スタンピードの後に
「ば、馬鹿な……この俺が50体しか倒せなかっただと……」
愕然とする守護者ジャミール。とはいえ金貨50枚は500万円相当となり、常人の年収以上なのだから十分と言えば十分かもしれないが、500はいけると思っていただけに落胆は大きい。
「ジャミール、俺なんか30体だぞ? マジで自信なくすわ……」
ウサミミのサブリーダー、アーロンがぼやく。
「情けないわね、私なんか3000体よ? ふふふ、これがS級とA級の差なんじゃないの?」
「ソフィア、お前のは全部アンデッドだろ? 神聖魔法は反則だ!!」
「しかし、カケル殿と勇者様は別格として、他のメンバーも化物ぞろいだからな。ジャミールじゃないが、自信無くしそうだよ。まあたっぷり稼がせてもらったけどね」
守護者のリーダーでS級冒険者のヴァレンティノも苦笑いしている。
「先輩、終わったね」
「ああ、終わったな」
胸に飛び込んでくる美琴を受け止め抱きしめる。こんな細い体であんなすごい戦いが出来るんだもんな……あ、それは俺も一緒か。
「ねえ先輩、みんなが来る前にキスして欲しいな」
そんな可愛いおねだり、断れるだろうか? 否!!!
「美琴……」
「先輩……」
『カケル……』
キスの直前に美琴と入れ替わるミコト。
(み、ミコトさん!? 戻ってたんですか? あれ? あああああ私のキスが……)
(ん? あれ? この感触はミコトさん?)
「ミコトさん! 心配したんですよ? 急に消えちゃうから」
「先輩……今は美琴だよ! それよりも早くもう1回!」
ずいぶん忙しいな。よしもう一度――――
「旦那様~」
「御主兄様~」
「貴方様~」
「ダーリン」
「残念、時間切れだな美琴」
「ええええええぇぇ!? そんなああああ!?」
美琴の絶叫がむなしく響き渡る。
「みんなお疲れ様、思ったより早く終わったな」
「貴方様のせいで緊張感無かったわよ?」
「そこはせめておかげって言わないと、シルフィ」
サラが呆れたように苦笑いする。
「でも私の騎士のおかげで、バドルの街は救われたんだからね。これは歴史に残る偉業よ」
「ふふっ、旦那様と一緒にいると感覚がおかしくなってくるぞ」
「さすがは御主兄様です」
「さすがはお兄様です」
俺はなによりみんなが無事で良かったよ。
『黒影殿……ダンジョンから誰か来るぞ』
談笑しているとカイがいち早く察知して耳打ちしてくる。
「大丈夫だ、カイ。どうやら知り合いみたいだから」
「やあやあ、ミスターカケル! お見事だったね。こんなに早くスタンピードを抑え込むとは正直驚いたよ」
やってきたのはここのダンジョンのダンジョンマスターの増太郎さん。
彼の正確な情報提供がなければ、ここまで簡単には行かなかっただろうから、偶然彼と出会えた幸運に感謝しかない。
「こんにちは、増太郎さん。おかげで街も守れましたし、こちらも仲間を強化出来ましたからね」
「うんうん、これでダンジョンもすっかり綺麗になったし、当分の間は心配ないね。お互いにお疲れ様だよ」
増太郎さんも嬉しそうに笑う。少しは溜まったストレスが解消できているといいけど。
「増太郎さんはこれから街へ?」
「ノー、ミスターカケルを呼びに来たのですよ」
「俺を?」
「ミスターカケル。申し訳ないのですが、一緒にダンジョンに来てください。ただしひとりで。同行は認めません」
「ねえねえ、この劣化先輩って誰?」
美琴が失礼なことをおっしゃる。え? 劣化先輩ってなんだよ、全然似てないよね?
「御主兄様、この偽御主兄様は何者ですか? 生き物の匂いがしないのですが」
クロエ……目が腐ってるのか? 男っていう共通点しかないと思うんだが。
「お、お姉さま、気を抜くとどちらが本物の旦那様かわからなくなるんだが……」
「セレスティーナ、髪よ! 髪の色が違うわ」
2人とも本気で凹むんだけど!? わざとだよね!? わざとだって言ってくれ!?
『ふふっ、皆さまそれでも婚約者を名乗れるのですか? ね、主様?』
ソニア……それ増田郎さんだぞ。
「ダーリン、大丈夫じゃ、妾は血の匂いで判別できるからの!」
逆に匂い以外じゃ判別出来ないのかよエヴァ!?
シルフィとサラに助けを求めたら視線を逸らされた!?
え……ひょっとして俺の目がおかしい可能性が?
もう一度、増田郎さんをじっくり見てみる。
駄目だ……目と鼻の穴が2つ、口が1つあるぐらいしか共通点が無いよ!?
「ま、増田郎さん、俺たちそんなに似てますかね?」
藁にもすがる思いで増太郎さんにたずねる。
「私とミスターカケルが似ている? ああ、それは私に搭載されている認識調整機能のせいだね」
「認識調整機能?」
「私の姿が、見た人間の理想像に見えるようにする機能だよ。好感度と第一印象が段違いに良くなるからね! 正体を隠す目的もあるけれど」
へ? てことは……
「ははははは♪ じゃあみんな、ちょっとダンジョンに行ってくるから後はよろしく!」
「「「「「「なぜ急にご機嫌!?」」」」」」
(ふふっ、可愛いですお兄様)




