29.建国記念パーティー
そうして始まった、建国記念パーティーという名の舞踏会会場である王城内の大広間は、仮面を被った人々でごった返していた。
(……本当に、これでは誰が誰だか分からないわ……)
エイミー様を探そうと思っていたが全く分からない。 それもそのはず、会場自体もそれはそれは広く、私のように髪の色を隠す人だって多いに決まっているのだから。
(それに、エイミー様もエドの婚約者候補だもの、分からないようにするのが普通よね……)
と苦笑いしていると、不意に視線を感じる。
「! ……?」
こういう時の勘はレオには敵わないけど、当たっているはず。
だから辺りを見回してみたが、その視線の先には誰もいなかった。
(え、私の勘違い……?)
数名いるうちの護衛の一人かしら、と思い首を傾げながら考えていると。
視線の先に、異様に目のつく男性の姿があった。
(っ、あれは……!)
私は思わず息を飲む。 私の視線の先、其処には、シーラン侯爵の姿があったから。
彼は何処か落ち着きのない様子でキョロキョロと辺りを見回したかと思えば、会場を後にしていく。
(……っ、絶対に怪しい……!)
私も違う会場の出口を見つけると、シーラン侯爵の後を追って走り出したのだった。
(っ、つい勢いで追いかけてきてしまったけれど……)
「……何処へ行ったのかしら……」
シーラン侯爵は思ったより足が速かった。 というよりも、私が今履いている靴では走りにくく、尾行していることに気付かれないよう距離を保って後を付いていたのもあって見失ってしまった。
取り敢えず乱れた呼吸を整えようと、廊下の隅で立ち止まると。
「……此処で何をしている」
「っ!?」
ハッと反射的に振り返ろうとした私の喉元に、冷たい“何か”が当たる。
それは言わずもがな、刃物であることはすぐに分かって。
「……答えろ」
低い声音でそう問われ、それが男性であること、そして、王城の関係者……、私の護衛でもないことは分かり、私は冷静に口を開く。
「あら、か弱い淑女に向かってそんな物騒なものを突き付けるのが、紳士の振る舞いだとでも仰るのですか」
「っ!?」
その言葉で怯ませた一瞬の隙を狙い、私はその鳩尾に肘鉄を食らわす。
試しにやってみた行動が、意外と命中し、その人の腕が離れたのを見計らい、その手からナイフが外れたところで思い切り蹴飛ばす。
カンカンッと、廊下の壁に当たったそのナイフを見届ける。
(っ、私に護衛を付けてくれているんじゃなかったの!? 取り敢えず、誰か護衛が通るまで、こんな物騒な人を此処へ放っておくわけにはいかない)
そう思った私は息を吸うと……、少しでも時間稼ぎをしようと試みる。
「私はただ、外の空気を吸おうとして迷子になっただけですわ。 ……それなのに貴方こそ、如何して会場にこんな物騒なものを? よっぽど何か……、私が此処にいては良くないことでもされていらっしゃったの?」
「っ、この……っ!」
「!」
(! やばっ……!)
逆上した男性の拳が振り上げられる。
私は思わずギュッと目を瞑った、その時。
バシッ、と乾いた音が耳に届く。
(え……)
驚き見れば、私の目の前に庇うように立つ、又違う男性の姿があって。
(……私の、護衛……?)
そう思った私だっだが、その目の前の男性は私には目もくれず、逆上した男性の腕を掴みながら告げた。
「たかが一人の女に横暴な真似はするな。
……此処で事を荒立てては迷惑がかかるだろう」
「っ……」
(“迷惑”……? この人達は、知り合いなの?)
私は疑問に思ったが、何処かで違和感を覚える。
その違和感の正体を考える間もなく、背中を向けていた男性は私の方を振り返る。 その男性は顔全体を覆っている仮面の所為で、表情が分からなくて。 思わずその不気味な姿にビクッとしてしまう私に対し、彼はくぐもった声で私に向かって口を開いた。
「……“迷子”と言っていたな。 会場まで案内する」
「……は、い」
有無を言わさないその言動に、私は緊張からか喉が渇き、掠れた声で辛うじて返事をする。 そんな私をさして気にも留めないという風に、彼は私の手を引いた。
「……!」
その手に、私は“違和感”の正体に気付いてしまう。
(……もし、かして)
「私がこの女性を会場まで送り届けてくる」
「あ、あぁ」
そう言うと、驚いている私の手を半ば引きずるように、足早に歩き出したのだった。
「……此処まで来れば大丈夫だろう」
黙って私を引いて歩いていた男性は、会場近くの死角になっている場所で立ち止まり、そう言葉を発する。 そして、そのまま言葉を続けた。
「幾ら城の中とはいえ、ふらふらするのはあまり感心しない。 気を付けろ」
そう言って、早々に歩き去っていくその背中を見て……、私は声を掛けた。
「っ、待って」
「……」
それでもその男性は立ち止まらない。 私は腹が立ち、その男性に向かって気が付けば……。
「……っ!?」
彼の背中に向かって一直線に、自身の履いていたヒールを投げていた。
それに気付き、彼は俊敏な反応でそのヒールを受け止める。
「っ、何をする」
苛立ったような、驚いたようなそんな声音に私は怒って言った。
「待ってと言っているでしょう!
何なら、此処で貴方の名前を大声で呼んでも良いのよ?」
「!」
その言葉に、彼の肩が僅かに揺れる。
私はふーっと息を吐き、ツカツカと歩み寄ると……、彼に向かって手を出して言った。
「……ヒール、返して。 これは命令よ」
「っ……」
私の命令に彼は……、いや、私の“元”従者は、大人しく私の投げたヒールを手渡したのだった。
評価、ブクマ登録いつも有難うございます。
更新がどうしても不定期になってしまい申し訳ございません〜><
気が付けば、この作品を書き始めて一年が経ちます。予定では後十話程で、完結するかと思います。最後までお付き合い頂けたら幸いです。
引き続き、宜しくお願い致します〜!




