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獣は密かにヒトを喰む  作者:
美奈
5/50

1 槌田光(26)

2 前原美奈(26)

3 田村学(18)

4 八代賢治(18)

5 田沼典子(20)

6 城山美津子(32)

7 山本梨奈(22)

8 高橋利典(28)

9 三村貴子(20)

10 安井佳代子(24)

11 川村真理(18)

12 石田留美(18)

13 三木薫(18)

14 小島孝浩(20)

15 北村敦(24)

16 竹中健吾(24)


美奈は、それを見て思った…今、座っている椅子の並びと同じだ。つまり、たまたま座った椅子の番号をつけられて、それで役職が決定したのだ。

美奈と同じ妖狐陣営の6番は、美津子だった。美奈はホッとして美津子を見たが、美津子は険しい顔をしたまま、こちらをチラと睨むように見ただけで、視線を反らした。

それを見た美奈はびっくりしたが、急いで下を向いた。何か、いけないことでもしたのかもしれない。

「…椅子に、番号が刻んである。知らない間に、オレ達は自分で自分の番号を決めてしまってたってことか。」

光が、苦々し気に言う。

敦が、椅子から立ち上がって言った。

「だから、こんな強制的なのは嫌だろうが!オレ達は、そんなためにこの長い休みをここで過ごそうと集まったんじゃないはずだ。一つのゲームしか出来ないなんて、面白味がないぞ?光も言ってたじゃないか。」

隣りに座っている、14番の孝浩が頷いた。

「確かにそうだ。いろんな村を体験したいって、役職カードだっていろいろ持って来たんじゃなかったか?ほら、月夜の人狼とか、いろんなタイプのカードをさ。」

モニターの声が応えた。

『何度も言っているように、普段では体験できないような人狼を体験させようと言っているのです。普通の人狼ゲームを取り扱っている店で、これほどに手間と金を掛けたゲームが出来ますか?これは良い機会だと思いますがね。』

「でも…なんだか怖いわ。」そう言ったのは、10番だった。美奈はサッとモニターの名前を確認した…安井佳代子だ。「吊られちゃったらゲームに参加できなくなるし、襲撃されてもよ。夜、襲撃されたと案内されたら、へこみそう。」

意外にも敦は、それを聞いてふーんと顎を触って考えるような顔をした。

「確かに…怖いな。だが、そんな恐怖が普段味わえないのも確かだ。吊られても仕方ない、次のゲームで頑張るかとかってあきらめる事も無くなるし、ある意味ガチで戦えるわけだ。」

健吾が、フッと諦めたように肩の力を抜いた。

「まあなあ。本当のガチ人狼ってのをやってみたいと思ってたし、ここに居る半数ぐらいは簡単に諦めそうなプレイスタイルの奴らだから、あんまり神回とか期待出来ないかなあと思ってたから、それぐらいの緊張感はいいのかもな。」

ここに居る半数は女子だ。暗にそれを匂わせているのだが、言ったのがガチムチなタイプの健吾だったので、女子達はむっつりと黙っただけだった。

しかし、一人の女子が言った。5番だったので、それが田沼典子なのだと美奈にも分かった。

「でも…たくさんゲームをやって楽しむんだと思ってたのに!光さんだって、ゲームの合間にいろいろ話を聞かせてくれるって言ってたじゃない。そんな長いゲームしてて、ゆっくり話す時間もないなんて!私は、リアル時間人狼ゲームには参加しません!やる人はやってくれたらいいわ。やらない人は、脇で他のボードゲームとかして楽しみましょうよ。そっちの方が、絶対楽しいって!」

すると、不満そうにしていた二つ隣りの席の7番の山本梨奈がテーブルへと乗り出して典子の方を見て、嬉しそうに言った。

「ほんとにね!じゃあ私もそうする!」と、嬉々としてじっと黙っている光の方を見た。「ねえ光さんもそうしませんか?人狼だったら、別にも出来るし!」

しかし、光はただ、黙っている。

あまりにじっと黙っているので、美奈はどうしたのかと思ったが、光はとても真剣な顔をして、ただモニターを睨んでいたのに驚いて、声を掛けられなかった。

光が答えないので、典子と梨奈は焦れて椅子から立ち上がった。

「ええっと、じゃあ私達はリアル人狼には参加しません。ってことで、あっちのソファに行くよ?他に、一緒にボードゲームとかしたい人、こっちへ来てね。」

何人かの女子達が、隣同士で顔を見合わせてどうしたものかと目で話し合っている。腰を浮かそうとしている者も居た。しかし、美奈にはそんな風に話し合える女子も居なかったし、何より隣りの光がまだ険しい顔をしたままじっと座っているので、動くことが出来なかった。

わざと楽しげにあちらの皮張りのソファへとダイブするように座った典子と梨奈に、皆がチラチラと光や他の女子男子、そして典子と梨奈と視線をあっちこっちへと移して動きを探っている中、モニターからの声が言った。

