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17.とある侯爵令嬢と侵入者

最初はエイミー視点、途中からジュリア視点に変わります。

(エイミー視点)



(……あれ)



 私、いつの間に眠ってしまったんだろう。

 真っ暗な部屋の中起きた私は、蝋燭の灯りをつけて時計を見れば、もう短い針は11を指していた。



(もう、こんな時間だったのね)



 寝る支度も何一つしないまま、ベッドに横になっていつの間にか眠ってしまっていたらしい。



「……いたっ……」



 頰がピリッと痛む。

 そこでハッとした。




(そうだわ。 私、叔父様に……)



 勝手に手が震え出す。



(……仕事を、やらなかったから、さっき頰を叩かれたんだわ)



 怖かった。

 お父様もお母様もいない今、私には逃げることなんて出来ない……。



(ここしか、私のいられる場所はないもの)



 そこでふと、この前のお茶会で自分が言った言葉を思い出す。




『ここは、屋敷の中で私が一番大好きな薔薇園です』




(……そんなの、嘘よ。 確かにあの場所は好きだったけれど、今は、もう……)




 その時。

 ふっと灯りが消えた。



「!?」



 驚いて灯りをつけようとすれば、背後から誰かが私の口をふさぐ。




「ん! んーー!!」



(侵入者!? どうして!?)



 抵抗する私だけど、全然ビクともしない。

 身長差からして男性だろうか。

 何せ暗くて分からない。


「っ、しっ、エイミー嬢。 静かに」

「!? 貴方は、誰……!?」



 口から手を離されて振り返り、カーテンを開けるとその人物を見た。

 月明かりに照らし出された人物……、男性だと思われるが、仮面をしていて分からない。

 ただ、髪の色は漆黒の色だった。

 驚く私に、ゆっくりと口を開く。



「怖がらずに聞いてほしい。

 ……私は、貴方を助けに来た」

「……私を?」



 助けに来た? ……そんなまさか。

 信じられないでいる私に、彼は「あぁ」と口を開いた。



「とある方に、貴女の現状を把握し、現シーラン侯の噂を調査するようお願いされたのだ。

 その為に、ここに来た」

「! ……お気持ちは、嬉しいわ。

 っ、だけど、ここにいてはいけない。 あの人がどれだけ怖いか、貴方は知らないでしょう?

 このままでは貴方まで殺されてしまう」



(そうよ、あの人がそれを知った時、この人も私もどんな目に遭うか分からない……!)



 そう思った私はわざと口調を強くしてそういえば、その人は何故かおかしそうに笑った。



「あの人は裏で工作する悪知恵は働いても、己の身を守ることは出来ないさ。

 ……それに、私だってそれなりに鍛えているんだ。

 見くびってもらっては困る」

「!」




(そんなに、自信があるの?

 ……それに、この声、何処かで聞いたことがあるような……)



「……エイミー嬢」

「!」



 私が考え事をしている間に、彼が私の目の前にいた。

 音もなく一瞬の出来事に驚いていると、彼は私の頰にそっと手を伸ばした。



「っ!」



 ピリッと痛む頰に、彼は「すまない」と言いながら慎重に言った。



「……それも、シーラン侯にやられたのか?」

「……は、はい」



 震える声で恐る恐る頷けば、彼は口を開く。



「……君はいつも、こういうことをされているのか」



 私は、何も答えられなかった。

 もしこの人が、あの人が送り込んできた人で、罠だったとしたら。 私は殺されてしまう。



(いや、例え私の味方だったとしても、どちらにせよ殺されてしまうわ)



