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美奈が、口を開いた。

「こうして言い分とか聞いてると…違和感があって。」黙っていた皆が美奈を見る。美奈は続けた。「美津子さんは光を指定外から占ったんでしょう。でも、昨日疑われていたのは私。美津子さんに、投票までされていたの。それなのに、美津子さんは私ではなく光を占った。おかしくない?」

敦は、いやな予感がした。

賢治は、手元のノートを見る。恐らく昨日の投票先を確認したのだろう。敦が、頷いた。

「確かにそうだ。どうせなら美奈ちゃんを占う方が自然だろう。狼にしろ狐にしろ、それで結果が村に見えるんだからそうするはずだ。それなのに光?美津子さんが真占い師なら、確かにおかしい。」

何とか人狼陣営に不利になるような発言にならないようにと庇ったつもりだったが、うまく行ったかどうか分からない。

「だが、自殺行為だよな。」言ったのは光だ。「狼なら、適当に指定の中で白を打つだろう。霊能者が生きてるだろう状況で、目立つ行為はしないと思う。狂人か、もしくは狂人を演じて狼を利用しようとしている狐。オレにはそう見える。」

美奈は、戸惑いながらも控えめに頷く。賢治が、真剣な表情で首を振った。

「そうだとしても、今は狂人を吊っている暇はないんだ。狐だとしたら、今夜の相互占いで分かるかもしれないだろう。オレも今ので覚悟した。今日は、黒を吊る。光と利典の二択だ。」

敦は、やっぱりか、と覚悟した。光は特に構えることもないし、利典も焦っている風ではなかった。

利典が、小さく息をついた。

「そうだな。それがいい。オレも村に少しでも情報を落として行けるのなら甘んじて受けるよ。あの声は、勝利陣営なら戻って来れると言っていた。どっちに決まっても、頼んだぞ、賢治。」

その言葉に、賢治の顔は歪んだ。話の流れからいって、かなり疑われている美津子が占って黒を出している光より、いくらか真寄りの学が出した黒の方へと投票するだろうことは、誰の目にも明らかだ。だが、その利典でさえ、これほどに落ち着いていて白い印象を与えるのだ。

知っている敦でさえ、今の利典の落ち着きは真っ白だった。もちろん、それは吊られようとしている覚悟から来ているもので、偽りでも何でもなかったので、余計に皆の心に響くようだった。

美津子が、立ち上がって横からヒステリックに叫んだ。

「どうして私の言うことを信じてくれないのよ!私は真占い師なのよ!黒を見つけたのに、どうしてこんなに疑われなければならないの?!占い師の相互占いなんて、占いの無駄遣いじゃないの!私がこの子を占わなかったのは、この子が明らかに怪しいから吊れば済むと思ったからよ!それより、村に影響力を持っている光くんの方がいくらか重要じゃないの!何が間違っているっていうの?!」

それには孝浩が、重々しい顔で淡々と答えた。

「昨日投票時に美奈ちゃんを疑っていたのは、美津子さんぐらいだった。今日吊ろうと思っているのなら、みんなを説得する材料が必要だったはずだ。美津子さんが言っていることは矛盾しているんだよ。共有が決めたことなんだ、黙って従うのがいいんじゃないか。」

