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敦が心の中で葛藤していると、賢治が慌てたようにわざとらしいリアクションで囁くように言った。

「ちょ、ちょっと待て。待ってよ美奈ちゃん、駄目だって、人狼だって混じってるかもなのに!半分居るんだよ?こっちで何を話してるのか聞きたい人狼が一人ぐらい混じっててもおかしくないのに!」

だが、薫は苦笑した。

「えーでも聞いちゃったしなあ。オレは人狼じゃないけど、みんな聞いたんだし、仕方ないよー。オレも、この中には人狼は居ないと思う。だから、あっちから占おうかなって思ってるぐらいだもんね。」

敦は、薫の言い方が鼻についた。こいつは、いつもそうだ。自分に疑いが向かないように、始めから普通でない様子で居て、これが自分のキャラなのだと皆に信じさせて切り抜けてしまう。それは、村人の時でもそうなので、真実薫がどっちの陣営なのか分からない方が多かった。敦はそれでもそれをおくびにも出さない風で言った。

「そうだよ、みんな聞いたんだ。でも、どうする?そうなると美津子さんも出てるし、美奈ちゃんも出てるし、この二人が同陣営だとは思えない。人狼だったら三人だろ?狐なら二人で、全露出。あり得ない。」

賢治は、フッとため息をついた。

「仕方ない、黙ってることにしよう。でも、ここに居るメンバーは聞いたんだぞ?明日もし、美奈ちゃんが噛まれたらこの中に人狼が混じってたってことだ。オレは優先的に占うように押すからな。それでいいか?」

敦は、そんなバカなことはしないと思いながらも、頷いた。

「ああ。そうしよう。あくまで、明日だ。美奈ちゃん、明日の結果を知らせて欲しいから、頑張って今日は生き残るんだ。といっても、どうしようもないけどな。」

美奈は、頷いた。

「大丈夫、頑張ります。あの、適度に怪しくなってたら、きっと噛まれないし。私が何かしなくても、あっちで美津子さんが私を怪しくしてくれてるようだし。」


敦は、まだ議論している向こうの7人をチラと見た。他のこちらの者達もチラチラと気付かれないように見ていたが、あちらはこちらの様子にも気付かないほど、激しく議論している…中心は、利典と美津子のようだ。

敦は、利典の意図が分からなかった。あんなに目立つ行動は、普通のゲームでは利典はしたことがない。それなのに、今日はまるで何かに憑かれたように美津子を攻撃していた。

ふと見ると、光がこちらをチラを見た。こちらの様子に気付いたのか、と敦は思ったが、光はすぐに向こうを向いた。光のことだから、恐らくはこちらの会話も聞いているのだろう。光の地獄耳は、仲間内では有名だ。普通なら聴こえていないだろうことも、光には聞こえていることが多かったからだ。もしかしたら、美奈の霊能COも聞いていたかもしれないな、と敦は息をついた。美奈が霊能だと、隠せそうにない。もし狂人でないようなら、美奈は恐らく簡単に襲撃対象にされてしまう…。

健吾は、長く息をつくと、疲れたように顔をこすって伸びをした。

「あーそうなるとまた推理を変えなきゃならねぇなあ。オレはてっきり美津子さんと美奈ちゃんが繋がってて狼にしろ狐にしろ同陣営だと思ってたんだが、あり得ねぇ。だからどっちかが本物か、それとも両方が本物ってことになるし、考え直す必要が出て来たぞ。」

しかし、敦はここで村人であろうと狐であろうとかく乱しておかねばならないと、わざと言った。

「どっちかが狼、どっちかが狐って考えもあるけどな。狼っていうか、狂人でもあり得る。例えば美津子さんが狐で美奈ちゃんが狂人とかさ。だからどっちかが真って決めてしまうのも危ないな。」

健吾は、額を叩いた。

「それもあったか!そうだな、第三陣営と人狼は仲良くないわな。当然だ。あー、分からん。今夜一人吊らなきゃならねぇのによ。どうしたもんか。」

敦は、村人のように振る舞わないとと、肩をすくめた。

「さっぱりわからん。あっちの7人の中でも、役職COしてるヤツ除いて怪しい奴なんて居るか?」

しらばっくれてそう言う自分に、敦は自分の中で苦笑していた。人狼なんて、こんな役職だから仕方がないが、敦は人狼に当たることにはいつまで経っても慣れなかった。

それからも、こちらではお互いの見解を話したりと惰性で話し合ってはいたが、敦から見てあまり建設的な会話ではない。

それでも村人や狐が無駄な時間を過ごしてくれるのは万々歳なので、適当に話を延ばしながら、敦はそこでの空気に紛れて居ようと時を過ごしたのだった。


あの後光達、あちらで激しく議論していた美津子を除いた6人がこちらへ来て話をしたが、皆議論時間の制限が無いので普通なら考えてもしないようなことを深く穿って考えるので、混乱してめちゃくちゃだった。

時間が長いと、村の意見というものは逆にまとまらなくなるらしい。

光がそんな思考の垂れ流しを聞くことに嫌気がさしたのか、さっさと部屋へと出て行ってしまうのを見送った敦は、わざとらしくないように、自分も立ち上がった。

そうして、極力怪しく見えないように、おっとりとしたように螺旋階段を上ると、自分の部屋へと入った。


中へと入って鍵をかけ、ホッと肩の力を抜いて敦は、机の引き出しから役職ガイドを出した。

これは、人狼専用の役職行使の方法などを説明してあるもので、普段は机へとしまい込んで外へ放り出して置いたりしない。

ここには、役職行使の時間である0時から4時までの間に、人狼の誰かの腕輪から襲撃する相手の番号と、0を三回押すように、と書かれてあった。

そして、その後部屋が開錠されるので、指定された通りの襲撃を行ってください、とのことだった。

指定された通り、と言われても、まだ襲撃を経験していない敦にも利典にも、全く訳が分からなかった。

だが、光は違うようだった。何を知っているのか、何度も聞いたが必要な時に話すと言って、何も教えてはくれない。恐らくは今夜の襲撃時間にいろいろと話してくれるのだろうが、敦も利典も気が気でなかった。

