魔人たちの暗闘
『ぐわぁあああああっ!!?』
フォースが力尽きて倒れる。
『くそっ、一体どうなっているんだ?』
即座に復活したフォースが呻く。
(そろそろ不意討ちも限界かな……)
復活したフォースを遠くから見つめるゼロ。
(単純な格闘タイプのセブンと違ってフォースは魔魅了があるから厄介なんだよね……)
この任務にあたってゼロはセブンを暗殺して入れ替わっていた。
『エルゼ、頼むよ』
『はっ、お任せ下さい』
エルゼのスキル『イリュージョン』によって、フォースは幻の敵と戦っている。
当然、幻に魔魅了は効かない。その代わり攻撃力も無いが。
そして――――
『オールゼロ』
ゼロの必殺スキル【オールゼロ】
気配ゼロ、時間ゼロ、音もゼロ、魔力ゼロで相手との距離をゼロにする察知不可能対処不可能の必殺の一撃。
音も無く接近し、猛毒の針を撃ち込みエルゼの元にオールゼロで戻る。
フォースは何をされたのか分からないまま、毒が回り絶命する。
非常に高い集中力が必要で、隙が大きくなるため、サポート役が必要になるのが難点だが。
その作業を何度も繰り返しフォースの命を確実に削ってゆく。
『ふ、ふざけるなあああああっ!!!』
寿命を一部犠牲にすることで倍の力を引き出す瘴気開放。
爆発的な衝撃波があたり一帯を吹き飛ばし、逃げ切れなかったエルゼがついに見つかってしまう。
『…………貴様、確かセブンの部下だったな?』
『…………』
重症を負い動けないエルゼをフォースが大剣で貫きとどめを刺す。
『出て来い!! 隠れても無駄だぞ、セブン』
『ぐっ!?』
背中に痛みを感じた時には毒が回っていた。
『チッ、ちょこまかと卑怯者が!』
復活したフォースがニヤリと笑う。
『この女の生命核に爆裂の魔刻印を刻んだ。解除は俺にしか出来ないのは分かってるだろ?』
『だ、駄目です! ぐはっ!?』
エルゼが声をあげようとするが喉に大剣が突き刺さる。
『黙ってろ。お前が出てきて正々堂々戦うなら解除してやる。出て来いセブン!!!』
するとようやくセブンが姿を現す。
『はっ、やはりお前だったのか! なぜ裏切った? いや違うか、どうせ四魔王の地位が狙いだろ? だが貴様ごときが俺を倒せると思うなよ』
セブンに一度も負けたことがないフォースには、まともに戦えば絶対に勝てるという確信があった。
『フォース、一度お前とは本気で戦いたいと思っていたんだ』
(魔刻印は術者が死ねば永続的に執行保留状態となる。解除は出来ないが、エルゼを助けるにはそれしかない)
『安心しろ。お前が正々堂々戦うなら魔刻印を発動させたりしない』
魔魅了とかいう反則技を使うくせに正々堂々も無いと思うが、確かにフォースは発動しないだろう。エルゼを殺してしまったら、自分を守る盾も同時に無くなってしまうのだから。
つまり、正々堂々と倒せば全て解決だね。
『行くぞセブン。魔魅了!』
フォースが魔魅了を使いながら大剣を振り下ろす。
『ぐっ、ぐはっ!?』
フォースの心臓をセブンのレイピアが貫く。
どうせ動けないと油断しているからそうなる。
私には魔魅了は効かないんだよ。
だって私の魔力はゼロだからね。
『な、なぜ魔魅了が効かないんだ!?』
『さぁ? そんな小細工に頼らないで正々堂々かかってきなよ!!』
『ククッ、面白い! 勝負だセブン!!!』
『はぁ、はぁ、俺の負けだセブン……お前、本当は強かったんだな……お前なら魔王に……なれるかもしれない』
魔王か……私は魔王にもナンバーズにも興味が無い。
魔力を持たない忌み子として生まれ、処分される運命だった私を助けて下さったアリーセ殿下。
忌み子を匿っていると知られれば殿下に迷惑がかかる。だが、幸い私にはメタモルフォーゼという変身スキルがあった。
変身スキルを使い殿下の敵を排除し続けるうちに、いつしか私は自分の名前を忘れてしまった。自分の顔も忘れてしまった。
メタモルフォーゼは使うたびに自分自身の記憶を喰らうのだ。
魔力が無い私には、それを代償にするしかなかったから。
でも後悔は無い。どうせろくでもない記憶など消えた方が良かった。
アリーセ殿下のお役に立つことだけ覚えていればそれで良い。
『フォース、約束通り魔刻印を解除してもらおうか』
『ああ…………分かった……ガッぐわぁあああああ!?』
突然フォースが苦しみ出す。
『あ、あれは魔刻印!?』
フォースの生命核に刻まれた文字が浮かび上がる。
『…………魔王化…………だと?』
聞いたことが無い魔刻印だ。嫌な予感がする。
『あああああっ!?』
エルゼが叫び声を上げ苦しみ出す。
『くっ、エルゼの魔刻印が発動したのか……』
血が出るほど歯を食いしばる。
アリーセ殿下……申し訳ございません。殿下の大切なソニアに続きエルゼまで。
『フォース……すでに正気を失っているようだな…………予定通り死んでもらうぞ!』
お前だけでも消さなければ、何のためにエルゼが…………
『はぁ、はぁ……馬鹿な、毒も効かないのか!?』
正確には、毒針が刺さらないのだが、効かないのであれば同じことだ。
魔王化したフォースがエルゼを殺そうと接近する。
『……ぜ、ゼロ様……逃げて下さい! 私はもう助かりません』
『諦めるな、一緒に逃げるぞ。ソニアを捜しに行く約束だからな』
エルゼを担ぎ必死に逃げるゼロ。もちろん助けるあてなど無いが。アリーセならば何か助ける方法を知っているかもしれない。
だが――――
『フヒュー、フヒュー、シネ……』
魔王化したことにより数倍に膨れ上がった力が衝撃波となって後ろから襲いかかってくる。
『や、やめろ!? エルゼ!!』
最後の力を振り絞りゼロの前に立ちふさがるエルゼ。
『アリーセ殿下をどうか…………』
『エルゼえええぇっ!?』
圧倒的な破壊の衝撃はそんな想いすら呑み込みゼロの身体を小枝のようにへし折――――らなかった。
「アリーセ殿下はとても愛されているんだな。ソニアの言うとおりだった」
ゼロをそしてエルゼを庇うように立ちふさがる黒い影。
見た事もないような巨大な武器を持ち不吉なローブを纏った黒髪の青年。
今、この男はなんと言ったのか? アリーセ殿下とソニアと確かにそう言った。
「遅くなって悪かったな。主役は遅れてくると決まっているんでね」




