表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/47

10.従者と殿下の約束

「……お嬢様」

「? 何?」



 朝。 いつもより少し遅れて起きた私に、レオは怒ったように言った。



「一体いつまで起きていらっしゃったのです? 目の下に隈が出来ているのですが……?」

「ひっ……! い、いや、ちょっとね。

 少し、いつもより眠りが浅くて……」

「浅くて、ではありませんよ。 貴女の部屋から夜遅くまで光が漏れていたことはお見通しです。

 ……全く、お嬢様が夜更かしをしていらっしゃると知ったら、旦那様に何と言われるか……」

「お、お父様には言わないで頂戴!」



 というか、お父様が過保護すぎるだけよ!

 それに、何故レオは私が遅くまで起きていたことを知っているの……!



「……はぁ。 “作戦会議”とやらも、程々にして下さいよ。

 はい、お嬢様に頼まれていた件、まとめておきました」

「! あ、貴方こそ、これ頼んだの数日前よね!? もう出来たの?」

「これくらい朝飯前です」




 何とでもない、と平然と言うレオに、私は恐ろしいと内心思ってしまう。



(いや、レオは仕事が早いとは常日頃から思っているけれど、彼、私の護衛だけでも大変なのに、いつも動き回っていると言うか仕事しているわよね……? この人の体、一体幾つあるのよ!?)



「? お嬢様?」

「う、ううん! 何でもないわ。有難う。

 早速、目を通させてもらうわ」



 私はパラパラっとその紙をめくる。

 そして、レオに向かって口を開いた。



「っ……本当、凄いわね。 貴方、この情報網何処から手に入れたの?」

「それは秘密です。 ……それに、私が一番得意なのは、“情報取集”ですから」

「!」



(……お、お嬢様方からの情報より、レオの方がずっと情報収集に長けているのではないかしら……)




「? お嬢様?」

「な、何でもないわ」



 レオは首を傾げながらも、旦那様に呼ばれていると言って出て行った。

 私はもう一度、紙の束に目を通す。



「……本当に、レオは恐ろしいと言うか、絶対に敵に回したくないタイプね」



 頭が切れすぎだわ、と感心しながら、私は紙にこれでもかと書かれた文字に目を通していくのだった。





 ☆





「なーに読んでいるの?」

「わっ!?」



 突然不意に声をかけられ、私は驚きのあまり声を上げる。

 そして視線を向けた先には、いつものようににこやかな笑みを浮かべるエドの姿が。



「……お、驚いた。 驚かさないでと言っているでしょう、全く」

「いや、ごめん。 ちゃんとノックはしたんだけど、反応がなくて勝手に入ってきちゃった」

「……勝手に入ってきちゃったって貴方ねぇ……」




 その時、バタンッとドアが開く。



「あら、レオ」

「……またここに居らっしゃったのですね、エドワード殿下」



 そう明らかに怒っているレオ。

 ……最早、何度目か分からないこのやりとりに、私は呆れて口を開いた。



「今いらっしゃったわ。 レオも大変ね」

「そんな、人をお荷物みたいに。

 俺はただ、婚約者候補に絞られてから変わりないかなーと思ってこうして顔を見にきたのに」

「それならしっかりと、旦那様にお嬢様とお会いになる旨を、伝えてからにして頂けないでしょうか……?」



(はは……レオ、完全に怒ってるわね)