そして、せめて今夜の投票前の議論の方向性と、投票先ぐらいは今、この空き時間にしたいと思っていた。

もう部屋へ帰っているだろうか、と敦が腕輪を見つめてじっと考え込んでいると、いきなりにパッと「8」と数字が出て、ピピピピと腕輪が鳴った。

8…利典だ!

敦は、飛びつくように腕輪のエンターキーを押した。

「利典?」

敦が言うと、相手は驚いたように答えた。

『ああ、オレだ。お前が部屋へ帰ったのが見えたから、オレも遅れてリビングを出て来た。光は先に帰ってたが、通信はないか?』

敦は、見えないのが分かっていたが、首を振った。

「ああ、無い。利典が部屋へ帰ってたら連絡しようかって、今悩んでたところだよ。」と、気になっていたことを聞いておこうと、続けた。「ところで、美津子さんと派手にやり合ってたじゃないか。どうしてあんな目立つことをしたんだ?もしかしたら狂人かもしれないのに?」

利典の、ため息が聞こえた。

『ああ、あれか。光がこそっと、どうせなら徹底的に美津子さんとやり合えって言うからだ。どう見てもあれは真占い師じゃないだろうと思えたし、破綻でもしてくれたら最初からやり合っていたオレは白くなると。万が一真占い師だったとしても、あれだけやり合った後に占って黒を出されたら、皆がすんなりそれを信じるような状態じゃないから問題ないだろうと。三人居るからには、一人ぐらいそうやって目立った方がいいんじゃないかと言うんだ。だから、オレはああして突っかかっているんだよ。』

敦は、驚いた。いつの間に光と話したんだろう。

「オレには何も言ってくれなかったじゃないか。」

敦の不満は、利典に伝わったらしい。相手は、少し困ったように答えた。

『人前で三人で話したりしたら、三人共に疑われた時不利だろうが。それに、お前だけは他の動きをしておいた方がいい。光もオレも、発言しやすい位置に居るし、普段のゲームでもよく話す方だから、黙っているのはおかしいんだ。だから話をするしかない。だが、お前は分からないふりをしていてもおかしくはない。適当にそれらしい話をして、オレ達とは違う方向から考えているふりをするんだ。その方が、絶対に陣営勝利に近付くと思う。幸いお前はそっちのおとなしいグループに居たようだし、最初からオレ達とは別行動してる。オレ達が疑われたとしても、恐らくお前には疑いは直接向いたりしないだろう。だから、今のままでいいんだよ。光だってそう思ってると思う。』

自分だけ仲間外れにされたと思うと面白くなかったが、しかし利典の言うのは的を射ていた。なので、渋々ながら頷いた。

「分かった。確かにな。じゃあオレは今のまま静観して、適当に村に意見に合わせておけばいいか。それで、投票先だが、どうするんだ?光は何か言ってたか。」

利典は、首を振ったようだった。

『いや、何も。ただ、潜伏している狐位置が知りたいとやたら言っていた。狐は二匹だろう?占いに狐が居ると光は本気で思っているようで、あと一匹を探して占わせないと狼はヤバいと言っていた。狐は狼が勝とうが村人が勝とうがその時に生き残っていたら勝利だ。うまく潜伏されたらたまらんからな。狂人のふりをする狐ってのも、視野に入れてるらしいぞ。そんなのが居るかどうかわからんが、居たとしたら馬鹿だね。』

敦は、クックと笑った。確かにそうだ。それが狂人なのかどうか狼には見た感じ分からない。だからこそ、噛んでみるしかないのだが、そんな面倒なことをするぐらいなら、狐だろうと狂人だろうと吊ってしまえというのが、人狼たちの考えだった。少なくとも、敦はこれまでの村ではそうして来た。

「うーん…じゃあ、グレーの中の狐っぽいやつから吊って行く提案でいいんだな?」

利典の声は、頷いた。

『ああ。適当に票をずらしてくれたらいいさ。それが後々役に立って来るだろうしな。まあ、今日のところはそれで。オレ達が吊られることはないだろうというのが、光の考えだ。あいつはほんとに頭がいいからな。任せていいと思う。後のことは、夜しっかり話すってさ。』

夜の話になって、敦は表情を曇らせた。

「それを聞きたかったんだ。襲撃って…まさか、本当に襲撃するとかじゃないよな?光は、必要な時に話すとか言ってたが、その必要な時が夜だろう。違うか?」

利典の声は、戸惑ったようだった。

『それは…オレにも分からない。だが、光が何か知ってそうなのは確かだ。今日の投票を、とにかくはこなそう。それで、夜を待つんだ。うまくやれよ…オレ達三人の命が懸かってるんだからな。』

敦は、一気に緊張して来たが、それを首を振って振り払い、頷いた。

「わかってる。お前もな。」

『誰に言ってるんだよ。』

利典の声は、おどけたように、しかし半分真面目にそう答えて、通信は切れた。

そして、その日の投票でうまく人狼に転がされただけの村人達は、こちらの思惑通りに、佳代子を吊って追放したのだった。

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