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星を眺める男

登場人物紹介

井崎理子

身長/154cm 体重/秘密

趣味/読書、美味しいもの巡り

容姿/肩と腰の間まで伸びたサラサラの黒髪、二重、細身(痩せの大食い)

家族/父、母がいる。いまは、事情あって、一人暮らし。

(あの人、なにしてんだろ? この冬空に···)


 井崎理子は、バイト帰り手にコンビニの袋を提げながら公園の前を通ろうとしていた。


(寒くないの? あんな格好で···)


 暗い公園内、外灯の下にあるベンチに座っている男は、薄いトレーナーらしきものを着、コートもマフラーも身につけてない。


 咬えてる煙草の煙が、ゆらゆらと天へ昇ろうと白く筋を立てていた。


 理子は、なんとなく気になって足音を立てないようにゆっくりと近づいていったが、男の耳には何も届いてないのか、ひたすら星空を眺めている。


 あと数メートルで、近づくと思った時、理子は小さなクシャミをし、男がこちらを振り向いた。


 が!また男は空を仰ぐ。


「あの···」と声を掛けても、言葉は返ってこず、二度三度声を掛けて、やっと···


「なんだ?」と面倒くさそうな言葉が帰ってきた。


「寒くないですか? これ食べますか?」理子、さっきコンビニで買った肉まんの袋をかざすも、男は何も答えず、少し隣にずれた。


「お邪魔します」何故かそう言い理子は座ると、男に2つあった肉まんの1つを差し出し、男は何も言わず食べ始めた。


「美味かった。ありが···とう」


「いいえ。ここで何をしてるんですか?」


 理子は、知りたかった。


 どうして、この男は、星空を眺めながら涙を流していたのか?を。


「星を···見てた」


 そしてまた男は、空を見上げたが、運悪く宇全体に雲が···


「ちっ···雨か?」


 ポツンポツンと雨粒が、コンビニの袋や理子達の頭にあたった。


「や、雨っ?! やぁだっ!」


 慌てる理子だが、ベンチに座ってる男はは、雨でも慌てる事なく座り続ける。


「ね、おじさん。雨だよ? 濡れちゃうよ?」


 理子は、不安げに空と男を交互に見るも、男は一向に立つ素振りさえ見せない。それどころか、


「濡れるぞ? 帰んな」と目を閉じたのだ。


「ねぇ、おじさんっ! 濡れちゃうよぉっ!」


「帰れって。親が心配するぞ」


 目も開けず、動かない男を目の前に理子は、公園の外に思いもかけない人を見つけ、ベンチに座り続ける男の隣にまた座った。


「なんだ? まだいたのか?」


 ポツンポツンときた雨が、次第に大粒になりふたりに降り注ぐ。


「おじさん。風邪ひいちゃうよ?」


「いいんだ。俺なんか···。お前は、帰れ。親が心配するだろ?」


 雨に打たれ、髪も服も濡れ地肌に張り付く。


「嫌だよ。おじさん···」


 理子は、雨に打たれながらも男に寄りかかった。


 雨は止まる事を知らず、激しくふたりに降り注ぐ。


「帰れ」


「やだ! 帰らない!」


「帰るんだ···」


「いーやっ!」


 雨が降る中、ふたりは何度もそのやり取りをした。


「俺も帰るから、お前も帰れ」と男は言うも、理子は、


「どこに? だって、さっきおじさん言ったよね? 帰るとこないって。そんな人が、この寒空、そんな姿でどこに泊まるの?」と息を荒げて言う。


「家はあるさ、まだ···」


 男は立ち上がり、理子に片手を上げながら公園を出て行こうとしたが···


「おじさんっ!」


 数歩歩いた所で倒れ、意識を失った。



『もうあなたにはウンザリです。さ、今すぐこの書類に判を押して、好美と別れて下さい』


 ピンとした背筋で、真下を冷たい眼差しで見る着物姿の妙。


『愛莉には、あなたの借金が原因で離婚したとは言いません』


 妙の隣で、少しやつれた感じの姿をした妻の好美が背筋を伸ばして座っていた。


『あ、愛莉には···』


『駄目です。会えば愛莉は、余計に悲しみます』


 好美は、何も言わず真下を見る。



 あれからどれだけ経った?


