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6.選択肢

「ジュリア、それにレオも。

 来てくれて有難う」

「……御用件は?」



(私はエドにだって怒っているんだからね!

 エイミー様とのことだってそうだし、今だってこうして私を皆の前で呼び出すことで、また変な噂が増えてしまうかもしれないじゃない……!)



 という意味を込めて、ニコリと笑みを作って見せれば、エドに「か、顔が怖いよ?」と若干引きつった顔でそう答えられる。

 それに対してレオが、代わりに口を挟んだ。



「殿下、貴方もお忙しいのでしょう?

 早く要件を仰ってください」

「ひ、酷……まあ、いいや。 そうだね、単刀直入に言おう。

 君達は、本当に“恋仲”なの?」

「!」



(っ、来たわ。 この話が……!)



「えぇ、そうよ。 私はレオと付き合っているの。 だから」

「婚約者候補から外せ、と?」

「……えぇ、そうなるわね」




 一瞬、たじろいで返答が遅れてしまった。

 ……それは、エドの表情に少し威圧を感じてしまったからである。



(今まで公然の場以外で威圧的な態度を見たことはあったけれど……、まさか面と向かって取られるとは思ってもみなったわ)



 これはどういう心境でいらっしゃるのか。

 私はよく分からず、息を飲んで見守っていれば、エドはやがてふっと息を吐いて笑った。




「そうか……、本当なんだな。

 おめでとう、レオもジュリアも」

「? え、えぇ……」



(……何だ、この生温い視線は)




 エドのよく分からない意味深な笑みに驚いていると、エドはレオに視線を移して口を開いた。



「レオ、良かったね。 彼女と恋人になれて。

 つまりは、りょうおも」

「はい、そうですね」

「??」



 エドにそれ以上言わせまいと、レオはエドの言葉を遮るように相槌を返した。

 それによって、エドとレオの間に何処か、不穏な空気が流れる。



(え、え? 何、この氷点下並みのやりとり)



「……あ、あの?」



 私が小さく口を開けば、エドがやっとこちらを向いて、「あぁ、ごめんごめん」と私を置いてけぼりにしたことに気付き、腕を組んだ。



「さて、二人が晴れて恋人同士と分かった所で、ジュリアを私の婚約者候補から外させたい所なんだけど」

「……」



(この流れは……)




 エドはじっと、私を真っ直ぐと見つめて言った。




「それは、無理なんだ」

「……理由は?」




 直談判でもそう簡単にいかなかったのだ、彼と恋人のフリをしただけで私も婚約者候補を免れるとは思ってもいない。

 ……だが、一応理由は聞いておくべきだと思った私は、殿下にその理由を尋ねる。

 すると、殿下は足を組んで困ったように言った。



「この婚約者候補を決めるにはね、色々と準備から何から大変だったんだ。

 ……現に君を、僕の婚約者候補に決めた時だって大変だった。 大事な幼馴染を危険に晒したくはない。 だからといって、君だけを特別扱いするわけにもいかない。

 そう考えた僕は、4年間、騎士学校で一番信頼が置ける人物であり、剣術も共に抜群である彼を、君の護衛として任命することにした」

「……!」




 初めてエドの口から聞いた話に、私は驚いてレオを見る。

 レオは私に向かって小さく頷き、エドはそのまま話を続けた。



「……レオの腕の良さも勘の鋭さも、きっと君は誰よりも知っているはずだ」

「え、えぇ。 剣術の方はまだ見たことがないけれど、噂ではよく耳にするわ」




 そう言って私が頷けば、エドは苦笑いして「まあ、レオに真っ向から向かおうとする奴なんているはずないよね」と言った。

 王子であるエドもこうして認めるほどなのだから、腕は確かなのだろう。




(それに彼は、辺境伯の家柄でもあるから)




 説明し忘れていたが、レオ……レオンの家は、グラント辺境伯という、この国最大の番人、といわれるほどの武術の腕前があり、又番人と称されている通り王族にも絶対の忠誠を誓っている。

 そういう意味でも、レオは幼い頃からエドと交流が深い。

 三男である彼は、跡取りではないため、これから将来どうなるのか私には分からないが、殿下からお墨付きであるということから、どこに行っても活躍すること間違いなしだろう。




「……そこで君を、婚約者候補から外すとなると、色々問題が浮上するわけだ」

「例えば?」



 そうだね、と私の問いに対してエドはレオを指差す。



「君とレオは、恋人同士。 だけど、今日仮に僕が君を婚約者候補から外したとしよう。

 そうすれば、レオの確かな腕は、誰か他の御令嬢……つまりは、一番命を狙われるであろう家柄が高い者に仕わせなければいけなくなる」

「!」




 私は思わず、レオの顔を見た。 レオも私をじっと見つめてきたが、その表情は何を考えているかは分からない。

 だけど、私の心の中は不安でいっぱいになった。



(他の御令嬢方に仕わせなければならない、ということは、レオが私の従者ではなくなるということ……?)





 言われてみれば、確かにそうだ。

 レオが私の従者になったのは、私がエドの婚約者候補であるからだ。

 一番腕の良い彼に、一番命を狙われている私を仕わせた。 そしてその候補から除外されれば、私が命を狙われることは一気に減る。

 そうしたら、その分の矛先は今度は今日残る婚約者候補の内の誰かに絞られる……。

 そんなことを考えて彼を見つめてしまっていたら、先にレオが視線を逸らしてエドに向かって怒った。




「お嬢様に余計な心配をかけるのはおやめ下さい。

 ……お嬢様、仮の話です。

 ですが、もし貴女が本当に婚約者候補から外れたいと思うのであれば、私のことなんかは考えずに」

「そんなこと、言わないで」





 小さく呟いたつもりだった。

 だけど、レオとエドの耳にはしっかりと届いてしまったらしい。

 私は自分で発した言葉にハッとする。




(…っ、わ、私は何を……)




 自分の言葉にも戸惑いを覚え、閉口した私に、殿下は「愛されてるね」とよく分からない言葉を呟き、そして少し笑みを浮かべて言った。



「まあ、僕は君達を引き離すつもりはないから、僕としてはこのままジュリアに婚約者候補に残ってもらおうと思っているけどね。

 ……異論はないね? レオ」

「……ジュリア様の御意見に、私は従います」



 レオの藍色の瞳が、私をじっと見つめる。

 私は少し、息を吐き……、エドに向かって口を開いた。





「……時間を、くれるかしら?」




 私の言葉に、二人は驚いたような顔をしたけれど、エドは微笑みを浮かべ頷いた。




「あぁ、また後で夜会の時に、その話の返答を聞かせて欲しい」

「……有難う」




 私はエドにそれだけ言うと立ち上がり、その場をレオと共に後にしたのだった。

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