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20.それぞれの記憶

(レオン視点)



 ――……幼い頃の、夢を見た。


 反抗期で生意気だった、そんな子供の頃の遠い記憶。


 だかあの日のことは、鮮明に覚えている。


 それは、主人であるジュリアを初めて見かけた、俺にとっては人生を変えた日、ジュリアにとっては人生の中で最悪な日の出来事……――






「……ん」



 微睡みの中、自身の頭に置かれている温かな温もりを感じながら目が覚めた。



(こんなに寝たのは、いつぶりだろうか)


 そんなことを考えながら、ふと気が付けば、主人であり、夢でも見た人物……、ジュリアの姿があった。



(……寝てる)



 普段話す時に生き生きとしている印象的な大きな瞳は、瞼に隠れていた。

 そして、夢の中より少し長い雪のように白い髪が、さらりと頰にかかるのにも構わず、穏やかな寝息を立ててすやすやと眠っている。


(……お嬢様)


 そう彼女を呼べるのは、果たしていつまでだろうか。

 殿下の婚約者が決まれば、ジュリアの元を俺は離れなければいけない。

 ……そして、また好きではない“本来の仕事”に身を投じなければならない。



(……俺には唯一、ジュリアだけが光なんだ)



 そんなこと、君は知らないだろう?



 そう心の中で語りかけ、そっと頰にかかっている彼女の綺麗な白い髪を耳にかける。

 すると、ふっと彼女は目を覚ました。

 その桃色の瞳に俺の姿が映り込んだ時、彼女は慌てたように顔を赤くさせながら言った。


「あ、あれ!? い、いつの間に私まで眠ってしまったのかしら……!

 ってもうこんな時間! ごめんなさい、レオ。 私は起きていて貴方を起こすつもりだったのに……、よく眠れたかしら?」



 そんな彼女の慌てた様子を可愛い、だなんて俺らしくはないだろうか。



「……お陰様で」


 ジュリア様の膝も貸して頂きましたから。


 そうからかい交じりにいえば、彼女はより一層顔を赤くさせ、怒っていたかと思えば、やがてふっと、夢よりずっと大人っぽくなって綺麗になった今でも、あの頃と何ら変わらない笑みを向けてくれたのだった。





 ☆



(ジュリア視点)


「却下です」

「え、どうして!?」



 例の私が考えた“作戦”をレオに伝えれば、そう返してきたことに驚き、私は思わず立ち上がった。

 レオはそれを厳しい眼差しで言った。



「今貴女がここで出るのはあまり得策ではないと思います。

 エイミー様の件もありますし、ここで貴女が出て目立ってしまっては、この先標的になるのは貴女でしょう」

「それならもう、私はとっくに命を狙われているじゃない。

 ……それに、ここで私が黙って見ていても、一向に事態は動かぬままでしょう?」

「ですが」

「それに! 私の家ならまだ安全だし、個別に話をすることも可能になるはずよ」



 私が考えた“作戦”。

 それは、今度は私の家でお茶会を開くことだった。

 私の家であれば、まだ警備は保証される。 少なくとも皆が心配するような私を標的とする者は少ないはず。

 それに、主催者として望めば、個別に話をする場所や時間もあるはずなのだ。

 エイミー様とも今度は落ち着いて、話せるかもしれない。

 そう考えた私だったが、レオは以前厳しい表情を浮かべて私に言った。



「エイミー様をお助けされたいという気持ちは分かりますが、ジュリア様がそこまで関わるべきことではありません。

 シーラン侯が危険な人物だと分かっている今なら尚更、貴女は大人しくしているべきです」

「あら、それで私が大人しくしていても、なかなか情報が入って来ないのではなくて?」

「! ……そう、ですが」



 レオの珍しい歯切れの悪い返しに、私は少し微笑んで見せる。



「分かっている。 無茶はしないわ。

 ……だけど、私にも協力くらいはさせて。 私に出来ることといったら、これくらいしかないの」



 侯爵令嬢として生まれてきた私に出来ることは、他者との繋がりを持ち、侯爵家という名前を使って情報を掴むこと。

 元々自分の身分や家の名前を使って何かをすることは、私はあまり好きではない。

 だけど、これが人助けになるのなら話は別だ。

 エイミー様のためにも、そして何より、私の大切な従者……レオのためになるのなら。



(私はどんな手段も選ばないつもりよ)



「……レオが反対するのならきっと、私のお父様も反対する。 だからレオ、お願い。

 私に賛成して頂戴。 お父様を説得するために、私に力を貸して」



 そう私が真っ直ぐと、レオの瞳を見ていえば、戸惑ったようにレオの藍色の瞳が揺れる。

 だがやがて、はぁーっと長く息を吐き、レオは苦笑いを浮かべて口を開いた。



「……分かりました。 旦那様には私からもお口添えをしておきます」

「本当!?」

「えぇ。 ……ですから、そのキラキラした目はやめて下さい」

「?」


 キラキラした目、とは何のことだろうか。

 首を傾げた私に対し、はぁっと再度、レオは今度は短く息を吐き、困ったように笑うのだった。





 ☆




 そしてレオが口添えしてくれたこともあり、私の家……、リーヴィス家にある噴水がある庭でお茶会を開くことになった。

 ただし条件があった。


 一つ目は無茶をしないこと。

 まあこれはいつもきつく言われるのだけど。 (私ってそんなに信用ないかしら?)

 二つ目はレオの側を絶対に離れないこと。

 そしてもう一つは、少しでも何か異変を感じたらすぐに言うこと。



(……この前の紅茶が毒入りかもしれなかった件が響いているのね)



 私もそんな襲撃ごときで命を落としたくはないと思うけれど、それを怖がってビクビクとしながら生活を制限されるのは嫌だ。

 ……それに、毒で殺されるなんて尚更、絶対に嫌だ。



(嫌でも、毒という名を聞いただけであの時のことを思い出してしまうから)



 ……いけない、今は招待状を書くことに集中しないと。

 私は嫌なことを思い出さないよう、頭を左右に軽く振ってから、招待状作りに専念したのだった。 

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