 一度も愛莉には会えず、引っ越しを余儀なくされ、俺は···


 俺は···



「ううっ···うっ···」


 額に冷たいなにかが当たり、ふと目を開けると見知らぬ女の子が、真下の顔を心配げな表情で覗き込んでいた。


「おじさん? 大丈夫?」


 目を開けた瞬間、視点が少し合わなかったが、時間が立つと合うようになった。


「ここは?」


「私んち···」


 周りを見ると、女の子らしいピンク色の物が見えてきた。


「きみの? すまん···」


 真下は、起き上がろうとしたが思うように身体に力が入らず、布団の上に倒れた。


「駄目だよ、まだ。おじさん、3日間も眠り続けてたんだよ! ほら、まだ寝てて! 熱計るから!」


 学校の制服だろうか? セーラー服を身につけた女の子が、体温計を真下の脇に挿し込んだ。


「すまん···」


 この女の子は、誰かなんだ?公園で、ボォッと星を眺めてる内に、愛莉の事を思い出していたが···


「すまん···」


 自分が作った借金のせいで、好美と離婚させられ、愛莉とは会えなくなった。


 家族を失い、家も失い、仕事も失った。そりゃそうだろう。借金取りが、会社まで取り立てにきたのだから···。



『もう明日から来なくていいから···』


 会議室に呼ばれた真下は、そこに並んで座ってる面子を見て、自身の解雇を悟った。


『一応、自己退職扱いにしといたから』


 真下は、何も言えず頭を下げ、会議室を出て、広報室に戻った。あの時の同情なのか、好機なのか、わからない視線が突き刺さった。



「うん。熱、下がったみたいだね」


「うん。すま···」謝ろうとした真下の頭を女の子が、叩いた。


「もぉ、何度も謝らない! さっさと病人は寝る! じゃ、私は学校あるから、行ってくるね!」


 女の子は、言うだけ言うと、バタバタと部屋を出て、バタンという大きな音が真下の耳に届いた。


「3日間? 今日何日?」と部屋に貼られた大きなカレンダーを見ても、今日がいつなのかすら真下にはわからなかった。


「トイレ···」


 なんとかして起き上がった真下は、フラつきながらも壁伝いに少女の部屋を出て、目を見開いた。


「大きな家だな」


 廊下すら今まで住んでいた真下の廊下より数倍も広く、小さなライトが壁につけられていた。


 トイレの扉が、なかなか見つからず、やっと辿り着いたと思ったら今度は少女の部屋に戻れず、着いた頃には息が切れていた。


「いまは、午後の1時か。これ食っていいのか?」


 枕元に置いてある小さなおにぎりと沢庵、ポカリスエットがあり、真下は頭を下げながらおにぎりを1つ食べ、2つ食べた。


(米を食ったのはいつ降りだろうか?)


 まともに食事をしたことすら、いつか覚えてはいない。


 ポカリスエットも喉を鳴らし、飲みきった。


「ありがとう。ほんとに、ありがとう」


 真下は、何度も何度もおにぎりが乗った皿に向かって頭を下げ、出て行こうとしたが、出る前に一度だけ少女に会いたかった。



 だから、少女の顔を見、作ってくれた料理を食べ、こっそりと家を出ようとしたのに···


「行かないで···」


 玄関を開けたら、目の前で少女が立ちふさがっていた。


「どうして···?」


 こんな俺の為に?泣く?


「行っちゃやだ! おじさん、行くとこ無いんでしょ? 仕事は? 仕事はどうするの?」


 真下は、少女には何も話してはいなかったが、少女が手にしていたのは、会社から渡された解雇通知だった。


「ごめんなさい···。これポケットから落ちて···」


「いや、いいよ」


 出て行こうとした真下だったが、何故か外は雨。いつからいたのか知らないが、少女はびしょ濡れで立ちふさがっていた。


「じゃ、仕事見つかるまでいいのか?」


(仕事さえ見つかれば、なんとかなる)


 そう思い、真下は倒れた少女を抱き、家の中へと戻った。



「ごめんな···。迷惑ばっか掛けて···」


 熱でうなされる少女を助けられた真下が、看病する。思えばおかしな話だが···。


 翌日もまだ熱が高い少女が通う高校へ、病欠の電話をした時、担任の先生がかなり驚いていたのが、なんとなく面白くて、熱が下がった時に少女に話してあげた。


「あ、私。井崎理子、現役の女子高生」


「俺は、真下。真下真司。無職です」


 それが、俺と理子の新たな出会いだった。



(ねぇ、おじさん? 愛莉ってだぁれ? 奥さん?)

複雑な家庭環境で育つ少女とおじさんの?


誤字脱字ありましたら、お願いします。

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