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「留美ちゃんは白だよー僕が占ってるから。」
薫が、緊張感のない言い方で言った。賢治は、じっと光を睨みながら言った。
「この中じゃ一気に光が怪しいが、だが美津子さんに黒を打たれたからな。」
薫が、頷いた。
「でもそれ逆だよー。だって美津子さんは狐だったんだから、狼をなんかのきっかけで知って、吊らせようとしたのかもしれないじゃないか。だから、僕は光が怪しいと思うなー。」
だが、学は言った。
「いや、両方怪しい。」学は、険しい表情のままだ。「薫の真贋はまだ定かでないんだし、留美の白だって怪しいだろうが。初日投票対象になってたんだから、今日投票対象に上げてもいいとオレは思う。」
美奈は、同じように険しい顔になって学を見つめた。学…真占い師。美津子が呪殺だと確実に知っているのは、この中で美奈だけだった。真占い師の学でさえ、それが人狼の襲撃ではなかったのだと知る術はない。
光が、言った。
「じゃあオレが投票対象になるんだろうから、弁明していいか?」光が言うのに、美奈は緊張して光の方を見られなかった。そうなったのも、美奈があんなことを言い出したからだ。光は、そんなことは気にもしていない様子で落ち着いて言った。「まず、推測でしかないな。お前達みんなが、オレが呪殺でないかもしれないって何度も言っても信じないのに、美奈が言ったらあっさり信じるってのもおかしい。人狼が何を思って孝浩を襲撃したのかなんか、推測でしかないだろうが。孝浩が役職をほのめかしたのは確かだが、それが霊能者なのか狩人なのかも分からない。推測でいいなら続けるが?」
賢治は、少し困惑したが、美奈の言うことが村にとって推測なのは確かなので、渋々頷いた。
「続けてくれ。」
光は、全く焦る様子もなく頷いて続けた。
「仮に美奈が霊能COしているのを知っている狼が居たとする。それを仲間に話すだろう。だが、もしかしたら知っている中に狩人も居るかもしれない。もしオレが狩人ならどう考えるか?…狼は占い師は狐が居る間は噛んで来ないだろう。共有者は守られているだろうと考えて噛まない。グレーの中なら?…もしかして狼が混じっていて知っている可能性を考えて、美奈を守る。真かどうかはまだ分からないが、とりあえず守ることを考える。狼だってそれを知っている。ならば確実に数を減らすためには誰がいいか?…なんか知らないが役職をほのめかしている孝浩を噛む。もしかしたら狩人かもしれない。美奈が騙りでこっちが真かもしれない。噛めなくても狐ではないかと疑える。そもそも薫が真なら狐なら溶ける。どちらにしろ数は減る。」
皆は、これ以上に無いほど真剣に聞いている。さっきまで光に反論していた貴子ですら、光の話を食い入るように聞いていた。光は続けた。
「オレは、美奈がこの話を出して来た時、美奈が騙りだと確信した。美奈は、孝浩が真霊能者ではなかったかと思っている。自分が騙りだから、真がどこかに居ることを知っているからだ。美奈がCOした時、誰か反論したか?誰も出て来なくて、みんな信じたんじゃなかったのか。つまり美奈目線、その中に真霊能者が居ないということが分かったんだ。こちらで議論していた中に、真霊能者が居た。それが孝浩ではないかと、美奈は思っているということだ。オレの推理はそうだが、どうだ?何かおかしいか。」
美奈は、背筋を流れて来る汗を感じていた。光は、まるで見ていたように言い当てている。しかも、自分が気付くより先に、美奈がその時気付くべきだったのに後から気付いたことまで、すんなりと読んでしまっているのだ。
賢治が、戸惑いながら敦と健吾の方を見て言った。
「いや…確かに誰も反論しなかったけど…でもあの時点で、美奈ちゃんは疑われていただろう、村の多くから。だから、あそこでもし対抗霊能者が出て霊能ローラーになったら、美奈ちゃんは危なかったぞ。吊回避だと思われただろうし。結構な賭けだ。」
敦も、それには頷いた。
「そうだな。あの場に真霊能が居たら黙ってなかったと思うし、その反論を聞いてオレ達だってますます美奈ちゃんが怪しいと思ってしまっただろうと思うしな。危ない綱渡りだ。」
だが、健吾は考え込むような顔をして美奈を見つめて、言った。
