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黒髪の青年

「俺は冒険者のカケル、助けに来ました」


 

 そう言って微笑む青年にジャミールの緊張も霧散する。


 何故か分からないが、「助けに来ました」この言葉が嘘でも何でもなく、真実だと信じられたからだ。



「おい、カケルさん、助けに来たって本当かよ?」


「……カケルで良いよジャミール、同い年なんだからさ。助けに来たのは本当だよ」


「げっ、何で俺のこと!?  ちっ、鑑定持ちか……だけどあんたひとりで何が出来るんだよ」


 不満そうに吠えるジャミール。


 確かにいきなり現れて助けるって言われても、何言ってんの? ってなるよな。



「失礼、俺はこのセントレアの冒険者ギルドマスターのオスカルだ。君が只者でないことは分かるが、敵は強大で、この通り殆んどの戦力は戦える状態ではないんだ」 


 へぇ……これが元S級冒険者か……強いな。


 それにしてもセントレアも運が無かったな。ここに居るS級3人の内、誰かひとりでも無事だったなら、状況は違っていただろうに。



「はじめましてオスカルさん、A級冒険者でアルカリーゼ王国ワタノハラ子爵のカケルです。大丈夫ですよ、俺はひとりじゃないですし、戦力ならここに居るじゃないですか! さ、オスカルさん、まずはこれを飲んで下さい。怪我が治る霊薬ですよ」


 そう言って、黒髪の青年は不思議な器に満たされた霊薬を差し出した。


(怪我と言っても、俺の場合両方とも部位欠損だ。だが、少しでもマシになるなら飲んでみても損はないだろう……)


「ありがとう、いただくよ」


 霊薬を一気に飲み干すオスカル。迷いなど無い。これ以上状況が悪くなることなどないのだから。


「お、おおっ!? こ、これは……」 


 オスカルの全身が淡く輝きだし、失われた眼と片脚が再生されてゆく。


「す、すごい……本当に元通りに?」


「なんなら試してみますか? 思い切り打ち込んで来て良いですよ?」


 不敵に笑う黒髪の青年。


「いや……止めておこう。せっかく眼と片脚を取り戻したのに、自信を失っては意味がないからな」


 苦笑いするしかないな。この俺がここまで敵わないと思ったのは初めてだ。




「す、すげぇ!? お、おい、カケル! ひょっとしてそれなら兄貴たちを――――」


 一部始終を見ていたジャミールが目を輝かせている。


「ああ、そうだジャミール。俺はその為にここへ来たんだからな」



***



 いったいどれほどの時間が経っているのだろう。


 意識はある。


 でも身体が動かない。


 まるで私にはその権限が与えられていないかのように。


 指先ひとつ動かせない。



 おそらくは大怪我をしたのだろう。


 ポーションの治療のおかげで耳は聞こえるようになった。


 状況は最悪。


 ヴァレンティノも、オスカルさんも戦えない。


 まともに動けるのはジャミールだけ。


 あいつは確かに強いけど、この状況を変えるには全てが足りない。


 悔しいな……私が動ければみんなを助けられたのに……神様は本当に意地が悪い。




 あれ? 身体が動く?


 気が付くと私は何も無い白い空間にいた。


 そうか……私は死んだのか。


 なんと呆気ない。


 まだ……まだ何も成し遂げていないというのに



『良かったらお茶でも飲んでいかない?』



 突然背後から声をかけられ、反射的に振り向き戦闘態勢に入る。


 この私が全く気配を察知出来なかった?


 いや、私はすでに死んでいるのだった。気配などあるはずもない。


「え……何これ……」


 振り返ると、そこはオシャレなカフェで、テーブルでは虹色の輝きを放つ絶世の美女がお茶を飲んでいた。


『そこに座って、いまお茶を入れてあげるから』


 謎の美女に言われるまま席につきお茶を飲む。


「お、美味しい!? すごく美味しいです!」


『でしょ! 私、お茶だけは自信あるのよ』


 自慢げに胸を張る謎の美女。


 あり得ないほどの透明感と現実感がないほど美しい造形。きっと女神様に違いない。


 あまりにも美し過ぎて見惚れてしまう。



「あ、あの……私はやはり死んだのでしょうか?」


『いいえ、あなたはまだ生きているわ、ソフィア』


「え……それではここは一体?」


『細かいことは気にしないの! それより……貴女が聞き捨てならないことを言ったから呼んだのよ』


 げっ、さっきの意地が悪いを聞かれてたんだ……やっぱりこの方が女神様――――


『私が意地悪している訳じゃないのよ? 私はこの世界全てに対して公平なだけなの。分かった?』


「は、はい! 申し訳ございませんでした!!!」


『……分かってくれれば良いのよ。本当なら不敬罪で存在ごと抹消するんだけど、今回は見逃してあげる。その代わりお願いがあるんだけど……』


 いたずらっぽく微笑む女神様がこわい……




「――――そんなことでしたら、私は構いませんけど……」


 目的も意味も分からないが、女神様のお願いごとに特に問題はなさそうなので了承する。というより了承するしかない。

 

『そう、ありがとうソフィア! ふふふ、これで念願の…………』


 なんか女神様がぶつぶつ言ってるけど、気にしないようにしよう。




『それでね、聞いてよソフィア!』



 その後、異世界からきたカケルという青年のことを散々聞かされた……。


 え……なんか勇者とか色々重要なこと聞いちゃったんだけど……殺されちゃうの? 消されちゃうの私!?


 でも……一生懸命話す女神様がかわいい。こんなこと考えたら不敬なのかもしれないけど。


 話す相手がいなくてよっぽど溜まってたのかな? ひょっとして女神様って友達いない――――



『……いるわよ! 親友だっているんだから! いまちょっと遠いところにいるだけ! 忙しいのよ私』


 す、すいません……



 それにしても……女神様って、そのカケルって人のこと……あ!? まずい、また怒られる……



 ……あれ、怒ってない? 女神様……神様なのにそんな表情するんですね……




 女神様にこんな表情させるなんて……カケルさん、あなた一体何者なんですかっ!? 


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i566029
(作/秋の桜子さま)
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