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敦が、言った。
「これって…追放者を決めるって事は」と、梨奈と典子の方へ視線をやった。「ああなる人間を決めろってことか?なあ、そういうことか?」
段々に声に余裕が無くなる。回りの皆の表情ま凍り付いて引きつって行く。光がむっつりとテーブルに肘をついて言う。
「落ち着け。だからってどうするんだ?きちんとゲームをしないと、オレ達みんなルール違反でああなる運命だ。だったらサッサとゲームを進めて、人狼と狐を消して終わらせるよりない。こっちの命を握られてるんだぞ?パニックになって正気を失ったら終わりだ。」
今光が言ったことを、皆が理解しようと黙り込む間に、美津子が決然とした顔を上げた。
「その通りだわ。」美津子の顔には、不安より怒りのような色の方が濃かった。「全くその通りよ。早くこのゲームを終わらせて、こんな腕輪は外させなきゃ。それでなくてもとても村は厳しいわ…初日から二人が居なくなって、残りは14人。この中に人狼3人、狂人1人、妖狐が2人も居るのよ。普通のゲームと違ってどの陣営からも役かけがあり得るわけだから、あの子達が敵陣営だったらラッキーだけど、そんな危ない橋は渡れない。そうするとあと6吊りで5人外プラス狂人な訳だから、気を引き締めて行かないと。」
孝浩が、口を開いた。
「そう考えると、犠牲を少なくするなら全員にCOさせたらいいんだよね。」皆が驚いた顔をする。孝浩は顔をしかめた。「そうじゃないか?だって明日の夜人狼を一人吊って占い師二人に狐を呪殺させて、夜に狩人が守っている一人襲撃してもらってグッジョブ出す。明後日一人狼吊って夜またグッジョブ。明々後日残りの一人の狼吊ってゲームは終わり。二晩だ。犠牲はたったの五人で済むしゲームは終わる。」
貴子が、パッと明るい顔をした。
「ほんとだわ!」と、隣の佳代子を見た。「なんだ、簡単じゃない!」
佳代子も、ホッとしたような顔をする。しかし光は、首を振った。
「誰が犠牲になりたいと思うんだ?狼と狐が自分で死ぬのが分かってるのに私ですって出るのか?あの二人が目の前であっさり殺されたのを見たばっかりなのに?」
美奈は、体を固くした。犠牲に…なりたくない。みんなが助かるならって、思えるような間柄じゃないし。光一人なら、助かって欲しいと思うけど、一緒に生き残らなきゃ意味がない。自分が死んで、みんなが喜ぶなんて…。自分が死んだ後、他の女子達が喜んで光と楽しくしているなんて…。
健吾が、険しい顔で頷いた。
「確かにな。それに、そんな風に勝ったからってどうなるかも分からない。そこに言及がなかったじゃないか。部屋にある、ガイドとやらを読んでみなくちゃわからんな。」
貴子も、他の皆も一気に消沈した顔をする。光は、そんな空気に立ち上がった。
「とにかく、今夜は寝よう。もう夜中の1時だ。そしてそのガイドとやらを読んで、明日からの対策を考えよう。」と、死んだ二人へ目をやった。「あの二人にも、部屋があったんだろう。そこへ運んでおこう。このままここに放って置く事も出来ないしな。」
頷いた健吾が、光に続いて典子と梨奈の方へ歩いて行く。
それを見ていた他の男子達も、足取りも重く二人の遺体へと歩いて行った。
美奈はそれを見ながら、このままでは殺される、と心の底からフツフツと湧き上がって来る恐怖を感じて、しばらく立ち上がれなかった。
結局、4人の男子達で手分けして二人を運び、残り二人の男子達はその4人の荷物を肩に螺旋階段を二階へと上がった。
途中、口を開く人は誰一人居らず、ただ重苦しい空気だけが流れて息苦しい。
美奈は、トボトボと最後尾を歩いていたが、階段を上がった所に皆が立ち止まったので、美奈はそれ以上上に登ることが出来ず、階段の途中で上を見上げた。
