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43

1(光)→15(敦)

2(美奈)→12(留美)

3(学)→12(留美)

4(賢治)→15(敦)

9(貴子)→12(留美)

12(留美)→15(敦)

13(薫)→1(光)

15(敦)→12(留美)

16(健吾)→1(光)

画面には、大きく「12」と表示されていた。

光が、自分に入れているのは気になったが、恐らくは皆の議論の様子から票を読んで今切っておこうと思ったのだろう。薫も、指示通り光に入れてラインを切っていた。

「うそ!いや!」

留美が、大きな声で叫ぶ。

敦は、ホッとしたように肩の力を抜いていた。いつもの女声が、淡々と告げた。

「№12を、追放します。」

「いやよ!」

留美が椅子から立ち上がったのは見えたが、その後いつも通り真っ暗になって何も見えなかった。大きな機械が動くような音が聞こえ、モーター音らしきものが聴こえて来るが、今日はいつもと違っていた。

「きゃ、あああああ!」

留美の声が、比較的近くで聞こえる。そう、床の、すぐ下辺りだ。

「た、助けて!助けてええええ!!落ちる!誰か引っ張り上げてーー!!」

薫の声が、戸惑いがちに聞こえた。

「え?え?どういうことっ?何も見えないんだけど!」

薫は、留美のすぐ隣に座っているはずだった。

「あああもう駄目!手が!」と留美の声がしたかと思うと、途端にその声は遠ざかって行った。「きゃあああああ!!」

ドサ、と、暗闇の遠くの方で嫌な音がした。

「きゃーーー!!」

貴子の、悲鳴が聞こえる。

敦は、いつもと違うことが起こった、と身震いした。

気を失って終わりのはずが、留美は何かイレギュラーなことをしたに違いない。じっとしていたら、あっさり楽になれたのに…。

敦がそう思って眉を寄せていると、また大きな機械が動く音がした後、何事も無かったかのように、パッと照明が復活した。

留美が居た場所には、何も残っていなかった。

全員がいきなりの眩しい光の中で身動き出来ずに居ると、いつもの女声ではなく、ここへ来た時ゲームの説明をした男性の声が聴こえて来た。

『ここで皆様にご注意を。投票の後、追放作業が行われますが、その際、椅子などから立ち上がられると大変に危険です。その場にお座りになったまま、作業終了までお待ちくださいますようお願い致します。では夜時間の準備に入ってください。』

「待て!」敦は、主催者と話すチャンスだとモニターに向かって叫んだ。「留美はどうなったんだ!」

しかし、モニターはもう、何も答えなかった。

「今の…落ちたよな?」

学が、誰にともなく言う。薫が、頷いた。

「だと思う。声しか聴こえなかったけど、なんか床の辺りにぶら下がってるみたいな感じだった。その後、落ちて…なんかが潰れたみたいな音がした。」

「やめて!」貴子が、両耳を抑えて叫んだ。「聞きたくない!」

しかし、健吾が落ち着いた声で言った。

「だが、考えようによっては良かったのかもしれない。」美奈が驚いてそちらを見ると、健吾は続けた。「危険だから立ち上がるなと言った。つまり、あちらではどんな状態かは分からないが、吊られても危害は加えられていないということだろう。確かに死体を見た奴ら以外、生きていると考えられるぞ。」

確かにその通りだ。それで、光の言っていたことにも説明がつく。

敦は、そう思っていた。

だからといって、今の留美が死んでいないということにはならなかった。結構な高さがあるような感じの音だった…その高さから落ちて、生きていられるとは思えない。

光が、頷いた。

「だな。留美が身を挺してオレ達にそれを知らせてくれたと思ったらいい。」

みんな、鈍感になっているのだろう。留美が死んだかもしれないのに、貴子以外がそれでホッとしたような顔をした。

しかし、賢治がいきなり立ち上がった。

「ちょっと待て。じゃああの死んだ奴らはどうなる?勝ったら返してくれるはずだ。そう言ったんだし、現に吊られた奴らは戻って来る希望がある。だが、襲撃されたり呪殺されたヤツは別だってことなのか?そんなことは、最初の説明でもなかったぞ!」

