14 南の森の角ウサギ
「カケル様、前方に角ウサギです」
森から白いモフモフが飛び出してくる。距離500メートル、太った羊サイズの角ウサギが4匹、実際に見ると思ったよりでかい。
額に生えた角はオレンジ色で、まるで人参だ。跳ねながらこちらへ向かってくるが、スピードは大したことはないが着地するたびに土煙が舞っているので、重量はそれなりにあるのだろう。
『跳躍を記憶しました』
跳躍:高く飛び跳ねることが出来るスキル。高さと距離はレベルによって変化する
鑑定スキルによって、記憶したスキルの詳細が表示されるようになっている。
実は、俺の瞬間記憶と鑑定スキルは相性抜群で、まるで高速連写のように連続鑑定が出来る。
そのおかげでプリメーラの街では買い物巡りをしている間に1万人近い鑑定をすることが出来てしまい、その結果、鑑定スキルレベルがカンストしてしまった。
それによって、見えてきた事、確認したい事が沢山でてきたのだが、今は角ウサギに集中しよう。
【種 族】 角ウサギ
【年 齢】 1
【状 態】 空腹
【レベル】 2
【体 力】 9
【魔 力】 0
【攻撃力】 8
【耐久力】 7
【素早さ】 19
【知 力】 1
【スキル】 跳躍<1>
角ウサギ弱っ、たぶん手加減しないと肉片になっちゃうな……それよりもこいつら、
「クロエ、角ウサギって思ったより可愛いな。飼ったりできないのか?」
「……無理です。気性が荒く、人には懐きませんから。どうしてもというのなら、愛でながら倒せばいいのでは?」
クロエは呆れ声で、斬新な提案をしてくる。
「愛でた後に殺すとか、精神的に難易度高いな……仕方がない、個人的な恨みはないが、俺たちの昼食になってもらう――来い、デスサイズ」
空中の魔法陣から長さ2メートル、刃渡り2メートル近い禍々しい死神の鎌が出現し、そのまま俺の手におさまる。
クロエは、突然のことに理解が追いつかないようで、息を呑んだまま唖然としている。そんなクロエもやはり可愛い。
「あ、あのっ! 御主人様? それは一体……」
あっ、そういや説明してなかったな……
「クロエ、これが俺の専用武器デスサイズだ。自由に召喚できるから便利だぞ」
「そ、そうですか……さすが、御主人様です。見たことがない武器ですが、異世界の武器なのでしょうか?」
理解が早い……もう動揺の色は残っていないようだな。
「まあ、そんなところだ。使い方は……見た方が早いな」
デスサイズに魔力を流すと、まるで血管のように赤黒い紋様が浮かび上がり鈍い光を放ち始める。
まずは、切れ味を確かめてみるか……
飛びかかってきた角ウサギをデスサイズで下から斬り上げると綺麗に真っ二つになる。ヤバいなこれ、まったく手応えがなかった……
身体強化した俺にとって、角ウサギなど止まっているも同然。そのまま連続で、残り3匹も真っ二つにする。手応えがなさ過ぎて比較にならないのが残念だ。
「どうだ、クロエ。すごい切れ味だろ」
クロエは苦笑いを浮かべながら、
「あの、大変申し上げにくいのですが、毛皮を売るのでしたら真っ二つはまずいのでは……」
と指摘されてしまった。ま、まあ、今のは斬れ味の実験だから……
「あ……悪い。クロエに格好良いところを見せようと張り切りすぎた」
嘘ではないが、多少の照れ隠しで思わずそんなことを言ってしまう。
「えっ……あ、あの、と、とても……格好……良かった……です、よ」
あの……そんなに照れながら言われるとかえって恥ずかしいんだけど。クロエさん。
次からは、なるべく毛皮を傷つけないようにしようと心の中で誓う。
そうそう、忘れないうちに、角ウサギの魂を吸収しておかないとな。
デスサイズを振るっていると、クロエが不思議そうに首をかしげる。
「御主人様、今、何をされていたんですか?」
「ああ、角ウサギの魂をデスサイズで吸収していたんだ。魂を集めることで、俺自身と、このデスサイズ強化することができるからな。そうか……クロエには見えないのか」
「はい、残念ながら私には、その魂というのは見えないようです。でも、御主人様は他人より早く成長できる手段を持っているということですね。さすがです」
クロエは、興奮して耳としっぽをブルブル震わせている。
「まあ、一刻も早く強くなりたいからな。それより、お腹空いたろ?ウサギ肉食べてみようか」
「っ! はいっ、食べましょう。早く食べましょう」
しっぽをぶんぶん振りながら目を輝かせるクロエ……ごめんな。お腹空いてたんだね。そういえば、串焼きも買い忘れてたし。
解体用ナイフで角ウサギを手早く解体し、肉は食べやすいサイズにカットして塩コショウでシンプルに味付けをする。料理スキルをフルに使い、内臓と血を使ったソーセージもついでに作る。
「御主人様~! 火の準備ができました」
クロエが、しっぽをぶんぶん振りながら手を振っている。……器用だな、クロエ。
リュックから鉄板を取り出し、しっかりと固定する。熱くなった鉄板でカット肉とソーセージをじゃんじゃん焼いていくと、香ばしい肉の焼けるにおいが辺りに漂い始め、食欲をこれでもかと刺激する。
もう我慢できない。クロエとアイコンタクトで会話する。
「「いただきます」」 二人同時にかぶりつく。
う、旨い。弾力のある歯ごたえに噛むほど溢れ出してくる肉汁。もっと癖のある味かと思っていたが、予想外に食べやすい。異常なほど唾液が分泌されて、胃袋が喜びに震えている。
クロエも、恍惚の表情を浮かべながら無心で肉とソーセージを食べ続けている。本当に美味しいと言葉少なくなるものだ。
「ご、御主人様……私、こんなに美味しい角ウサギ肉、初めて食べました。このソーセージも絶品です」
素材も良かったが、料理スキルも大いに役立ってくれた。喜んでもらえて何よりだ。
「料理まで出来るなんて、さすがです御主人様!」
……そういえば、いつの間にか御主人様呼びに変わってるな。まあ悪い気はしないから別にいいけど。
食後に神水を飲ませたら、また「さすがです御主人様」って言われた。美味いもんな神水。
「余った分はリュックに入れておけばいいのですから、私も狩りに参加いたします」
後片付けをしていると、クロエがやる気満々に告げてくる。随分とお気に召したようで。
***
「はぁっ!」
鋭い掛け声とともに角ウサギが次々と絶命していく。
クロエの武器は銀色のレイピアだ。得意のスピードを生かした攻撃で、おそらく今の俺では躱すことはおろか、視力強化なしでは視認することすら難しいだろう。
当然、こちらも負けてはいられない。毛皮を傷つけないようにデスサイズの柄の部分で倒してゆく。
『レベルが上がりました』
やっとレベルが上がった。角ウサギ程度じゃなかなか上がらなくなってきたな。森の中にもっと強い魔物がいるといいんだが。
「クロエ、そろそろ森の中の調査に入ろう」
クロエがホクホク顔で角ウサギを運んでくる。
一見、美少女が可愛らしい大きなウサギを抱きしめているメルヘンな絵面なんだが、クロエが抱きしめているのは死体だ。うん、シュールだな。
二人で倒した角ウサギをリュックにしまい、いよいよ森の中へ入る。
さあ、鬼が出るか蛇が出るか。ワクワクしてきた。