『…では、5番の田沼典子さん、7番の山本梨奈さんは、ゲームに参加しないということでいいですか?』

その声は、まるで軽蔑するような色を醸し出していたが、二人は気にする様子もなく、モニターに向かってベーッと舌を出して見せた。

「もちろん!私達は言いなりにゲームに参加したりしません!」

それを聞いた時、光が横で、小さく言った。

「…まずい。」

「え?」

美奈が聞き返そうとした時、上から被るようにモニター声が、まるで歌うように言った。

『では5番と7番を追放致します。』

梨奈と典子のせせら笑う声が聴こえる。

「参加しないって言ってるのに、追放ってなに~?」

「ほんと~馬鹿みた…、」

一瞬だった。

まるでスイッチを切ったかのように、二人の声は途切れた。

こちらに座っていた残りの14人がそちらを見ると、二人はまるでマネキンのように、四肢を投げ出して目を開いたままソファの上に大の字で倒れていて、ピクリとも動かない。

「え…」そちらに向かって背を向けるように座っては居たが、一番近い位置に居る光と、健吾が立ち上がった。「何だ、どうした?」

健吾が、先に立って歩いて行く。光が、その背を追った。残りの皆は、それを不安そうに見ている。健吾が典子を、光が梨奈を見て、手首や首筋に触れていたが、先に触れていた、健吾が一気に飛び退ってこちらへと背中を向けたまま戻った。

「どうしたんだよ、健吾?」

敦が言うのに、健吾はその、ゴツイ指を典子へ向けて言った。

「…死んでる。息をしてないし、脈もない。」

「なんだって?!」

敦は、自分も椅子を飛び出して典子の方へと走った。隣りで、光も神妙な顔で再度確認している敦を見守った。

「…マジか…目も閉じてないぞ。一瞬で、何をされたんだ。」

光が、隣りで首を振った。

「分からない。こっちの梨奈も同じだ。死んでる。」

そこで初めて、女子から悲鳴が上がった。

「きゃああああああ!!」

一気に騒がしくなった中でも、よく通るモニターの男声は言った。

『追放です。ルール違反者には皆平等に同じ処置が下されます。ここへ到着した時点で、皆さまはゲームに参加することになっています。ゲームから途中離脱することは許されておりません。よって、5番7番は追放されました。』

その、落ち着いた声が、逆に皆の恐怖を駆り立てた。あっさりと…本当にあっさりと殺してしまうんだ。何をしたのか、全く分からなかったけど。

「そんな…そんな…!!」

女子達のむせび泣く声が聴こえる。だが、美奈はそんな事態になっているのにも関わらず、そんな感情は湧いてこなかった。ただ、実感が無かったのかもしれない。

光が、椅子へと戻って来ながら言った。

「さっき、一斉に意識を失わされただろう。そんなことが、簡単に出来る相手なんだ。腕に、こんな物まで着けられているのに、下手に逆らわない方がいいに決まっている。オレは、逆らうのがまずいんじゃないかと気付いたから、黙ってたんだ。」

「気付いてたんならどうして言ってくれなかったのよ!」9番の、三村貴子が叫んだ。「典子も梨奈も、死んじゃったじゃない!」

光は、椅子へと腰かけながら答えた。

「確証が無かったし、あの二人の決断だろう。オレには口出しする権利などない。とにかく、これ以上犠牲が出ないように考えるだけだ。」

『もういいですか?』うんざりしたような声だ。『説明に必要以上の時間を取っています。これ以上邪魔が入るなら説明無しでゲームに臨んでもらいますが?』

驚くほど冷たい声に、泣いていた女子達の声も、ピタリと止んだ。敦と健吾も急いで自分の番号の椅子へと戻り、シーンと静まり返る。

モニターの声は、満足げに続けた。

『では、変更もありましたしもう一度ルールの確認を。役職の振り分けは変わりません。ただ、二人の追放者が出たことで、役職欠けが出た可能性もあります。最初に、役職欠け無しとお伝えしましたが、その点の変更だけご確認ください。』

誰も何も言わない。だが、頭の中では役職欠けが出たせいで、分かりづらくなったと思っていることだろう。

声は続けた。

『先ほども言いましたように、毎日午後8時にこちらの自分の番号の椅子へと座り、一斉に投票してください。そして、その日の追放者を決めてください。夜10時には自分の番号の部屋へ戻ってください。二階へ上がって頂きましたら、各々番号のついた個室がご準備されてあります。時間のこと、各役職の行使の仕方は各自の部屋に詳しくガイドを置いていありますので、それを参照してください。詳しいルールも、各部屋に備え付けのガイドを参照してください。冷蔵庫、棚にあるものは、何を食べてくださっても結構です。各自決められたルールに従ってくだされば、楽しいリアルな人狼ゲームを楽しむことが出来ます。』と、ここで一呼吸置いた。『本日はこれまで。明日の朝から、自分の陣営の勝利のために、頑張ってください。念のため申し上げますが、こちらの防音設備は完璧で、どのような叫び声も遮断し、プライバシーは完全に守られております。ご安心ください。では。』

「ちょっと待っ…」

ブツ、と何かを切った音がする。

皆は取り残されて、どうしたらいいのか分からなかった。

梨奈と典子の空虚な何も映していない瞳が、しかし全員にこれから逃れられないのだ、と知らせていた。

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