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3.恋人役の従者

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「……様、お嬢様」





 ふわふわと微睡みの中で声がする。





「……待って、もうちょっと……」

「待ちませんよ。 早く起きて下さい」

「!?」





 バッと、効果音でも尽きそうなくらいの勢いで一気に目を冷ますと、いつもの無表情な彼……普段ならここにいるはずのない私の従者は、「あぁ、今日は早いですね」と時計を見て言った。

 私は慌ててベッドに潜り直しながら怒る。





「っ、ど、どうして、貴方がここにいるのよ!? 貴方が起こしに来ることなんて今までなかったでしょう……!!」

「……貴方のお目覚めが悪いからこうなったのでしょう。

 本日は殿下主催のパーティーですので、遅れることは言語道断ですよ」

「?? 今日のパーティーは夜会……夜ではないの?」




 今日は夕方から開催のパーティーだと話を聞いていたけれど……、どうしてそれが朝早くから起きなければならないのかしら?




「“殿下の婚約者候補の方々は、正午に集合するように”との殿下からのお達しです」

「……あぁ、私達だけは安全を確保する為に、先に会場に入っていなければならないのね」

「えぇ」



 私は布団の中でため息をつく。



(……いよいよもって、私達も厳戒態勢を敷かれている、というわけね)



「……分かったわ。 起きるから、先に準備をしておいてくれるかしら?」

「畏まりました」



 そう会釈をしてバタンと部屋を出て行ったのを見届けてから、私ははぁ〜っと長く息を吐いた。



(……朝から心臓が止まりかけたわ。

 まさか、レオが起こしに来るとは思わなかったもの)



 普段はメイドが起こしてくれるのだが、きっとそれでは私が起きないと判断したのだろう。

 ……実際、私はレオの言う通り目覚めが悪い。 寝相や何かが悪いというわけではなく、ただ単に誰に起こされても起きられないのだ。



(……そこで私に容赦なく口を出して、私を起こせるのはレオだと白羽の矢が立ったのだとは思うけど……、淑女の部屋に朝から異性を入れないでほしいものだわ)



 本当に、心臓が止まるかと思った。




(……ただでさえレオは、端正な顔立ちだから、心臓に悪いと言うか……)



「っ、あーーーー、何を考えているの私は……!!」



 それもこれも、朝からレオが起こしに来るから悪いのよ……!



(……あぁ、ダメダメ! 早く起きて支度をしないと!!)



 軽く頰を叩いて起き上がり、私ははたと気付く。



「……私、今日の支度はどうなっているのだっけ……?」






 ☆





「ふふふ、姫様ってば……っ面白い」

「……ちょっとミラ、貴女人を馬鹿にしているの?」

「いえいえ、そんなこと」



 鏡ごしに侍女であるミラに怒って見せれば、私の髪をセットしながらミラがクスクスと笑う。



(……まったく、この家の中では私の扱いが雑すぎると思うわ)



 そんなことを考えてブスッとした顔をしている私をちらっと見て、ミラは再度笑いつつ口を開いた。



「でもあれですね、なんと言うか、そのドレスを見ていると、お嬢様への愛が伝わってきますね」

「っ、はい?」



 何のこと? と突然のことに驚く私に、ミラは私が着ているドレスを指差して言った。




「そのドレス、レオン様がお仕立てになられたと聞いております」

「あぁ、そのこと? えぇ、そのようね」




 私が相槌を返せば、ミラが苦笑いして言う。




「お気付きになられませんか? そのドレスの色やデザイン、今までにジュリア様がお召しになったことがないような物ですよ」

「……そう言われてみれば、そうね」



 今着ているドレスは、藍色のAラインのドレス上に、淡く宝石が散りばめられた、まるで星空を模したようなドレス。

 それに比べて、今まで私が着ていたドレスは、少し背伸びをしたようなマーメイドドレス……、体のラインが出るようなドレスが多かった。



(……確かに、こういう落ち着いた色で、お姫様っぽいドレスを着るのは初めてかもしれないわ)




 鏡に映った自分を見て、思った以上に自分で言うのも変な話だけれど似合っている気がして嬉しくなる。

 そんな私とは裏腹に、ミラは言葉を続ける。




「本来着ているドレスとは違って、ジュリア様に似合うドレスをこうして仕立て上げ、尚且つこのお色は、まるでレオン様の瞳のようだと、そうは思いませんか?」

「っ!?」




 ミラの思わぬ言葉に、私は驚いてしまう。




(っ、れ、レオの瞳と同じ色!? い、言われてみれば……、それにわざわざドレスの形を変えたのも、レオの好み、ということ……?)



