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敦は、美奈が何か話したそうな顔をしているのは知っていたのだが、光の言葉が頭を過ぎっていてとても今まで通りに話す気にもなれず、さっさと挨拶だけして部屋へと戻って来た。

敦が、息をついてベッドへと座り、何をするでもなくボーっとしていると、腕輪が鳴った。

「?」

光かと思いながら腕輪を見ると、そこには3、学の数字が出ていた。

驚いた敦は、急いで応答しようとエンターキーを押した。

「学か?どうしたんだ。」

敦が、努めて落ち着いて聴こえるように言うと、学の声はそれに反して困惑しているようだった。

『ちょっと、悩んでいて。薫とも話したんだが、占い先のことなんだよ。』

敦は、驚いた。そもそも、自分もグレーなのに、どうして自分に通信して来たんだろう。

「なんだ、オレもお前のグレーだろう?いいのか、賢治でなくて。」

敦が言うと、学の声は焦っているようだった。

『いや、言えないんだ。薫が、オレ達は脅されている、って言って。扉の下から殴り書きにされた手紙が放り込まれていたんだって。まだ薫のことは分からない、悠長にしていられないから、美奈ちゃんはオレに占わせろと。共有に言ったり、指示に従わない場合は襲撃すると。狩人はもう居ない…オレ達は知っているって。』

敦は、何のことやら分からなかった。そんな指示をした覚えもないし、光もあり得ない。薫に任せていると言っていたのだ。

つまり、薫が策した事ではないかとだけは予想がついた。

「なんだって?意味が分からないよ。襲撃するって…それは、狼陣営からの手紙か?!」

学の声は震えているようだった。横に誰か居るのか、何かをボソボソと言う声がした。少し間があって、学は答えた。

『そうだ。オレも薫も怯えてる。従わなかったら死に方を選んでおけって…人狼は結構見えていて、利典を吊らせたオレを恨んでるんだ。でも、どうしたらいいのかって…。共有には言えないと思ったら、行動が白いお前に思わず通信してた。』

お前、人狼に助けを求めてるぞ。

敦は思ったが、声には気遣わしげに言った。

「それは従っておいた方がいいな。」敦は考え込むような声色を出そうと努力した。「もしかして人狼は、美奈ちゃんが狐じゃないかって思ってるんじゃないのか?学、きっと美津子さんを呪殺したんだ。だから、薫より確実な学に占わせて、美奈ちゃんが狐かそうでないか、知ろうとしてるんだよ。でも、それは村にとっても有益だ。狼の奴らが狐を始末したいなら、させておこう。明日からのことはそれから考えたらいいさ。まずは、襲撃されずに生き残る事が先決だ。」

学の声は、疲れたように答えた。

『そうだな。薫もそう言うんだよ。とにかく共有には言えない。賢治のことだ、大騒ぎしてあっちこっちに通信してお前が人狼かとかやりそうじゃないか。そうなったらオレは襲撃される。薫も。狩人が誰だったのか分からないが、人狼には見えてたんだ。ここは従うしかないよな。』

敦は見えないのを承知で頷いた。

「そうだよ、生き残らないと。お前が真占い師だと分かった以上、オレも全力で守る。光を占うのは、薫に任せよう。もう、時間も遅い。そろそろ役職行使の時間だが、間違えずにやれよ。」

そうしたら、美奈が狐でないと証明されるかもしれない。

敦はそう願いながら、通信を切った。

そして薫の姑息さに、こちらも警戒しなければと表情を険しくした。隣りに、薫が居たような気がする。薫の入れ知恵で、敦に電話して来たのだとしたら…?

薫は、敦を残りの人狼だと思っている可能性が考えられるのだ。

もし薫が狂人以外だったことを考えて眉を寄せて考えていると、ふと、部屋の閂が回るガチンという音がした。

ここ数日で、それが10時の消灯時間の合図なのだと知った敦は、これで11時まで、村人も人狼も通信でしか話が出来なくなったと思った。

敦が緊張して早く襲撃時間にならないか、と思っていたら、また腕輪から着信音が鳴った。

今度こそ光かと思って画面を見ると、そこには13、と出ていた。

薫…!

敦は、思った通りだったと思った。薫は、光だけではなく、敦も人狼だと悟ったのだ。それがどうしてなのか分からなかったが、とにかく無視をすることが出来ないとエンターキーを押した。

