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敦は、しかし美奈を占い指定してくれた方がいいと思っていた。

そうすれば、今夜の襲撃も美奈に向かうことはないだろう。ここで二人きりになる予定である相方の人狼と、諍いを起こしたくはなかった。

その後、美奈は心ここにあらずになり、議論も煮詰まって来たということで、皆で7時まで部屋へと帰ろうという話になった。恐らくは、賢治も同じ共有の相方と話がしたいのだろうし、まだ相方を出していない今、それは皆の前で行うわけにはいかなかった。

そうして、それが人狼同士の戦略会議の時間も与えてしまう事実を賢治に知らせないままに、敦は部屋へと戻って来て光と通信していた。

『単刀直入に言う。敦、美奈は明らかに怪しい。占われると聞いた時の反応を見たか。狂人でもあんなうろたえ方はしない。あれは、占われたらヤバい時の反応だ。オレが村なら人狼か狐だと思うところだが、生憎オレは人狼だ。あいつは恐らく、狐だ。』

敦は、一瞬驚いたが、首を振った。

「待ってくれ。美津子さんが狐なんじゃないのか。初日から美津子さんがあれほどに切ってた相手が美奈ちゃんだったぞ?しかも、占い師と霊能者に狐二匹が全露出って、馬鹿じゃないか。あり得ない。」

だが、光の声は同意しなかった。

『オレだってそう思っていたさ。だが、今日のあの反応はおかしい。どちらにしろ、美奈は最後まで残しておくことは出来ないぞ。もしもオレが吊られたら、それだけは覚えておけ。分かったな。』

敦は、強くそう言われて、心の中に湧いて来る疑惑を振り払うことが出来なくなっていた。確かに、美奈はあの後戸惑っているようだった。いや、戸惑っているとは控えめだったかもしれない。確かに占われるのを嫌がっている反応だった…なぜだ?

狂人ならば占われてもむしろ白が出るからいいはずなのだ。美津子が狂人なのか?どちらにしろ、それは今夜の占いで、学が真なら分かるはず。美奈が狐だなんて、信じられない…!



8時の投票だったが、敦は気が気でなくて6時を過ぎた頃にはもう階下へと降りて行った。

美奈は、来ていない。その呑気さに敦はイライラとした。自分が疑われているというのに、どうして時間ぎりぎりに来れるのだろう。

そう思うと、美奈を助けようと心のどこかで考えていた自分が、馬鹿らしくなって来ていることに気付いた。

それでも、美奈の票のことを思うと、自分はこのまま親切な男を演じている方がいい。

敦は、自分でも驚くほど心がスーッと冷めて行くのを感じた。

思った通り、美奈は投票前の議論時間直前に降りて来て、それは重苦しい顔つきでリビングの投票の椅子へと腰かけた。

呆れていたが、それを顔には出さずに座っていると、光が美奈に話しかけた。

「美奈?大丈夫か。顔色が悪いぞ。」

美奈は、ハッとしたような顔をした。自分がそれで疑いを強くされるのではと気取ったのだろう。

それでも、回りはみんな美奈と光を見ている。自分の顔色がよくないのは、皆が知ってしまっている事実だ。

「光…まさか光が吊られたりしないよね?」

美奈は、そんなことを言った。

こんな時に恋愛どうこう考えてる場合じゃないだろう。

敦は思ったが、回りの雰囲気が納得したように変わったので、それがもしかして美奈の演技なのかもしれない、とふと思った。

光は、驚いた顔をした。向こう側に座っている貴子も、ああ、と少し納得したような顔をする。

光は、何を思ったのか無表情になったので、恐らくは怒ったのだろうと思われた。光は美奈を狐だと思っている上、前回のゲームでその狐に騙されて痛い目にあったようだった。利用されるのは真っ平なのだろう。

「それは村の判断だ。美奈が悩むことじゃない。それに村が勝てば戻ってこれるんだろう。オレは別にそう気にしていない。」

美奈は、わざとらしくショックを受けたように下を向いた…ように見えただけで、村人達にはそれで充分だったらしい。敦には、狐だという意識があったのでこれが戦略のように見えて仕方がなかった。

それでも、美奈自身必死なのだろうと思うと、気の毒にも思えた。

最後に美津子がやって来て不機嫌に椅子に座り、賢治がわざとらしく咳払いをして、口を開いた。

「じゃあ、今日最後の話し合いだ。吊り対象は、利典と光。占い対象は、学が美津子さん、美津子さんは薫、薫は、本人のたっての希望で孝浩と美奈ちゃん。じゃあ、利典から弁明を…、」

