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16.殿下の心配、従者の憤り

「え? エイミー嬢の様子がおかしい?」

「えぇ」



 ティータイムの時間。

 今日は私からエドを誘ってティータイムの時間にエドに来てもらった。


 エドに来てもらった理由は、レオにも探ってもらっているエイミー様のことだ。

 エドの耳にも伝えておくつもりで呼んだのだ。



「何だか……そうね、元気がなかったというか。

 特に、シーラン侯爵の名前が出た時や、薔薇園が素敵だという話をした時、急に顔色が変わったの」

「……要するに、シーラン侯が関わっている恐れがある、と?」

「えぇ、恐らくね」



 私がそう言って紅茶に口を付ければ、エドがハッとしたように言った。



「そう言えば、レオから聞いた。

 紅茶の件で大変だったそうだね」

「? ……あぁ、そのこと。 大丈夫よ」




 何でもないわ、と手をヒラヒラと振る私に、エドはため息をついて言った。



「心配したんだ。 一杯目は毒だったかもしれないと聞いた時、驚いて」

「でも、結果的にはレオとエイミー様に助けられたわ。

 ……レオがまだ気にしているようだったら心配ないと言っておいて」



 彼はきっと、気に病んでいるのだろう。

 私は気にしていないのに。



「……あぁ、言っておくよ」




 エドは何か言いたげだったけど、そう言って口を閉ざした。



(……皆、悲痛になりすぎよ)



 この国では暗殺なんて当たり前。

 少し毒を盛られそうになったくらいで騒いでいるようでは務まらない。



「……それに、知っているでしょう。

 私は毒には耐性が強いのよ」

「っ! そんなことがあるわけないだろう!」

「!」




 エドが私の腕を掴む。

 ……一瞬、息が止まった。



「……エド」

「っ、すまない」



 エドはハッとしたように座り直し、気持ちを落ち着かせるように長く息をつく。

 そして一言、口を開いた。



「……お願いだから、そういうことは言わないでくれ。

 ……あの時を、思い出す」

「……」



 エドの言っている意味が分かり、私の心が抉られるように痛む。



(……そんなことがあったから余計よ。

 私は、強くなければいけない。

 それが、この侯爵家に生まれた私の“宿命”なのだから)



 私はすっと息を吸うと、笑みを浮かべて言った。



「……エド、そんな顔をしないで。 一国の王子がそんな顔をしていてはダメよ。

 私は、大丈夫だから。 レオも居てくれるし、私は平気よ。

 それより、エイミー様のことを考えてあげて。

 ……あの子の方がずっと、私より辛い思いをしているわ」



 私の言葉に、エドはぐっと唇を噛み締めた後、少し微笑んで見せていった。



「……あぁ。 エイミー嬢のことは、俺とレオに任せて。

 こちらでも出来る限り探ってみる。

 ……それから、シーラン侯には拒否をされていたけど、エイミー嬢にこちらから監視を兼ねて護衛をつけられるよう、手筈をしてみるよ」

「えぇ。 そうしてあげて」




 私の言葉にエドは頷くと、「それじゃあ」と腰を上げて行ってしまう。




(……貴方は、私のことより一国の王子としてやるべきことを優先させて)




 遠のいていく背中に、私はそう呼びかけてみる。



(……そう。 私は、大丈夫だから)




 私は、強い。 強くなくてはいけない。

 人に涙は見せないと、あの日に誓ったのだ。




(……私は泣かないし、負けない。 絶対に)







 だって、“あの日”以上に恐れるものはもう、何もないはずなのだから……





 ☆





(レオ視点)



「……くそっ」



 ドンッと、石の壁に拳を打ち付ける。



(……俺には何も、出来ないというのか……っ)



 エイミー様の情報を探るため、あらゆる情報源を試したものの、一向に何も掴めない。

 ……というより、噂がある割に、シーラン侯の悪行が分かる決定的な証拠が見つけられないのだ。



(……ジュリア様)



 ジュリア様に命じられたのに。

 それどころか、ジュリア様を危険な目にあわせてしまったというのに。



(……俺は彼女に、昔も今も何もしてあげられないというのか)



 ……こんな自分に無力さを感じるのは、いつぶりだろうか。




「……レオ」

「!」



 そう声をかけられ振り返れば、そこにいたのはエドの姿だった。

 俺はジュリア様でないことに少しホッとして、お辞儀をする。



「……殿下、いらしていたのですね」

「あぁ、ジュリアに呼ばれて。

 ……それよりその手はどうした」

「っ、これは……、情報を探していた際に傷付けてしまって」



 そう言い訳をする俺に、エドはため息をついて言った。



「そんな嘘が、幼馴染の俺に通用すると思っているの?」

「……いえ」



 エドは困ったように笑うと、無造作に前髪をかきあげた。




「……全く、君もジュリアもよく似ているよ。

 そんなに傷ついた顔をしておいて、平気だと言ってみせる。

 それで俺が納得するとでも思っているの?」

「!」



 エドの言葉に、俺は軽く瞠目する。

 そんな俺に歩み寄ると、エドは言った。




「……ジュリアも、心配していた。 勿論、俺も。

 今回の紅茶の件が響いているのだろうけど、あれは不可抗力だ。

 ……それでも、君が不可抗力だと思わないのであれば、鍛錬でも何でもすれば良い。

 ただし、ジュリアにはあまり心配をかけないように」

「……はい、分かっております」



 そしてエドは、ふっと真顔になって言った。




「……あの日から、俺は誓った。 二度と、ジュリアを傷付けさせないと。

 その為に、俺は君を護衛に任命した」

「!」



 エドの言葉に、“あの日”のことを思い出し、無意識に拳を握っていた。

 エドは俺の肩を叩くと言った。



「それは、君も同じだろう?

 出会った年数なんか関係ない。 今、ジュリアの側で支えられるのも、守ることが出来るのも、君だけなんだ。

 ……君が、あの子の笑顔を守るんだ。

 俺は、レオならそれが出来ると信じている」



 なんて言ったって幼馴染だからね、とエドは今度こそ笑顔で言った。

 俺はその言葉にふっと笑って言った。



「……有難う。お陰で、目が覚めた」

「そう。 それは良かった」



 そんなエドの言葉に、思わず二人で笑ってしまう。



(こうしていると、まるで騎士学校にいた頃を思い出す)




 なんて考えていると、エドは口を開く。




「そうだ、エイミー嬢のこと、何か分かり次第すぐに知らせるように。

 後、呉々も気をつけるんだ」

「はい、承知致しました」




 エドの殿下としての命令に、俺はジュリア様の従者として答えると、エドは大きく頷いて「頼りにしているよ」とそう一言口にし、城へと帰って行ったのだった。

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