美津子は、髪を振り乱して首を振った。

「おかしいわよ!あんた達みんな、占い師の私を偽だと決めつけて!明日こそ、呪殺を出してみせるわ!その時のあんた達の顔が見ものよ!」

賢治は、頷いた。

「そうなって欲しいね。早いとこ狐は始末したいから。その時は土下座でも何でもするよ。」

美津子は、唇をわななかせていたが、そのままくるりと踵を返すと、音を立ててリビングを出て行った。

それを見送ってから、光がため息をついた。

「…困ったものだな。確実に人外陣営なんだろう。そうなると学と薫、どっちか、もしくはどちらも真占い師だということになるが…」

光は、利典を見る。利典は、肩をすくめて見せた。

「オレから見たら、薫だけだ。占い師は欠けてる。この村には、占い師は最初から一人っきりだ。」

学が、唸るように言った。

「オレは真占い師だ。薫のことは分からないが、いくら落ち着いて対応してる様を見せたって、オレは利典が黒だという結果を見たんだ。利典は、人狼だよ。」

敦は、分かっていたが何も言わなかった。この確信に満ちた感じは、間違いなく真占い師だ。しかし、薫はどうなのかは分からなかった。

光は、ため息をついた。

「…まあいくら白いと言ったって、分からないのがこのゲームだからな。真占い師に占われない限り、証明されることはない。ましてオレも、黒を打たれてるしな。美津子さんがいくら怪しいとは言っても、まだ偽だと決まったわけじゃないから。」

賢治は、何度も首を振った。

「もう、分からない。美津子さんの事は、満場一致で怪しいんだろう。だが、学は怪しくはないし、しかし利典も怪しくはないんだ。オレじゃ決められない。一点指定投票にしてしまえるほど、オレは自信を持ってない。」

しかし、それには他ならぬ利典が言った。

「だが、黒が出されている以上、どちらかを吊った方がいい。霊能に任せろ。明日オレか光の色が霊能によって確定したら、それで真占い師が村に分かるんだ。大丈夫だ。」

利典の瞳の色は、他のよりずっと落ち着いていた。

そもそも、共有自体がこれほどに苦悩しているのだ。

「あのさあ…。これ、もし僕だけが真占い師だったら、どうなるの…?利典ってすっごく白く見える。今日間違えたら、それこそ狐は最低一人は呪殺でないと殺せないよ?僕、一人で呪殺するのって無理っぽいんだけどなあ…。二人居ると思うからこそ、賢治の指定に従って占ってたけどさあ。次は自分で指定したいんだけどなあ…。」

賢治は顔をしかめる。

しかし、それには健吾が言った。

「共有者だって必死なんだ。だが、仕方ないだろう。特別な能力なんかないんだからな。共有者は確実に村人だというだけで、オレ達だって安心して話を聞くことが出来る。占い師などオレ達から見たら全部怪しい。偽物が混じってるんだからな。そんなに言うなら自分で指定したらいいが、共有者のせいだと言い訳出来なくなるぞ。大きな口を叩くなら、明日は必ず、呪殺を出せ。」

その目は、誰も信じていない、と言っていた。敦は、ますます健吾が村だろうと確信めいたものを持つようになった。

薫は、そう言われて黙るのかと思ったが、逆に穏やかに落ち着いた風で、頷いた。

「そうするよー。じゃあ美津子さんは信じてないし、今は学を信じて、美津子さんを占うのは学に任せる。僕は他を狐を探して占うよ。それで、いい?」

賢治は、驚いたように薫を見て、首を振った。

「今日は相互占いって決めてるんだぞ?学が美津子さんなら薫は学だろう。美津子さんは薫。その方が安心できるじゃないか。」

しかし、健吾が賢治を制した。

「賢治、薫に任せろ。言い出したら聞かないだろう、こいつは。どうせ美津子さんが誰かを占っても信じられないなら、呪殺を出すって言ってるんだからこいつに好きに占わせろ。」

孝浩も、頷いた。

「そうだ。美津子さんより真の可能性がある学と薫の二人に呪殺を出させることが出来たら、村としても形勢が一気に有利になるんだ。だったら一人を美津子さんに、一人をどっかのグレーを占わせたら、その確率も上がる。それで行こう。」

敦は、面倒だなとは思ったが、指定で先に誰を占うのか知れるのでしっかり聞いておこうと薫を見た。薫は、いつもながらうんざりするほどおっとりとした口調で、言った。

「じゃあ、僕はグレーの中から、美奈ちゃんか孝浩を占うよ~。それで、いい?」

敦は、意外だったので眉を上げた。確か薫は、美奈が霊能で出ていることを知っているはず…。美奈は、どうしたのか驚いたように息を飲んだ。

薫は、そんな美奈をじっと見つめていた。

薫が、美奈を信じていないことを、その時敦は知った。

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