 これにはエドも引きつり笑いを浮かべ、話を逸らそうと私の手の中にあった書類を覗き込んできた。



「そ、それよりジュリア、何をそんなに熱心に読んでいたの?」

「あぁ、これ? これは、レオに頼んでいた、貴方の婚約者候補に残った御令嬢方の情報よ」

「え、そんなこと頼んでたの!?」



 驚いたように言うエドに、私はため息をついて言った。



「だって、今度あのシーラン侯の家でお茶会があるのよ? そこにお呼ばれしたお嬢様方は、エイミー様を入れて10人。

 ……つまり、貴方の婚約者候補に選ばれた御令嬢方だけなのよ」

「っ、え!? シーラン侯の家でお茶会!?」

「あら、知らなかったの?」




 てっきり、レオに聞いているかと思った。

 エドはレオに少し掴みかかるように言う。



「っ、どうして教えなかった!?」

「言いましたけど。 ……殿下、まさか覚えていらっしゃらないのですか?」

「……き、聞き流していたのか……」




 エドが頭を抱えたのを見て、私は「まあまあ」と言葉を発する。




「大丈夫よ。 常にレオには、私のそばに控えてくれるようお願いしたし。

 レオがいれば安全でしょう?」

「「!」」

「? 二人とも?」



 同時に顔を見合わせたレオとエドに、私は首をかしげる。

 すると、レオはそっぽを向き、エドは笑い出した。



「……何、私面白いことを言ったかしら?」

「いや、レオ、頼りにされてるなぁって」

「……五月蝿いですよ、エドワード殿下。

 お嬢様、お気になさいませんよう」

「は、はぁ」




 よく分からないが、私が笑われたわけではない(?)ようなので、ここはスルーしておこう。

 そう判断し、私は再度お嬢様方の情報に目を通す。

 そして、エドも一頻り笑い終えた後、私の手元に視線を落として言った。

 私はその視線に気付き、何となくその紙の束を隠す。




「? 何故隠すの?」

「これは女性間の秘密よ。 殿下には字の情報より、きちんとその目でお嬢様方の中から、婚約者を決めて頂かないとね」

「その通りですよ、殿下」



 私の言葉にレオは頷き、エドの腕をがっちりホールドする。

 え、と私とエドが驚いている間に、レオはズルズルとエドを戸まで引っ張っていく。

 そして、エドを扉から出し、一旦戸を閉めると、クルッと私を振り返って言った。




「……お嬢様。 たとえエドワード殿下といえど、二人きりにならないで下さいね?」




 そう有無を言わさない笑みを浮かべられ、私は昨日レオに言われたことを思い出す。

 そして、パタンと言うだけ言って締められた扉に向かって、私は思わずクッションを投げつけて言った。




「〜〜〜今日のは不可抗力よ……!」





 ☆





(レオン視点)



「……本当に、シーラン侯の元へ行くのか?」



 エドワード殿下にそう問われ、俺は頷く。



「あぁ。 ジュリア様が、それをお望みだから」





『……貴方、私がここで黙って大人しくしていたとして、現状が変わると思う?』


『これが挑戦状と言うのなら、受けて立つわよ。 レオ、付いてきてくれるでしょう?』




「……っ、はは、ジュリアらしいな」

「俺もそう思う」



 エドのその言葉に、俺も同意する。

 すると、エドは驚いたように俺を見て言った。



「レオ、最近笑うようになったよね」

「っ、は?」



 エドの予期せぬ言葉に、今度は俺が驚く番で。

 ……笑っている? 俺が?



「……え、その顔、まさか無意識?」



 俺は黙って頷けば、エドはくすくすと笑う。




「そうか。 ……何か、寂しいなぁ」

「は?」



 エドは再度笑った後、「いや、何でもない」と言ってから、ふっと真剣な表情になった。



「……何度も言うようだけど、伝えておく。

 婚約者候補を絞った今、ジュリアに矛先が向いているのは確かなことだと思う。

 君も知っての通り、良からぬ噂が横行している。

 ……シーラン侯の家で何が起きるか分からない。 君もジュリアも、用心するように」

「! ……はい、決して、ジュリア様には指一本触れさせません」




 そう俺が口にすれば、エドは少し驚いたような顔をした後、俺の肩に手を置いて口を開いた。



「馬鹿、お前もだ。 ……絶対に、無茶なことはするなよ」

「……お任せを」




 そう言い残して、エドを乗せた馬車は発車する。




「……ジュリア様を守るためなら、形振りなんて構っていられるものか」





 俺は小さくなっていく馬車に向かってそう呟き、自分の胸に手を当ててお辞儀をした。






(……必ず、ジュリア様を守ってみせる)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