すべては死神の掌の上で
〜神界〜
『あ〜、ミコちんどうしたの〜? って、痛い、痛い!?』
抱き着こうとしたイリゼの手首を掴み捻るミコト。
『イリゼ……私に言って無いことあるでしょ?』
『…………はい、ごめんなさい』
ミコトの絶対零度の視線に耐え切れずあっさり認めるイリゼ。
『あのフォースとかいう魔人から邪神気を感じた……いるの?』
『うん、私の世界に逃げ込んだのは間違いないんだけど、全然尻尾を出さないから困ってたのよ。ミコちんが痕跡を見つけてくれてラッキーだったわ! って痛い、痛い!?』
『……だからあんなに協力的だったの……親友だからだと思ってたのに……』
『へ? い、いや違うから!? あれはミコちんに脅されて仕方無く……えっ? ちょっ、ミコちん泣かないで!?、違わないから!! あれは友情100%だからね!?』
『…………本当?』
『うんうん、神様嘘つけない! 黙ってたのは休暇の邪魔したくなかっただけだから』
『ふーん、で、誰?』
『……深海幻。元勇者で神になり損ねた男よ』
『イリゼ…………それって……』
『そうよ、私が初めて送り込んだ勇者ね……一応別口で手を打ってるけど、カケルくんや美琴に暴れてもらえば尻尾を出すかな〜って』
『そう……全部計算通り?』
『そんな訳ないでしょ、幻のことも、世界のことも、それに………』
(私の気持ちだって……思い通りにならないんだから)
『……イリゼ……今、カケルのこと考えたね?』
『ギクッ!?』
『フフフ、大丈夫。カケルはイリゼのこともちゃんと好きだから……私の次ぐらいに』
『ふぇっ!? じ、じゃあ、そ、そそそ、相思相愛ってこと? こ、困ったわね……人間と神は結婚出来ないのよね……』
顔を真っ赤に染めてワタワタしているイリゼ。
『イリゼ…………貴女ポンコツにも程がある。なんの為に私がカケルを送り込んだのか忘れたの?』
『あ…………そうだったわね』
『全く……イリゼは昔からそういうところ、変わってない……でも大好き……』
『へ? エヘ、エヘへへ。わ、私もミコちんが大好きよ。よし、カケルくんが早く神になれるように私が……んふふ♡』
(そういうチョロいところも大好きよイリゼ)
***
セントレアの王宮に集まったのは、宰相のベルダー、近衛騎士団副団長ネスタ、七聖剣からは、第一王女で七聖剣筆頭ユスティティア、サクラの兄クヌギ、トーレス、エストレジャの4人。さらにサクラ、セレスティーナ、カケルだ。
現状でのアストレア首脳陣が集まった形だ。
「……ということは、国王陛下以下、王族の方々は生きている可能性があると言うことですね? トーレスさん」
「その通りだカケル殿。七聖剣が3人も付いていて全滅は考え難い。クリスタリアの何処かに避難していると考えるのが自然だな」
クリスタリア……クラウディアの母国だな。
彼女の泣き顔が鮮明に浮かぶ。
「セレスティーナ……何故教えてくれなかったんだ?」
「か、カケル殿、それは――――」
「トーレス! 構わん。旦那様……私がトーレスに黙っているように頼んだのだ」
「でもセレスティーナ、もし分かっていれば、もっと早くお前の家族を助けることが出来たかもしれないんだぞ?」
「ああ、だがその為に救える命が救えなくなっては本末転倒だ。国民あってこそのアストレアだからな。それに七聖剣を3人も連れて行くなど国王として言語道断! もうひとり七聖剣が残っていれば、状況が変わったかもしれなかったのだ。無事に会えたら父上を一発殴ってやる……」
ああ……そうだよな……セレスティーナはそうだった。
いつだって正しくて、強く気高く美しいんだ。全部ひとりで背負って自分のことは後回し。そんなお前だから――――
「ふぇっ!? だ、旦那様?」
セレスティーナを抱きしめる。言葉にならない想いを込めて。
「セレスティーナ……ごめんな。余計な事を聞いちまった。だけど忘れないでくれ。俺はセレスティーナのためなら何でも出来るし、もっと強くなれるんだからな」
「だ、旦那様…………好き、大好きです……お願い……キスしたいの」
「え……今? せ、セレスティーナ、ほら周りを見ろ」
「へ? 周り? あわわわわ………わ、私は何も言って無いぞ!? そ、そうだなトーレス!」
「へ? は、はいっ、私は何も聞いておりませんし、何も見ておりません!」
他のメンバーも口笛を吹いて誤魔化してくれている。異世界も口笛吹くのね……
サクラとユスティティアはちょっとむくれてるけど、みんな優しい人たちばっかりだよな。
***
「では、明日イーストレアを奪還しましょう」
話し合いの結果、明日イーストレアを奪還することが決定した。
アストレアの復興の為にもイーストレアは不可欠だし、クリスタリア他、東諸国にも近い。
今後の捜索拠点として是非とも押さえておきたい。
避難用シェルターの利用もイーストレアの近くで複数箇所確認出来ており、こちらも救助に向かわなくてはならない。
魔人帝国先遣隊の最後の拠点でもあるし、早期に潰すことに異論はあがらなかった。
アストレアが終わればいよいよクロエやクラウディアたちの国にも手が届くようになる。
3日後のスタンピードまでには終わらせたい。一層想いを強くするカケルだった。




