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相変わらず、二階はシンと静まり返っていた。

その中を、敦は必要ないと分かっていながら息を殺して学の部屋の前まで歩く。学の部屋はそれほど遠くではなかったが、敦はわざとゆっくりと歩いた。だが、階段からほんの数歩の位置であるそこは、あっさりとたどり着き、そしてドアノブへと手を掛けた。

いっそ狩人が残っていて守っていてくれたらと思ったが、ドアは難なく開いた。もしかしたら、本当に狩人はもう居ないのかもしれない。

敦が後ろ見ると、真後ろで光がじっと待っている。自分が先に入るしかないのだと観念した敦は、渋々ながら学の部屋の中へと入って行った。

学は、正面の椅子に座って机に突っ伏していた。

どうやら、直前まで何かをしていたようで、突っ伏した机の上にはメモとペンが転がっている。

当の学はぴくりとも動かず、目を閉じる暇もなかったのか、目を見開いたまま窓の方の虚空を見つめていた。

「ひ…っ!!」

学の目が開いていたので敦が思わず声を上げると、光が回り込んで来て学の顔を覗き込み、ああ、とその瞼を手のひらで閉じた。

「心配しなくても意識はない。一瞬だったんだろう。学自身も分かってないと思うぞ。さあ、一昨日教えただろう?やってみろ。もしオレが吊られたら一人だぞ。」

敦は、思わず唾を飲み込んで、学の首を見た。一昨日光がやっていた…あの辺り。

敦は、そっと震える指で学の首に触れた。すると、確かにどくどくと脈打つ場所を見つけることが出来る。確かに今生きている学の命を、自分はこれからたった一突きで絶とうとしている…。

敦の脚は、ガクガクと震えた。それを見ても、光はただ黙っている。敦は、どうしても自分がやらなければいけないのだと悟った。そうして、短いナイフを持ち替えると、今確認したばかりのその場所へ、敦は思い切って一気にナイフを突き入れた。

ナイフはいとも簡単にその首筋へと吸い込まれて行く。

それを見た光は、敦の腕を引いた。

「返り血を浴びたら後が大変だぞ。」

腕を引っ張られたので、ナイフがその拍子に抜けた。

すると、抜けた所から一気に物凄い量の鮮血が噴き出して来た。

「うわ!」

敦は声を上げたが、光が自分を引っ張ったのでまともに浴びるのは避けられた。敦は目の前で段々と勢いがなくなるその血しぶきを茫然と見つめながら、棒立ちになっていた。光は、黙って敦の腕を引っ張ってバスルームへと押し込むと、言った。

「ナイフと手を洗え。大丈夫、返り血は浴びていない。これで明日は、オレに黒は出されない…ただ、オレを占うと宣言していたから、まず明日疑われるのはオレだろうがな。」

敦は、そう言われてハッとした。確かにそうだ…結果を出されたくないから、襲撃したのだと思われたら光が筆頭で疑われる。

「待て。だからお前、オレに今夜襲撃させたのか?明日、一人かもしれないから?」

光は、苦笑した。

「最初に覚悟しろって言っただろ。もちろん薫も居るし、簡単に吊られるつもりなどないさ。明日はオレと一緒に疑われている健吾を吊れるようにしたいと思っている。学が吊られたってことは、真だと村に言ったようなもんだから、これで利典の黒も村目線確定する。明日は美奈の呪殺が成功していたら残り六人で2縄。人外はオレとお前の二人。明日村が間違えたら、勝てる。気を抜かずに頑張るんだ。」

敦は、もしかしたら自分だけになるかもしれないという事実に、人狼陣営の運命を背負わされるのだと言い知れない不安を感じていた。




「敦?」

敦は、今までのことを走馬燈のように思い出していて、我に返った。

皆で毎朝の犠牲者の確認を終え、一階へ降りて来てソファに座っていたのだ。

今日の犠牲者は、昨夜敦が襲撃した学と、その学が占った美奈だった。

だが、占い先が変わっていた事実を知る村人は居ない。敦は、光と薫が言っていた事実が間違いないのだと知って、落胆していた。一見、一生懸命頑張っていたように見えた美奈も、所詮自分が生き残ろうと回りに媚びていた狐だったのだ。

