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眠り姫

 気が付くと私は元に戻っていた。


 指一本動かせない元の私に。


 あれは私の願望が見せた夢だったのだろうか……それにしてはあまりにもリアルで、具体的だった。



 もし女神様と出会ったことが本当で、全てが事実であったなら、この後私は救われる……はず?


 

 女神様によれば、カケルという異世界から来た青年が私を助けてくれるのだという。


 そういえば、いつとは言わなかったな……明日なのか数年後なのか……


 女神様に色々聞いたせいで、私までなんだかおかしい。


 信じられないぐらい強くて、優しくて、たくさんの女性を無自覚に口説きまくっている男の人。

 

 異世界の人々はみんな変わり者なんだと思っていたが、やはりカケルさんも例外ではないらしい。

 



 一体、どんな人なのかな? 私だって女の子だ。王子様願望はもちろんある。


 こう見えて読書好きなのだ。当然、異世界の英雄譚はすべて読破している。




 私は、とても珍しいスキルを持って生まれた。


 【聖女】というとんでもなく希少なスキルだ。


 私が聖女を持つことがわかると、すぐに神殿関係者が私の住む田舎町へやってきた。


 なんでも、聖女のスキルをもつものは、女神様から直接お言葉を授かる事ができるらしく、私は聖女になる資格があるのだという。


 

 ど田舎の町娘である私でも知っている聖女様。


 全世界の女神教の象徴であり、憧れの存在だ。私が聖女になれると言われても正直ピンとこなかった。


 

 現聖女様はご高齢のため、神殿庁は次代の聖女を血眼になって捜していたのだとか。


 喜びに沸く両親や町の人たち、神殿関係者。



 ……あれ? 私、聖女にならなきゃいけないの?


 違う、私は聖女になんかなりたくない。


 

 私がなりたかったのは――――



 結局、私は幼馴染のジャミールと一緒にヴァレンティノさんの冒険者パーティに入れてもらった。


 冒険者になって世界を旅する夢を諦めたくなかったのだ。



 神殿庁も、渋々ながらではあるが、最終的に許可を出してくれた。


 ただし、現職の聖女が引退、もしくはお亡くなりになるまでという期限付きだが。


 幸いなことに、私たちは全員才能に恵まれており、あっという間にアストレア有数の冒険者パーティとなった。


 そして現在に至るわけだが……




 そうか……だから私、女神様とお話できたんだ……。今更ながらその事実に気づく。


 ずっと冒険者やってたから、聖女スキルのことなんてすっかり忘れていたのだ。





「俺は冒険者のカケル、助けに来ました」


 

 突然の声に我にかえる。


 え……もう来たの? ちょっと待って! まだ心の準備が……どうしよう、身体が動かないのに心がドキドキで破裂しそう……


 あ……良く考えたら、このシチュエーションって、あの『眠り姫』そっくりじゃない!!


 魔族の呪いによって永遠の眠りについた姫を、異世界の勇者様が熱いキスで起こすっていう胸熱の王道ストーリー。世界中の女の子が憧れる夢の展開そのものじゃないの!!

  

 

 きた、きたわ。ああ……大怪我してて良かった。いや良くないけど良かった。


 ごめんなさい女神様、意地が悪いなんて思ってしまって。まさかこんな展開が待ってるとは知らなくて――――って、あれ? なんか嫌な予感がする……そういえば女神様のお願いってたしか―――― 




『ぜんぜん大したことじゃないのよ、たまにでいいからちょっとだけ身体貸してくれればいいの』



 ――――っていってた。まさか……



『ソフィア、ちょっと身体借りるわね』



 い、いやぁぁぁぁぁぁ!? 


 

 ソフィアの魂の叫びがこだまするが、もちろん、誰にも聞こえない。文字通り魂の叫びだから。


 

***



「お、俺は助かったのか?」


 神水によって、ヴァレンティノさんが目を覚ました。やっぱり神水すげえ……


「あ、兄貴!? よ、良かった……本当に良かった」

「ジャミール……心配かけたな、ひとりで本当に良く頑張ったな……」


 涙ながらに抱き合う兄弟。いやあ本当に良かった。やばい、もらい泣きしそう。


「ヴァレンティノ、これでお互い戦えるな!」

「はい、ギルドマスター、これまでの鬱憤を奴らにぶつけてやりましょう!」


 がっちり握手するヴァレンティノさんとギルドマスター。その意気は天も突き破りそうだ。




 残るは……ソフィアさんだけど、一向に起き上がろうとしない。


 何か問題でもあったのだろうか? 


 ヴァレンティノさんたちも心配そうに見守っている。



「ソフィアさん、大丈夫ですか? どこか痛いところ、悪いところはありますか?」



「……黒髪の王子様、私のことはどうか姫と呼んで下さい……」


(はあっ!? なに言ってるんですか、女神様? 自分で姫とか恥ずかしいんですけど!? ジャミールたちが何言ってんのあいつみたいな目で見てるから!!)


「へ? あ、ああ、姫、立てますか?」


「……残念ながら、私には魔族の呪いがかけられているのです。身体の傷は癒えても、このまま永遠の眠りからは逃れられない運命なのです……」


(……だめだ、女神様、完全に役に入り込んでいらっしゃる)


「な、なんだって!? 魔族の呪いか……そんなものが、何か呪いを解く方法は無いのですか?」


(ないですよ、カケルさん、嘘です! 全部女神様のお芝居なんです~)


「……ひとつだけ方法があります。この世界の理から外れた存在、つまり異世界からきた男性のキスで呪いは解けるはずです。でも……無理ですよね。異世界人なんて滅多にいませんし?」


(……清々しいまでに完璧な設定じゃないですか……)


「姫……実は俺、異世界人なんです。これは運命なのでしょうか?」


(……カケルさん……まさかとは思いますけど、知っててやってません? この茶番)


「黒髪の王子様……これが運命で無くて何が運命だというのでしょうか?」


「姫……俺がその呪い解いて見せます」

「黒髪の王子様……嬉しい……さあ来てください」


(う、うわぁぁぁぁぁぁ!? は、恥ずかしいっ! 何この罰ゲーム。ジャミールそんな目で見ないで!?)



 カケルさんと女神様がキスしてる……って長いよ!? いつまでキスしてるの?


(え……何これ……感覚と感情が同調してきたの? だ、だめ……こんなの知らない……好きになっちゃう~) 


   


『ソフィア、ありがとね! すっごく楽しかったわ!! またよろしくね』


 大満足で帰ってゆく女神様。


 そして、取り残された私……なにこれ。


「ソフィア……お前、ずっと魔族の呪いに苦しんでたんだな……気づいてやれなくてごめん」


 ジャミール、や、やめて! 謝らないで!? 嘘なの! 全部お芝居だから!



「良かったですね、姫。無事呪いも解けたみたいで」


 い、いやぁぁぁぁぁぁ!? このままじゃ、私、自分を姫呼ばわりする痛い女じゃない!?

 

「あ、あのカケルさん?」

「なんですか? 姫」


 優しく微笑むカケルさん。


(ああ……これが無自覚に口説くってことか……うん、悪くないわ。しばらくはこのままで、ね)

 

 

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i566029
(作/秋の桜子さま)
― 新着の感想 ―
[一言] >このまま永遠の眠りからは逃れられない運命なのです 寝言は文字通り寝て言ってください(`・ω・´) >魔族の呪いか……そんなものが、何か呪いを解く方法は無いのですか? 神水ぶっかけりゃいい…
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