼ様の魅力はさらに増している。距離も近い。なんならすでに抱き合っている。
俺でなかったら死んでいるであろう、神撃の魅了だ。
「お忙しいのにすいませんイリゼ様。それで――――」
『カケルくんが使った保護の力のことでしょ?』
「はい。あれは一体?」
『……簡単にいえば、カケルくんが進化したのよ』
『進化』 イリゼの口から飛び出した意外な言葉にしばし呆然とするカケルであった。