賢治は、いきなり走り出した。

「賢治!」

敦は、ここでパニックになられては、乱されて計画通りに行かないかもしれない、と慌てて後を追う。

皆も、驚いて戸惑いながらも、賢治の後を追って螺旋階段を駆け上がった。




敦は賢治に追いついてその腕を掴んで廊下で必死に止めた。

「待て、賢治。今は夏だし、エアコンが利いてるとはいえ死んだ奴らが普通の状態とは思えない。開けない方がいいぞ。」

光が近付いて来ているのが視界の隅に見える。賢治は、首を振ってドアのノブを掴んだまま言った。

「こいつらだって、本当は死んでないのかもしれないじゃないか!確認しておかなきゃならないんだ!オレだって、今夜にも襲撃されるかもしれないのに!」

賢治は、貴子も出て来た今いつ襲撃されるか分からないから焦っているのだ。

狩人が生きていると思いたいが、今のところ狩人の護衛が成功したのかどうか分からない状態だ。もし役欠けが狩人だったら、狼がチャレンジ噛みをして来た時点で共有者は噛み放題になってしまう。

賢治は、怖いのだ。吊られる心配はないが、襲撃の心配は一番ある位置だからなのだ。

だが、敦と光から見たら、今は守られているかもしれない賢治を噛んでいる場合ではなかったが、それを言って落ち着かせることも出来ない。

とりあえず、これ以上混乱させたくなかったので、敦は

「だからって、寝る前に隣りに腐乱死体があるなんて誰も知りたくないだろうが!落ち着け賢治!」

敦がそう言って腕を離さないでいると、光がその敦の肩に手を置いて、言った。

「いい、敦。賢治が気が済むようにしてやれ。確かに賢治は危ない位置なんだ。もしもってことがあるだろうが。」

敦は、顔をしかめて光を見た。

「光…だが…。」

光は、頷いた。

「見た方がいい。どうなっててもな。」

敦は、迷っていたが賢治の腕を放した。賢治は、光に頷きかけてから、じっと扉を睨んで構えていたが、その、襲撃を受けた真理の死体がある、11の扉を勢いよく開いた。

誰もが怪訝な顔でじっと開いた扉と賢治を見ていた。賢治は、不思議そうに中を伺いながら、照明のスイッチを入れた。

「…匂いが、全くしない。」

敦も、不快なにおいを覚悟していた。

だが、思っていたような不快な腐敗臭は全くしなかった。それどころか、あの時感じた鉄錆のような本能に訴えかけて来るような、嫌な臭いも消えていた。

賢治が入って行くのに、光も続き、敦も戸惑いながらも光について入って行く。

それを見た健吾も、後ろから進み出て中へと入って行った。

「居ない…!誰も居ない!」

賢治の声が、部屋の中から聞こえる。薫が、別人のような険しい顔で他の扉へと向かった。

「学はそっち見て!僕もこっちを見るから!」

学は、おろおろとしていたが頷いて手近な典子の部屋、梨奈の部屋と扉を開いて行く。

「居ない…美津子さんも居ないわ!」

美奈の声が美津子の部屋から聞こえて来る。廊下から、薫が叫んでいる。

「こっちもだよ!学もそう言ってる!どの部屋ももぬけの殻だ…!」

敦は光と賢治と、健吾と一緒に真理の部屋から出て来て、チラと光の横顔を見た。光は、何かを知っているのだろうが、今のこの瞬間にはそんな様子は欠片もない。

「何もない。ベッドも新しいし、あれだけ飛び散っていた血しぶきすらきれいさっぱりなくなっている。いったい、みんなどこへ連れて行かれたんだ。」

光が言うのに、敦が横から言った。

「多分、ベッドごとどこかへ連れて行かれたんだ。そういう造りになってるんじゃないのか。」

賢治が、興奮気味に言った。

「じゃあ、あいつらも生きているかもしれない!どこかで、蘇生されてるんだ!きっとそうだ!死んでない!」

だが、健吾が眉を寄せたまま言った。

「…だが、確実に死んでいたぞ。オレはあれから何か人狼が痕跡を残してないか調べに入ったが、少なくともその日はそこにあったんだ…真理の遺体は。そんなに長いこと放って置いて、蘇生出来ると思うか?いくら何でも、そんなことは出来ないだろう。楽観的にならない方がいい。敦も言っていたように、ここにずっと置いておいたらゲームどころでない匂いが充満するから、撤去しているだけとも考えられる。」

