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獣は密かにヒトを喰む  作者:
美奈
4/50

入ったそこは、広いダイニングキッチンと、これまた広いリビングがある場所だった。

大きな窓が外の自然を見せているのだろうが、そこは今はシャッターが閉じていて何も見えない。

カウンターキッチンがリビングの方を向いていて、その後ろには、大きな冷蔵庫が二つも置いてあった。

食器棚の中には、これまた高そうな食器が幾つも並び、まるでモデルルームでも見学に来たかのようだ。

手前にあったキッチンからリビングの方へと歩くと、そこにあるたくさんの白い革張りのソファと、正面にある大きなテレビが見える。下には、毛足の長いクリーム色の大きなラグが敷かれてあった。

そして、リビングへと足を進めて左側を見ると、そこには大きな楕円形のテーブルに、肘掛のついた変わった形の椅子が回りを取り巻いていた。

そして、リビングのソファの方にあるテレビと対面になる位置の壁に、また大きなテレビらしきモニターが一つあった。

「こっちがダイニングで、こっちがリビングって感じか?でも、この椅子金属だし座り心地悪そう。しかも、なんか背もたれ垂直だし。」

歩み寄った、20代後半ぐらいの男が言う。敦が、同じようにそれを見て頷いた。

「だな。これだけ他は居心地良さそうなのに、なんだってダイニングだけこんな風なんだろうな。」

そんな会話をしていると、突然にパッとテレビが着いた。もちろん、リビングも、こちらの壁のダイニングの方も両方だ。

青い画面を背にしている状態なので、まるでNHKのテスト放送みたいな感じだったが、そこには、文字が現れた。

***ようこそ、人狼の館へ!こちらで、思う存分ゲームを楽しんでください***

美奈はびっくりしたが、他の者達はそれを見て微笑んだ。

「へえ、すごいな。ほんとに、思う存分人狼三昧で過ごせるぞ。」

そんなことを言っていると、テレビから声が流れて来た。

『では、皆様そちらの金属の椅子へと腰かけてください。こちらでの生活について、ご説明致します。』

皆は、顔を見合わせた。

「なんだ、音声でいろいろ説明してくれるってことか。」光が、金属の椅子へと歩み寄った。「ほら、みんな座ろう。こんな場所をただで使わせてもらうんだ、ルールぐらいはきっちり聞いて守らないと。」

それを聞いて、みんな慌てて手近な椅子へと向かった。美奈は、偶然近くに座った光に他の女子達が群がろうとするのに、負けてたまるかと急いでその、横へと座る。

モニターからの声が、続けた。

『では、しばしお休みください。それからご説明を致します。』

「え?」

誰かの、声が聴こえた。

だが、そこで美奈は、何も分からなくなった。




「美奈!おい、美奈!」

光の声…。

美奈は、ぼんやりとそう思って、そして、光の声!と我に返り、急いで目を開いた。

「目が覚めたか。」

「光…。」

美奈は、回りを見た。

全員が、ぼんやりとした感じでいる。

頭を振って意識をはっきりさせようとする者、隣りの人を介抱する者、いろいろだった。

「そうだ…何があったの?!私、急に目の前が暗くなって…、」

そこまで言って、右手に違和感を感じてそこを見ると、変な金属の時計のような物が巻き付けてあった。美奈は、それに全く覚えがなく、何が起こったのか分からない。

ふと見ると、光にも、そして他の人達にも、全く同じ物が巻き付けてあった。

「これ…!何?!」

美奈が怯えるのに、光は深刻な顔で首を振った。

「分からないんだ。オレも、気を失ってたらしい。気が付いたら腕にこれが巻かれてあって、みんな気を失っていた。それに、どうやってもこの時計か何だか知らないが、腕輪みたいなのが取れないんだ。」

その事実に、全員が気付き始めていた。何とかして取ろうと、腕輪をテーブルに打ち付けてみる者まで居たが、それでもこの腕輪は、びくともしなかった。

すると、またパッとテレビが着いた。無機質な、しかしよく通る男声が流れて来る。

『準備が完了いたしました。では、ご説明に入らせて頂きます。』

一人が、立ち上がって叫んだ。

「どういうことだ?!どうして、オレ達は気を失ってたんだ!」

声は、答えた。

『我々の管理下に置くためにですよ、高橋(たかはし)利典(としのり)さん。』声が、自分の名前を言ったので、利典はぐっと黙った。声は、嘲笑うような風情で続けた。『皆さまが大好きな、人狼ゲームの舞台を、こちらにご用意いたしました。これから数日に渡って、皆さまには人狼ゲームをして頂きます。ルールはご存知でしょうから、役職の内訳のお話を致しましょう。16人、役職多めの村になります。人狼3、占い師2、霊能者1、狂人1、狩人1、共有2、妖狐2、村人4。メモを取られる方はどうぞ。もう一度言います。人狼3…、』

