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8.決意と誓い

「……久しぶり、ね」

「え?」



 煌びやかなシャンデリアの下、私はレオの手を取りくるりと一回転しながらそう呟けば、レオが首を傾げた。

 そんなレオに、私はくすりと笑う。



「こうして貴方と踊ったの、いつ以来かしら?」

「……そう言われてみれば、そうですね。

 確か最後に踊ったのは、去年のお嬢様の誕生日でしょうか」

「あ、それでも私の誕生日には毎年一緒に踊ってくれているものね」



 今年の誕生日はお互い忙しくて踊れなかったけれど。

 そんなことを考えていた私に、レオは少し目を見開いて怒ったように言う。



「! ……それは、貴方様が言い出したからでしょう?」

「え? ……あ」





 そうレオに言われ、思い出した。

 いつかの誕生日に、レオと約束したのだ。

 “誕生日くらい私と踊って頂戴”と。




「……ふふ、そうだったわね。

 確か、貴方が身分がどーのこーの、俺はただの従者だのごねて一人で壁に突っ立っていたから、私の誕生日パーティーなのに楽しくなさそうで何だか悔しくて、つい私が我儘を言ったんだわ。

 ……でも驚いた。 あれ結構前の話よね? よく覚えていたわね」

「っ! ……それは」




 レオが何か口を開きかけた時、不意に音楽が鳴り止んだ。

 私達は顔を見合わせダンスをやめ、壇上を見れば、そこにはエド……殿下の姿があった。

 その手には、紙を持っている。



「……この場で発表、なのかしら?」

「そのようですね」




 レオが私の言葉に頷く。

 そして静かになった会場の中を、凛とした声が響き渡り、殿下は話し始める。

 そして、手短に、と挨拶を軽く済ませた殿下は、自らの口で今日の話し合いで絞られた婚約者候補を発表したのだった。






 ☆




「……お嬢様、本当にこれでよろしかったのですか?」

「?」



 揺れる馬車の中、レオがゆっくりと口を開いた。

 私はそんなレオの言葉を聞いて、首を傾げて逆に聞いた。



「婚約者候補に残ったこと?」

「はい」




 そう、私はエドの言う通り、婚約者候補に残ったのだ。





 ―――……数時間前



「私を、婚約者候補に残して欲しいの」

「……レオと、話し合ったの?」



 私はエドの言葉に黙って頷いた。



「えぇ。 レオは、私にこれからも仕えてくれるという意志表示を見せてくれた。

 私は……、本当だったら、嫌な噂も流れているし、命を狙われている点でも婚約者候補から外れるべきなのだと思うわ。

 だけど……、そうすることによって、レオは他の誰かを守りに行かなければならなくなる」



 ……そう考えると、胸が苦しかった。

 この胸の痛みは何なのか。 よく分からないが。

 彼は昔から口数が少なくて辛辣で、手厳しくて怖くて。

 彼が来たばかりの頃は、私は彼に苦手意識を抱くほどだった。

 ……でも、今では。




「……レオに、側に居て欲しいと、そう思うの」




 レオがいなくなるなんて、考えられなかった。

 例え命を狙われていたとしても、彼が従者として側に居ない方がずっと、怖い気がした。




「何も殺されたくないとは思うけど、だからといってレオが私の側から離れて欲しくない。

 ……それを考えると、私の言っていることは色々と矛盾しているかもしれない。

 ただ、レオにとって、私がどういう存在かは分からないけど、彼は私に出会って良かったと、そう言ってくれた。

 だから今はもう少しだけ……、時間が許す限り、その言葉に甘えて、彼が側に居て欲しいと私は思うの」




 だからお願いします、と私はエドに頭を下げた。

 エドは少し笑って言った。




「ふふ、君ならそう言うと思っていたよ。

 内心、少し焦ったんだ。 君がまさか婚約者候補から外れたいと言って、レオを引き離さなければいけなくなるかもなんて、考えてもいなかったからね。

 ……まあ、そうしようものなら君の騎士(ナイト)は随分と君にご執心のようだか……っ!?」