「っ、か、考えすぎではないかしら……?」

「ふふ、まんざらでもなさそうですね」

「ちょっとミラ! それ以上言ったら怒るわよ!!」

「はーい」




 ミラはニヤッと笑ってわざとらしく肩をすくめて見せると、せっせと私の髪を整えていく。




(……か、考えすぎだと思うわ……あ、でもレオの瞳の色、というのはわざとなのではないかしら?

 私とレオがラブラブですよ、っていうアピールをするつもりで……っ、れ、レオがそんな大胆なことをするのかしら?

 っ、〜〜〜あぁ、全然分からないわ……!)




 そんなことを考えている間、鏡ごしで私が百面相をしていたであろう所を見ていたミラが、肩を震わせて笑っていることに気付いた時には、髪は綺麗にセットされ、全ての支度が整った私の姿が映し出されていたのだった。






 ☆





「「……」」




 レオと二人、並んで歩いている間に流れる沈黙。



(……レオ、いつにも増して口数少ないというか、一切無いわよね……?)




 城へ向かう馬車の中でもそうだった。

 馬車の中で話したことといえば、側を離れないようにすること、常に周りを警戒すること、それからパーティーに始まる前に殿下から話がある……などの諸注意やら何やらだけで、ただの連絡事項だけだった。



(……彼がドレスを仕立てたというなら、“似合っている”とか、そういう感想の一言くらいあっても良いのではないかしら?)



 チラ、と隣を見れば、白銀の髪を揺らし、藍色の瞳は悔しくなるくらい真っ直ぐに前を見て歩いている。



(ほんっと! デリカシーの欠片も無いわね!!)



 私はプイッと顔を逸らし、スタスタと歩いていると、それに気付いたレオが声をかけてきた。



「……お嬢様? 何故怒っているのです?」

「怒ってなんかいないわよ!」

「いや、どう見ても怒っていらっしゃいますよね」



 私は少しだけ……、レオが褒めてくれるのでは無いかとか期待した自分が恥ずかしくなって、キッと無言で睨む。

 それに驚いた顔をしたレオが、急に私に手を差し出した。



「え?」



 私は驚いてその手とレオの顔を交互に見れば、今度はレオがいつもよりぶっきらぼうに口を開いた。



「ここから先は、私がエスコート致します。

 ……貴女の、“恋人役”として」

「!?」



(……そ、そうだったわ、私、今日から彼と……)




 自ら言っておいて忘れていた。 今日からもう、彼との“恋人(仮)”は始まっているのだと。



「……お嬢様、約束の時間に遅れてしまいますよ」

「っ、そ、そうね! そうだったわね! 早く行かないと!!」




 私は意を決して、レオの手を取る。

 そして、私の手を引いて歩き出すレオの半歩後ろを歩きながら思う。



(っ、れ、レオにエスコートされるのって、こんなに緊張したかしら……? そ、それとも久しぶりだから?

 何故こんなに、胸がドキドキしているの……?)



「……お嬢様、緊張していらっしゃるのですか?」

「はぇ!?」




 突然話しかけられ、思わず変な声が飛び出てしまう。

 それを見たレオは一瞬驚いた顔をしたと思ったら……、ふっと、いつもなら絶対に見せない、微笑みを浮かべた。



「……!」





 思わずその表情に息を飲む私に、レオは一言、口にした。




「大丈夫、今日のパーティーで一番綺麗なのは、間違いなく貴女ですから」

「……!!!」






 その言葉に、思わずよろけた私の腰を、レオは咄嗟に受け止めてくれる。

 それによって、端正なレオの顔がより一層近くて、私はすぐに態勢を立て直して彼の胸を軽く押した。



「あ、ああ有難う。 れ、レオも、その……と、とても格好良いと、思うわ。

 今日は、改めて宜しくね」





 何とかそう返した私に対して、彼は左胸に手を当て、「はい」と優雅にお辞儀をした。

 そうしてまた、彼にエスコートされながら私は歩き出す。

 私は握られていない方の手をそっと胸に当てた。







(……不意打ちは……、ずるいわ)








 ――“大丈夫、今日のパーティーで一番綺麗なのは、間違いなく貴女ですから”








 その彼の言葉と柔らかな表情が、いつまで経っても頭からこびりついて離れないのだった。






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