既成事実
『お疲れ様でした、王様!』
『王よ、安心しろ。こちらに向かってきた魔人と魔物はすべて倒したぞ』
リース郊外に戻ると嬉しそうにツバサとスズカゼが抱きついてくる。
どうやらこちらの戦闘は終わっているようだ。
「みんなお疲れ様。一度契約更新するからスケッチブックに戻ってくれ」
他の魔物たちが戻っていく中、ツバサとハーピィたちは戻らない。
理由は分かっている。
「頑張ってくれたご褒美をあげないとな。順番に並んでくれ」
ずらりと並んだ色とりどりの美女たち。
みんな頬を紅潮させ目を潤ませながら俺を見つめているのだ。まさに天国、男の夢がここにはある。
いつも思うけど、これって俺のご褒美だよね? 教えて下さい女神様……?
(……知らないわよ! 私にそんなこと聞いてる暇があったら、私にもご褒美ちょうだい)
何か聞こえたような気もするがきっと気のせいだろう。
ハーピィたちは、みな色も違えば、性格も違う。
今回の戦いの前に、ハーピィたち全員分の指輪を作って渡した。
装備品として渡すつもりだったけど、全員が泣いて喜んでくれたので、結果的にほとんど婚約指輪と変わらなくなってしまった。
そもそも召喚契約って結婚以上の関係かも知れないしな……
一気に婚約者が百人越えしちゃったんだけど、俺ってひょっとすると馬鹿なのかもしれない。いや馬鹿なんだろうきっと。
でも、馬鹿は馬鹿なりに主として、ちゃんと全員と向き合って行くつもりだ。
そして最後はハーピィクィーンのツバサだ。
『お疲れだったな王よ』
「ああ、色々あって疲れたよ。でもツバサが居てくれたから、セントレアに集中できたんだ。ありがとう」
『ふむ……少し雰囲気が変わったか? また良い男になりおって……これ以上惚れさせないでくれないか? 切なくてつらい』
ツバサが首に手をまわして抱きついてくる。
潤んだ瞳が愛おしくて、強く抱きしめ少し長めのキスをした。
***
リースに戻り仲間と合流する。
「御主兄様~!」
「「貴方様~!」」
「ダーリン!」
「主様~!」
クロエ、シルフィ、サラ、エヴァ、ソニアたち黒の死神のパーティメンバーが真っ先に駆けつけてくる。
無事なのはわかっていたけど、やっぱり顔を見ると安心するよな。
「カケルくん!」
「カケルっち!」
「カケル!」
続いてカタリナさん、セシリアさんとウサネコパーティのみんなが笑顔でやってくる。
セントレアを奪還したことはすでに伝えていたので、みんな本当に嬉しそうだ。
***
当面の危機は去ったものの、ガーランド国内は度重なる魔物の襲撃でかなり疲弊している。
シルフィとサラはこのままガーランドに残って復興の手伝いをすることになった。
そしてクロエ、エヴァ、ソニアとカタリナさん、セシリアさんとウサネコパーティのみんなは、一緒にセントレアへ行き、街の復興を手伝ってくれる。
「じゃあシルフィ、サラ、セントレアが一段落したら戻ってくる。そうしたら一緒に王都に行こうな」
「貴方様には助けられてばかりね。大丈夫よ! サラと2人で待ってるから。ユスティティアたちを助けてあげてね」
「貴方様、ボクたちに逢いたくなったら、いつでも待ってるからね」
健気な2人がたまらなく愛しい。
「シルフィ、サラ、抱きしめても良いか?」
「ふぇっ!? な、な、突然何よ! べ、別に良いけど……」
「ふふっ、もう淋しくなったのかな? 困った貴方様。良いよ、来て!」
真っ赤になりながら両手を広げるシルフィと妖艶に微笑むサラ。
「ありがとう。離れる前に2人の匂いと温もりを感じておきたかったんだ」
2人を抱きしめて思う存分愛でる。
「バカね……何処にも行ったりしないわよ」
「んふふ……困ったな。ボクも貴方様の匂いと温もり大好きだよ。離れられなくなっちゃう」
まあ、明日も普通に会うんですけどね。
シルフィとサラに別れを告げ、セントレアの冒険者ギルドに移動する。
「黒髪の王子さま〜!」
「カケル!」
ギルドにはソフィアたちS級冒険者パーティ守護者の皆さんがすでに待っていて、真っ先に姫が抱きついてくる。
「遅いじゃない、待ちくたびれたわよ?」
「ゴメンな姫、待たせちゃったな」
「「「「……姫?」」」」
「御主兄様……また何処ぞの姫を攫って来たんですか?」
「まったくじゃ、ダーリンはお姫様を集めるのが趣味じゃからな……」
「いやいや、クロエ、エヴァ。ソフィアはお姫様じゃなくて、S級冒険者で次代の聖女様だぞ」
「「「「せ、聖女さま!?」」」」
この世界で聖女はたったひとりだけ。
ある意味で国王よりも権威がある存在だ。みんなが驚くのも無理はない。
「カケルくん……さすがに聖女さまは不味いわ、早く返して来なさい」
いや、カタリナさん返すって犬じゃないんですから
「そうだぜ、カケルっち。私と被ってるから返した方が良い」
セシリアさん……確かにソフィアの桜色の髪と瞳は、貴女とやや被ってますけど返すって誰に?
「むぅ……黙って聞いていれば勝手なことを! 私は絶〜〜対に離れませんからね!! 黒髪の王子さまは、私の運命の人なんです。婚約指輪だってほら」
ムキになり指輪を見せて反撃するソフィア。
「でもソフィア……聖女って生涯独身でいなきゃならないんだろ?」
ジャミールが無慈悲なツッコミを入れる。
「ふふふ、大丈夫よ! なんたって女神さまが授けてくれた秘策があるから!!」
ん? 女神さまってまさかね……
「な、何だよ秘策って?」
「バカねジャミール。秘密だから秘策なんじゃないの……あ、でも黒髪の王子さまだけには教えてあげる」
顔を赤らめ耳元でささやくソフィア。
『あのね、女神さまが、既成事実作っちゃえば良いのよ、だって……今から……作りますか?』
雪のように白いソフィアの肌が髪と同じ桜色に染まる。
くっ、魔人共め、街がこんなんじゃなければ……
聖女と秘密の既成事実……作りたい、今すぐに!!!
しかし無情にも時間が無い。心を鬼にして前を向く。
「姫……次こそは必ず……」
「主様……なぜ泣いているのですか?」
「ソニア……気にしたら負けじゃ」
「御主兄様……私とも作りましょう既成事実!!」
クロエは鼻が利くが、耳も良かった。