 答えなかった私に彼は少し息を吐き、「まだ警戒しているか」と苦笑いを浮かべ、何を思ったか、私の手を取った。



「!」



 そして、私の手に口付けを落とす。 驚く私に彼は言った。



「……君を、必ず救ってみせる。

 約束しよう。 だから君も、私を信じて」



 その時。 パタパタと廊下を走る足音が聞こえた。

 私は驚いて、慌ててその手を逆に掴むと、彼を引っ張り飾り戸棚をどかし、現れた小さな扉を開けて彼を押し込んだ。

 彼は驚いたような顔をして問う。



「こ、ここは……!?」

「大丈夫。 ここは叔父様も知らない脱出口です。

 一本道ですから、すぐに外に迷わず出られるはずです!」




 早く、と焦って私が口を開けば、彼は「有難う」と笑みを浮かべ……、暗闇に溶けていった。

 私は慌てて戸棚を元に戻したと同時に、扉がバンッと不躾に開く。



「エイミー様! ここに誰か来ませんでしたか!?」

「? ここには、誰も……。 どうしたの?」

「……いえ、何でもありません」



 チッ、と舌打ちをしていなくなるメイドの姿に、私はため息をつく。



(……この屋敷には誰も、味方がいない)



 この屋敷以外にも、私の味方なんているはずがない……、そう思っていたのに。





 ―――……君を、必ず救ってみせる。

 約束しよう。 だから君も、私を信じて




(彼は、一体……?)




 未だにドキドキしているこの胸の高鳴りの正体は何なのか。

 私はぽっかりと浮かぶ、欠けている白い月を見上げ、先程の彼の温もりが消えない方の手をかざしてみたのだった。




 ☆




(ジュリア視点)


「え、シーラン侯爵邸に不審者が?」

「えぇ。 町中大騒ぎですよ。

 ……いえ、正確に言えば、シーラン侯爵様が大騒ぎをして絶対に犯人を探し出すとかなんとか」



(……シーラン侯爵、ますます怪しいわよね)



 きっと、自分が悪いことをしているから、侯爵邸に入られてその証拠を掴まれたくないと考えているのだろう。



(本当、愚かな人)



 私はふーっと息を吐き、侍女の話を聞きながらふと口を開く。



「そういえば、その不審者の身なりとか性別とか分からないの?」

「噂によれば、漆黒の長い髪をお持ちで、それを一つに束ねているとかなんとか。

 そして仮面をつけていたと」

「仮面……」



(……一体、誰なのかしら)



 一つ、ピンと思い当たることがあった。



(……まさか)



 そう思った時、コンコンとドアをノックする音が聞こえ、許可をすれば入ってきたのはレオだった。



「それでは姫様、こちらで失礼致しますね」

「えぇ、有難う」



 私の髪を結ってくれた侍女が退出し、部屋にはレオと私の二人きりになる。

 それを確認した私は、はーっとため息をつきレオを見て言った。



「……レオ。 情報収集が得意な貴方なら、エイミー様のお屋敷の侵入者に、心当たりがあるでしょう?」

「……」



 顔色ひとつ変えない従者に、私はため息をついて言った。



「否定しないのね。

 ……まぁ、良いわ。 けれど、無茶なことはしないでね。

 もしその犯人とやらが貴方、もしくは貴方関係の人だったとして捕まったら、元も子もないわよ。

 ……貴方がいなくなったら、私は……、!」



 私はふっと顔を上げ驚いた。

 ……気が付かないうちに、目の前にレオがいたから。



「っ」



 レオの藍色の瞳が綺麗、なんて思わず見惚れていると、彼は真剣な表情で言った。




「分かっております。

 私の主人は、ジュリア様と旦那様だけですから。

 ……絶対に、貴女の目の前から居なくなるようなことはしません」



 そう言って、彼は私の髪を撫でる。

 少し乱暴な撫で方に私は思わず髪が崩れる、と抗議しようとしたが、ハッと息を飲んでしまう。







 ……それは、レオが見たことのないような、何とも言えない朗らかな笑みを浮かべていたから。




(……っ、レオは、こんな時までずるい)



 シーラン侯爵邸での一件にレオが関わっているかも、と考えて不安になった気持ちが、レオの言葉一つで一気に心が晴れてしまう。

 それが何だか悔しくて、私は代わりにレオの胸に寄りかかるように、頭をグリグリと押し付けてみたのだった。

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