落ち着いて言う健吾に、賢治は掴みかかった。

「なんだと?!お前はあいつらが死んでてもいいって言うのか!やっぱりお前が人狼なのか!」

側に居た敦と光が、急いでそんな賢治を抑えた。

「落ち着け、賢治!健吾が言うことは間違ってないんだ。オレ達だって、呪殺かどうか調べるために、何度か孝浩と美津子さんの部屋へ行ったが、二人とも間違いなく死んでたし、少なくともついさっきまではここに遺体はあった。真理や梨奈とか前に死んだ奴らは今日は見てない。時間が経ってたしどうなってるのか分からないしさすがに勇気はなかったからな。夜に死んで、そこから結構な時間放置されてたのに、蘇生出来るなんて医者のオレから見てあり得ないんだ。」

賢治は、目に涙をためて、光を見た。

「じゃあ、いったい何を心の支えにしたらいいだよ!」賢治は、まるで泣き叫ぶように言った。「自分が襲撃されても村が勝てばいいんだって、思えないんだよ、今のままじゃ!共有者として出て来たオレは、犠牲になるつもりなんてなかったんだ!オレだって生き残りたい!死にたくないんだ!」

賢治は、そう言い置くとまるで逃げるように自分の部屋へと駆け込んで行った。

襲撃されたら必ず死ぬと思っている賢治には確かに、つらいことだろう。

重苦しい空気の中、静まり返った廊下で、光がため息をついた。

「…仕方がない。今日の投票先はオレがメモって来よう。飯も食わなきゃならないぞ。もう、部屋へ入る時間も近いんだ。下へ行こう。」

そこに残された全員が、何を言う気力もない状態で、またリビングへと戻って行ったのだった。


階下には、まだ貴子がじっと投票のテーブルに座っていた。敦は、貴子が居ない、と思っていたので、やはり下で居たのかと様子を伺った。

「投票先を書いておこうと思ったんだが。」

光が声を掛けると、貴子は意外にも落ち着いた風で言った。

「もう、書いたわ。後で、私が賢治くんに渡しておく。」と、光を見上げた。「それで、死んでいたみんなは?」

光は、首を振った。

「居なかった。どこかへ連れ去られたようだ。」

貴子は、それでもこくんと頷いた。

「そう…。」

賢治のように、取り乱すこともない。

敦は、貴子の冷静さの下に暗い狂気のようなものを感じた。それは光も同じなようで、貴子の顔を覗き込んだ。

「貴子?だが賢治はまだ死んでるとは思ってないようだったぞ。どこかで蘇生されているかもしれないと言っていた。」

貴子は、フッと笑うと、首を振った。

「だって、確かに死んでいたのに。蘇生って、そんなに長く死んでても出来るものなの?」

光は、顔をしかめた。貴子は、思ったより頭の中は冷静なようで、賢治より現実が見えているようだ。

答えられないでいる光の横から、敦が言った。

「分からないよ。ここの連中が何を考えているのか、何がどこまで出来るのかも。確かに普通じゃない奴らだし、もしかしたらってオレも思いたいけど…でも、医者の光から見て、そんなことは考えられないみたいだ。」

美奈は、それは言わない方が良かったのでは、と思い、ハラハラしながら見ていたが、貴子はただ頷いて、立ち上がった。

「分かってるわ。平気よ。私は、共有者として出た時から、そうなるかもしれないって覚悟はしてた。賢治くんは私が出るのを嫌がって仕方がなかったんだけど…結局、自分が危険にさらされるのが嫌だっただけなのよ。私にはそれが分かったから、しばらく黙っていたけれど、投票対象になると言われたらさすがにね。それでも出そうとしない、あの人には私も愛想が尽きた気持ち。このノートを持って行って、私は私の考えで動くって話すことにするわ。」

それには、光も気遣わしげに言った。

「だが、お前達は間違いなく村人の共有者なんだぞ。お前達がそんなじゃ、村が混乱する。」

貴子は、それでも頷くことはせずに、ノートを手に階段へと足を向けた。

「村人だって分かるだけでも村には有益なはずだと思う。それじゃあ。」

そうして、貴子はそこを出て行った。

誰も、それを呼び止めることは出来なかった。

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