「!?」




 エドの頭を、何か小さな物が凄い速さで掠めていった。

 私は驚いてその物が転がった先を見れば、そこにはコインが落ちていて。




「っ、だ、誰かいるの!?」

「っ、あ、あぁ、大丈夫だよ。

 少し僕が調子に乗ったからきっと、誰かさんが怒ったんだろう。

 ……全く、本当おっかないよね」

「??」




 そう言って、エドは何事もなかったかのように落ちたコインを手に取り、肩を竦めてから胸ポケットにしまう。

 私は状況把握が良くできなかったが、それ以上聞くのはよしておこうと思い、ふと思ったことを口にした。



「そういえば、もう貴方の中では、誰を婚約者候補に残すか、決めているの?」

「あぁ。 ある程度ね。

 媚びを売る御令嬢からその正反対に、愛している人がいるからと、自ら断りを入れてくる人も結構いて、随分と絞れたよ」

「た、大変そうね」

「いや、思ったよりは全然。

 今回は10人くらいに絞ろうと思って」

「10……ということは、20名以上は落ちるということね」




 私の言葉に、エドは「あぁ」と頷いた。



「35人全員を暗殺者類の悪い輩の手から守るのには、そろそろ限界だったからね。

 10人に絞れは大分変わると思う。

 ……まあ、その分婚約者候補に残ることになる君や、身分の高い爵位にいる御令嬢から順に、狙われるリスクは高まってしまうから、今よりももっと警戒しなければならないけどね。

 そこは任せて欲しいと言いたいところだけど、くれぐれも用心するように」

「えぇ、分かっているわ。

 いざとなったら淑女教育で磨いてきた痴漢撃退法を使ってやるわよ」

「そ、それは凄いね」




 そう言い終えたのと同時に、チリンと高い鈴の音が鳴り、そこで私達のお話は終了した。






 ☆




「……後悔、していらっしゃいませんか?」

「え?」



 私は驚いてレオを見ると、レオは外に視線を向けて頬杖をついて言った。




「……私のことなど考えずに、婚約者候補から外れた方が、貴女の望みが叶ったのではないか、とそう考えて……!」




 私はレオの口に人差し指を立ててその言葉に首を振った。



「……確かに、私は婚約者候補というだけで殺されるなんて冗談じゃないと思って、貴方を巻き込んで婚約者候補から外れる手筈をした。

 だけど、それによって……」





 ……貴方がここから離れてしまうことの方がずっと、寂しくて心細いと感じてしまった。




「……っ」

「? お嬢様?」



 急に黙り込んだ私に、レオは顔を覗き込んで首を傾げた。

 私は少し頭を左右に振ると、レオに向かって言った。



「……いえ、ここで候補を外れるのは得策ではないと思ったのよ。

 いくらなんでも、最有力候補と言われた私がここで外れては、リーヴィス家の名に泥を塗ることになるわ」




 ここまで培ってきた淑女教育。

 最有力候補、レオの幼馴染と言われてきた私がここで落ちては、どんな噂を立てられるか分かったもんじゃない。

 殿下に対してこんな失敗を犯したからだ、とか根も葉もない噂を立てられるのが目に見えている。

 そんな私の言い訳に、レオは肩を竦めて椅子に座りなおしながら言った。



「……まあ、今回はそういうことにしておきましょう」




 レオがそう言ったのを見て、私も座りなおしてから、今度はしっかりとレオを見つめて言った。



「あ、でもそれだけではないのよ」

「?」



 私はレオに念を指すように、にっこりと微笑んで言った。




「この先、私にどんなことがあっても、貴方は私を守ってくれるでしょう?」

「……!」



 レオはふっと笑うと、くしゃっと整えていた前髪を握って、笑って言った。




「本当、貴方には敵いませんね」

「! ふふっ」



 レオは苦笑交じりに笑い、私の手を握るとそっとその手を持ち上げ……軽く唇を押し当てながら言った。







「……ジュリア様の仰せのままに」

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