「いや…本人が、それを分かってなかった可能性もある。何しろ、あの時はまだ初心者だと黙りがちで、それで疑われてたわけだからな。焦って何も考えずに、霊能者なら吊られないだろうと単純に考えただけとも考えられる。今でこそ意見の出せるようになって来たが、それも慣れて来たからじゃないのか?美津子さんとやり合ってたのだって、美津子さんが狐で、美奈ちゃんが狼陣営だったからだと考えたら、自然じゃないか?」
それを聞いた敦は、戸惑いがちに美奈を見た。
「でも…」と、青い顔をしている美奈を見て、眉を寄せた。「…そうなのか?美奈ちゃん、人狼?狂人?」
美奈は、慌てて首を振ったが、頭が真っ白で何を言っていいのか分からない。
「違うわ!私は人狼じゃないわ!疑うなら、う、占ってもらったら、分かるじゃないの!」
「じゃあ、僕が占う。」薫が、真顔になって、そう言った。「昨日も言ったじゃないか、美奈ちゃんを占うって。賢治が違うとか言ってたけどさあ。だから結局孝浩を占ったんだ。僕は呪殺したんだと思ってるけど、みんな僕を信じてないんでしょ?僕も黒を見つけたいしね。いいだろ?学。」
学は、むっつりと疑惑の目を美奈に向けていたが、頷いた。
「ああ。じゃあ、オレは他のグレーから占う。」と、鋭い目で光を見た。「いや、光がいいか。もしかしたらもしかするかもしれないしな。光が狼だったら、村はいいように踊らされてしまう。」
光は、学を睨み付けた。
「好きにしろ。だが、無駄になるぞ。」
学は首を振った。
「白だっていい。それなら光の言っていることを素直に信じて吊って行けば村は勝つ。人狼だった時が怖いから言ってるんだ。」
美奈は、何も言い返せなかった。自分は、今夜こそ薫に占われるだろう。そうして、明日美津子のように絞殺死体になって見つかるのだ。そして、みんなに狐が呪殺出来たと喜ばれて…。
そこに来て初めて、美奈は美津子の気持ちが分かった。良かれと思って、占いに出たのだろう。それなのに疑われて、皆に責められ、呪殺されたのだ。仲間の美奈とも、いがみ合い、助け合えないまま…。
美奈が目ぼしい弁明も出来ないでおろおろとしている間に、場は解散し、皆はそれぞれに部屋へと戻って行った。
貴子さえも、美奈には声を掛けずに部屋へと帰って行ってしまったのだった。
まだ、明日まで時間はある。
美奈は何とか気持ちを奮い立たせて、パンと飲み物を手に部屋へと帰って来た。しかし、シンと静まり返った部屋の中で、どうしたらいいのか、全く思い浮かばなかった。
光が美奈を騙りだと言い出したのは、美奈が光と留美、学の中に人狼が居ると言い出したからだった。だが、美奈はそれが、間違っているとは思わなかった。恐らくは、その中に一匹は人狼が居る。何しろ、その他は白過ぎる。狐として見た時、知り得た事実をまとめてみることにした。
まず、賢治と貴子は共有者。賢治の様子から見ても間違いないだろう。
健吾は、白い。あの白さは村人以外の何物でもない。だが、霊能者ではない。霊能者だったら健吾の性格なら潜伏などせずに、美奈が出た時にとっくに出ているだろう。
留美は薫の白だが、美奈から見てまだ分からない。敦も、動きは白いと思えるが、しかし健吾ほどの白さではない。光は、狐の美奈を攻撃しているのでそれが見えている人狼とも考えられなくもないが、しかしあの正しさは白いと感じさせる。学は狐の美津子を呪殺したので真占い師、薫は呪殺したと思っているようだが孝浩は間違いなく、襲撃で死んでいる。孝浩は、狐ではなかったからだ。そして襲撃されたのだと知っているのは、狐と人狼しか居なかった。
そうして考えると、光の一見白い正しさ。あれは、人狼のものではないのか。
美津子が適当に白い所に黒を打ったのが、当たったのではないのか。
だとしたら、自分はかなり不利になる…。
美奈が茫然とベッドに座って考えて込んでいると、腕輪がピピピと鳴った。呼び出し音…賢治だろうか。何を言って来たんだろう。
美奈が力なく腕輪を見ると、そこには「13」と出ていた。
13…薫?!
美奈は、息を飲んだ。薫…薫に占われないために、話が出来るチャンスかもしれない。
美奈は急いでキーを押した。
「はい、薫くん?」
すると思っていたより、早めの鋭い声が聞こえて来た。
「通話中でこれ以上疑われたらいけないから急いで言うよ。美奈ちゃん、人狼だね?」
美奈は、息を飲んだ。私が人狼?!