「待って。」美津子が、顔色を変えて割り込んだ。「そんなの聞いてないわ。だったら私達だって自分の占い先を選びたいもの!薫が占うというのなら、私が美奈ちゃんを占うわよ、みんな今日それで私を責めたんじゃないの?!」

美奈は、それを聞いて驚いた顔をする。賢治が、ため息をついた。

「美津子さんは途中で席を立って出て行ったじゃないか。その後皆で話し合ってそう決めたんだ。薫は言い出したら聞かないし、もうそれでいいかと。昨日のあなたみたいに勝手に占われて呪殺が起きた時に混乱するのは避けたいから、先に言い出した薫はまだ親切だよ。もう決まった事だ。美奈ちゃんを占うなら、昨日だったんじゃないかって事だったんだ。」

それには、光も頷いた。

「もう遅いってことだ。決まったんだからこの時間はオレ達に弁明させてくれないか。黒を打ったのはあなただろう。」

回りの皆も、美津子を睨むように見ている。美津子は不穏な空気を感じ、口ごもった。

「そんな…だったら、私にも学くんにも同じ権利が欲しいってだけよ。場を乱したいわけじゃないわ。」

美津子が狐だったなら。

敦は、まだそう思っていた。美津子が狐だったなら、美奈が狐の可能性が格段に下がる。初日からあれほど攻撃していた美奈なのだ。二人しか居ない同陣営の狐同士が、あれほどにやり合うものだろうか。その上、二人ともが役職として出て来るなど、考えられなかった。

賢治は、また大袈裟にため息をついて見せた。

「じゃあ…あなたは誰を占いたい?美奈ちゃんはダメだ。薫がもう指定してるんだからな。」

美津子は、戸惑うように回りを見渡した。

「突然だから…あの子は私が占いたいと思っただけ。この議論の終わりには考えておくわ。」

賢治は、学の方を見た。

「学?お前はどうだ?」

学は、首を振った。

「オレは指定通り美津子さんを占うさ。安心しておきたいしな。だからこそ薫は、違う所を占うと言い出したんだし。」

そうしてもらわないとな。

敦は、黙ってそれを聞いて思っていた。人狼目線、学は限りなく真占い師なのだ。学に占わせたら、美津子の正体が分かるだろう。

美津子は、ムッツリと黙っている。薫は、場にそぐわない緊張感のない様子で言った。

「そうだねー。助かるよ。これで二人で呪殺を出せたら万々歳だもんねー。」

賢治が顔をしかめる。村目線、いや賢治目線、呪殺が出せたとしても孝浩が狐で、尚且つそれを薫が占った場合に限るからだ。

孝浩がうんざりしたように言った。

「だから呪殺を出したいならオレじゃダメだろう。美奈ちゃんの色を見ておいてもいいかもしれないのには同意だが、オレを占うと後で後悔すると思うぞ。」

美奈が少し体を固くしたように見える。薫は、困ったように笑う。

「どうかなあ?そんなに言うと孝浩のが怪しく思えるじゃん。なんか役職匂わせてるみたいに見えるよお?」

敦は、これはまずい、と思った。孝浩が狐…?もしくは、真霊能者か?どちらにしろ、役職を表面上全て出していない今、ほのめかすのはルール違反だった。村人として発言しておくか、と、敦は、顔をしかめた。

「…おい、孝浩それはまずいだろうが。」

敦は、それ以上言わなかったが、村の皆が同じことを思っているのは空気で分かった。孝浩は、まずかったと思ったのだろう、焦ったように身を乗り出した。

「違う!別にオレは役職騙りをしようとしてるんじゃない!だったら、占ってくれたらいい。ただオレは、村のためを思って…。」

語尾は、尻切れトンボになった。こういう時は、言い訳をすればするほど怪しくなるということを、雰囲気から察したのだ。

賢治が割り込んだ。

「もういい。とにかくもう結構時間を食っちまった。とにかく、今日吊られるかもしれない人が二人も居るんだぞ。弁明をする時間ぐらい与えてやろう。じゃあ、利典から。」

その言葉で皆の意識は利典に行ったようだったが、それでも孝浩に対する不穏な雰囲気は、残っていた。

しかし敦は、孝浩のことよりも、今日吊られるかもしれない仲間のことの方が重要だった。

何しろ、人狼である利典と、光の二人が投票対象に挙げられてしまっているのだ。

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