「もしもし。」

すると、いつもの間延びした言い方ではなく、はっきりとした口調の声が聞こえて来た。

『敦。君がもう一人の人狼だね?』

敦は、予想出来たことだったが、何と答えたらいいのか分からず、とにかく言った。

「はあ?学から聞いたが、お前脅されておかしくなったんじゃないのか。占い師なんだからオレを占ってから言ったらどうだ。」

薫の声は、イライラと言った。

『なんだよ、バレたからそんなこと言うの?オレ、考えたんだ。普通に考えたら健吾が怪しいが、光と人狼同士だとしたら、光は絶対仲間の人狼にそんなバカなことはさせない。自分と意見を変えろと言ってあるはずだ。初日から光は美奈ちゃんには素っ気なくて、敦がぴったりついてた。意見も時に対立させてみたり、投票だって入れ合ったりしている。どう考えても、光の相方で光の入れ知恵があるんだとしたら、敦しか居ないんだよ。オレは、心の中で考えてたんだ。美奈が人狼だとしたら、相方は健吾なのかとか。光だったら、敦だろうって。だから、光がオレに連絡して来た時、ああ光と敦だ、って思ったんだ。美奈ちゃんは状況から人狼だとしか思えなかった。だが、それにしてはお粗末だなとは思ってたんだ…オレが代わりに吊られることまで考えてたよ。なのにあの女、オレを騙してたんだ。狐で呪殺されなかったら、明日思いっきり黒を打って吊ってやるつもりさ。』

薫からは、本物の恨みのような怒りのようなものを感じた。敦は、一気にそこまでまくし立てるように話した薫に、ため息をついた。

「まあ、お前の意見は聞いておくよ。光が何を連絡して来て何をお前に言ったのか知らないが、オレはまだお前を信じてないからな。学は絶対真占い師だろう。だから、美奈ちゃんを占うっていうならそれでもいいさ。オレは、美奈ちゃんは真霊能だと信じたいと思ってるよ。」

敦がそう言うのに、薫はしばらく黙った。

そして、苦々し気に言った。

『ふん。どこまでもしらばっくれるのか。まあいいさ、人狼には勝ってもらわなきゃならないからな。残念ながら、お前のお気に入りの女は狐だよ。せいぜいハラハラしながら明日を待ったらいいさ。』

そう一方的に言い切ると、ブツンと通信を切った。

敦は、いくら薫が本当に狂人だとしても、一緒に生き残りたいとは思わないと、思っていた。


夜0時を過ぎて、敦はいつものように閂が回る音と共に外へと足を踏み出した。

今回は、光の部屋の前に工具箱が置かれてある。光は、それを拾い上げると、敦に頷きかけた。

「じゃあ、下へ行こう。」

光が言うのに、敦は無言で従う。本当ならここで薫のことを言いたかったが、いくら完全防音とはいえ光のような能力を持つ者がいないとも限らない。

なので、黙って二人は一階へと降りて行った。


そこでもう毎晩のように繰り返している、人狼の会合を行おうとソファへと座る。敦は、開口一番言った。

「薫が、オレに通信して来た。」

光は、片方の眉を上げた。

「薫が?…そうかあいつはバカではなかったか。まあ健吾にでも通信されていたら今夜は健吾を襲撃しなきゃならなかったから、良かったじゃないか。」

敦は、首を振った。

「あいつが間違いなく狂人だってなぜ分かる?レアケースかもしれないが、美津子さんと二人で占いに出てた狐かもしれないんじゃないか?あいつを信じていいのか。」

光は、フッと息をついて、言った。

「確かにあいつはずる賢い。だが、今も言った通り馬鹿ではないんだ。まあオレに見透かされるぐらいだからオレよりは劣るがな。初日は黒らしく思える所を占って白、次の日は恐らく美奈を指定して守ろうとしたんだよ…白を打ってさ。だが、二死体出たから死んだ孝浩を占ったと言うよりなかった。次の日は美奈をあからさまに庇ったりした。美津子が呪殺されたのは薫目線確定だっただろうから、美津子さんと対立していて尚且つ人外臭い美奈は間違いなく人狼だったんだ。あいつの行動は一貫している…万が一の時は自分が吊られも陣営勝利させようとあからさまに勝負に出たんだろうしな。だが、占われるのが嫌な美奈は狐だとオレ達には分かる。薫は真占い師ではない。真占い師はあれほど何かを探るような探すような抜け目のない目で見たりしない。自分の占いに自信がある。だが、薫にはそれが無いように見えた。そうすると狂人しか後に残らないじゃないか。」光は、また息をついた。「ま、面倒なら噛めばいい。さらに村は混乱するだろうしな。」

敦は、納得がいかなかった。

「オレは薫を信じない。今日も、何を言ってるのか分からないと言っておいたぞ。オレは、あいつと共闘なんかできない。」

光は、厳しく自分を睨みつけてそう言い切る敦をじっと見つめ返してたが、言った。

「…わかった。もちろん狂人など別にどっちでもいい。うまい具合に見つかったから利用してやろうと思っただけだ。オレだって完全に信じたわけじゃないが、明日美奈が呪殺されたらあいつが狂人だと分かるだろう。とにかく最後まで票稼ぎにはなるんだ。様子を見よう。」と、工具箱を開いた。「じゃあ今回は呪殺とやり方変えておくか。明日美奈の首に縄を巻くのはオレ。今夜はお前が、好きな方法で襲撃してくれ…襲撃先は、学。」

身を固くする敦の前で、光はあっさりと学の番号である3を入力した。

『受付ました。襲撃先の部屋へ向かってください。』

腕輪から、無機質な声が告げる。

光に視線に促された敦は、初日光が襲撃する時に使った、小さなナイフの柄を手に握りしめて、そうして光と共に、重い足取りで螺旋階段を上って行った。

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