廊下は、幅1メートルほどの狭いもので、そこにズラリと部屋のドアが並んでいるのが見えた。
階段を上がってすぐにあるのは8の部屋で、そこから右を見ると9だったので、左端から順に番号が打ってあるのだろうと容易に推測出来た。
光が、ホッとしたように言った。
「ああ、7はここだな。良かった、近くて。案外に人ってのは重いから、落としてしまうかとヒヤヒヤしてた。」
それには、一緒に運んでいた敦も苦笑した。
「お前もか?こんな時に不謹慎だと言えなかったが、オレも腕が限界なんだ。運び込もう。」
同じように5番の典子も、健吾と孝浩に運ばれてドアの中へと消える。
残った者達が戸惑っていると、美津子が手を叩いた。
「さあ!ボーッとしてたら非常時には生き残れないわよ!各自今夜は無事なんだから、サッサと自分の部屋へ入る!」
そう言われて、みんなハッと我に返ったような顔をすると、慌てて自分の番号の部屋を探し始めた。
美奈も急いで残りの階段を駆け上がると、左の端から2番目を目指して急いで向かった。
他の部屋と何ら変わりないその扉の前で、美奈はドアノブに手を掛けた。ドアの横の、番号プレートの下には、カードキーを通すだろう機械が付いているのが目に入る。
美奈はキーを持っていなかったが、同じように持っていないはずの光達が難なく他の部屋へ入って行くのを見た後だったので、ためらいなく開いて、中へと足を踏み入れた。
そこは、小綺麗なビジネスホテルのシングル部屋といった感じだった。
入ってすぐ右脇にはクローゼットがあり、その前には大きな鏡がある。そしてクローゼットの隣りには、ユニットバスがあった。
正面には大きな窓があり、右側奥にはベットが頭を窓に向けて設置してあった。
左の壁にはドレッサーがあり、椅子もあった。
窓の前には小さなテーブルと、椅子が2つあって、ドレッサーの向こう側にはテレビがあった。
どちらにしても、一人で泊まるなら充分な広さだった。
案外にきちんとしている部屋にホッとしつつ、クローゼットの中に荷物を置いていると、まだ閉じていなかったドアの向こうから光の声がした。
「美奈?ああ、ここも同じか。じゃ、オレ隣りだから。また明日な。」
そのまま去ろうとする光に、美奈は慌てて言った。
「光!」光は立ち止まる。美奈は何を話すつもりだったのだろうと焦ったが、とにかく言った。「あの…やっぱり、ここでリアル人狼ゲームをするしかないの?」
思わず口に出たことだったが、光は顔をしかめた。
「美奈には悪いと思ってる。こんなことに巻き込まれることになって。でも、オレも被害者なんだ。何とかやめることが出来ないか考えてみるが、多分この腕輪がある限り、無理だろうな。」
美奈は、腕を見た。気を失っている間に、巻かれていた腕輪…。
「…光は、人狼じゃないよね?」美奈は、自分でも思わなかったことを口にしていた。「信用していいよね?」
必死な表情になってしまっていたらしい。光は、一瞬険しい顔をしたが、美奈の頭をぽんぽんと叩いた。
「お互い様だろ。お前だって人狼でも妖狐でもないな?オレはお前を信用していいのか?」
美奈は、言葉に詰まった。そうだ、自分は妖狐…片割れが、光でないことは確かなのだ。つまり、光が人狼だろうと村人だろうと、敵なのは変わりない。
「…も、もちろん…こんなゲームだから、お互い信用ならないのかも、しれないけど…。」
光は、じっとそんな美奈を見ていたが、フッと笑って言った。
「そうだ。そうやって人に役職を聞くのは、別陣営のヤツじゃないかと勘繰られて吊られちまう可能性がある。だから、他のヤツにそんなことを聞いちゃ駄目だぞ。美奈、命が懸かってるんだ。分かったな?」
美奈は、黙って頷いた。敵…光は、敵なんだ。お互い、殺し合うような陣営同士なんだ…。
美奈が黙っているので、光は踵を返すと、隣りの1番の部屋へと入って行ったのだった。