「ああ…賢治。」敦は、呼びかけられて、弱々しく微笑して見せた。「いや…美奈ちゃんが偽だったって分かって、ちょっとショックで。村人として一生懸命頑張ってるように見えたのに。」

賢治は、こちらの疲れ切った顔でがっくりとうなだれて頷いた。

「だな。オレだって同じだ。最初から偽かもしれないって疑ってた光と健吾は正しかったってことだ。で、薫は呪殺したんだし真占い師だったって、分かっただけでもラッキーだと思おう。」

敦は、無言で頷いた。死体の確認をした際、美奈には首に縄が巻き付いているだけで、学は刺殺されていた。つまり学は襲撃され、美奈は呪殺されたのだろうということで村に意見は確定していたのだ。

「襲撃されたってことは、学は真占い師だったんだろう。」健吾が、淡々と言った。敦は、来た、と思いながら健吾の方を見る。健吾は続けた。「学が占おうとしていた先は、光じゃないか。黒を打たれるのが分かっていたから学を襲撃したんじゃないのか?つまり、光が人狼だろう。」

それは賢治も思っていたようで、光を見る。光は、諦めたようにため息をつくと、答えた。

「まあそう考えると思って、わざわざ学を襲撃したんだと思うぞ。オレはそんな分かりやすいことはしない。むしろオレが白だと分かったら面倒だと思ったヤツが村をそう誘導しようとやったことのように思えるぞ。つまりそれを言い出した、お前が怪しいとオレは思っている。正直今お前がそれを言い出すまで、オレは敦かお前かと悩んでいたんだ。だが、敦は美奈の結果にショックを受けて思考も停まってるみたいだし、人狼なら予測出来てたんだからこうはならないだろう。つまり、お前が人狼。しかも、ラストウルフだ。」

健吾は、一気に顔色を変えて身を乗り出した。

「オレじゃない!それに、どうしてラストウルフだって分かるんだよ!それが分かってるお前は怪しい!」

光は、冷静に言った。

「消去法だよ。」光は、そこに座る皆を見回した。「まず共有者の二人は村。薫は呪殺で真だと証明された。敦は今言った通り村だと判断した。オレは自分で自分の白を知っている。そうなると、お前しかいない。霊能が偽だったわけだから、留美は薫の白だし佳代子が狼だったとオレは考えている。もしお前で終わらなかったら、そうは見えないが敦だろう。吊って終わりだ。」

賢治と貴子が困惑したように二人を見ている。敦も、それに合わせて分からないような、混乱したような表情を無理に作って黙っていた。薫が、言った。

「うーんどっちかなあ。占ったら分かるんだけど、あと一日待てないんだよね。もし光が言う通り後一人なら明日が来るけど、もし二人残ってたらさあ、今日間違えたら終わりだよ?絶対間違えられないじゃん。」

とてもじゃないが、言っている内容とはそぐわないおっとりと落ち着いた言い方だった。賢治は、それを聞いてハッとして、急いでノートを見ると、目を見開いた。

「…ほんとだ。」賢治は、ガクガクと震え出した。「今日間違えたら、終わりだ!もし、二人残っていたら…!」

光が、賢治を落ち着かせるように言った。

「大丈夫だ、賢治、落ち着け。どっちにしても健吾を吊っておけば明日最悪一狼なんだ。今日終わらなくても明日薫にオレか敦を占わせたら、片方の色が分かる。村目線でも問題ないだろう。」

震えながら頷く賢治だったが、隣りの貴子が光を睨んで言った。

「誰も信じれられないわ!光くんは美津子さんに黒を打たれてる。美津子さんは呪殺されて狐だと分かったけど、狐が狼を知って排除しようとしていたのかもしれないじゃない!私は、光くんの方が怪しいと思うわ!こんなに村に意見を落としているのに、ここまで噛まれずに残っているなんておかしいと思う!」

光は、貴子を睨んだ。

賢治は、迷うように光と貴子をおろおろと見ていた。

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