そう言われて、美奈は慌てて自分のポケットを探った。確か、メモってもいいかもしれないから、メモろうと思ってここに…。

みんな、同じように急いで何か書く物は無いかと探っている。美奈は、いち早く見つけてそれに、役職の内訳を書きつけた。

無事に書き終えてホッとしていると、声は続けた。

『どんどん行きますよ。狩人の連続ガード有り、初日犠牲者無し、役かけ無し。初日占い無し。今回、ゲームマスターは必要ありませんので、全ての方にゲームに参加して頂きます。腕輪をご覧ください。』

皆、言われるままに腕輪を見た。声は続けた。

『液晶画面、テンキーが有ります。そちらの上に刻まれてある、数字が皆様のこれから使う数字になります。』

美奈の腕輪には、2、と刻まれてあった。隣を見ると、光の腕輪は、1だった。

そして声は、唐突に言った。

『では役職をお配り致します。液晶画面を隣の方に見えないようにご覧ください。10秒間表示されるので、人狼、狐の方は仲間の番号も忘れずにご確認下さい。』

ここに表示されるのか。

全員が慌てて自分の腕輪の小さな液晶画面を手で囲んだ。10秒で自分の役職を確認して隣の分まで盗み見るなんて難しいとは思えたが、それでも反射的に隠してしまう。

皆が固唾をのんで待つ中、パッ、と表示が出た。

美奈の腕輪の液晶画面には、

あなたは妖狐です。6番も妖狐です。

と表示されていた。

…妖狐…6番て誰…?!

とにかく番号だけは覚えておかなければ。

美奈は、必死だった。食い入るようにそれを凝視していると、表示はまたパッと消えた。

声が言った。

『役職の確認が終わりました所で、腕輪の使い方のご説明を致します。もう一度腕輪をご覧下さい。』

皆が素直に腕輪を見る。声は続けた。

『投票時、これを使います。投票する相手の番号を押し、最後に0(ゼロ)を3回押して下さい。投票は、それで受け付けられます。また、役職行動にも、使います。夜の役職行動時間内に、占い師、狩人、人狼の皆様はこちらへ番号を入力して行動します。ほか、こちらでは携帯電話などは電波が届きませんので、許された時間内なら通信が出来ます。通信したい人の番号を入力し、エンターキーを、押して下さい。呼び出しがあった時は、エンターキーで応答出来ます。通話を終える時も、エンターキーで結構です。ここまでて、質問はありますか?』

美津子が、どこに居るのか分からない相手に向けて手を上げた。

「あの、さっきから時間内とか何とか言ってますけど、みんな居る中で人狼とか狐とかも話し合うって事ですか?」

声は、答えた。

『いいえ。そんな事をしたらすぐにバレて皆に吊られて終わるでしょう。ここでは、時間に従って規則正しく生活しながらゲームをして頂きます。時間について、ご説明しましょう。画面をご覧ください。』

モニターに、一日のスケジュールが帯状のグラフで表示された。

『ご覧の通り、本日は初日ですのでこの限りではありませんが、明日から、夜10時には部屋に入って頂きます。部屋には鍵がかけられ、朝の6時にその鍵が開くまで外へ出ることが出来ません。村役職の役職行動時間は夜10時から11時、人狼の役職行動時間は0時から朝の4時までです。その間は、人狼の部屋の扉だけは開き、外へ出ることが出来ます。投票は、夜8時。このテーブルの椅子に座って行なってもらいます。ルールを守れない場合、追放になりますのでご注意下さい。』

向こう側にいた、敦が愕然として言った。

「何だって…まさか、リアルな時間軸で人狼するってことか?」

その声に、モニターの声は面倒そうに答えた。

『本当の人狼がしたいというご希望では?』

それには、光が答えた。

「希望?希望って、いったい誰がそんなことを言ったんだ。そもそも、ここは誰の持ち物なんだ?オレ達は、自分達が普段しているゲームをしようと思ってここへ来た。誰かに強制されてゲームをするためじゃない。それに、他のゲームも持って来ているし、そんなに時間をかけて一つのゲームをするなんて、吊られたり襲撃されたりした人達が、観戦しているしか出来ないのに、退屈じゃないか。」

他の者達も、黙ってうんうんと頷いている。

声は、ふふんと笑ったようだった。

『…退屈と?いや、退屈している暇などないかと思いますがね。我々は普段の人狼ゲームでは味わえない最高の人狼ゲームを、ここであなた方に提供するのです。ゲームが始まれば、その意味がわかるでしょう。では、モニターに皆さまの番号と名前を表示します。』

「ちょっと待て!」

利典が叫ぶのも無視して、モニターには番号と共に全ての者達の名前が表示された。

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