26
階下へ行くと、皆投票するための椅子ではなく、白いソファへ腰かけて、黙り込んでいた。
そこに居たのは、学、薫、賢治、光、敦、健吾、留美の7人で、今生存している全部だった。
あれだけうるさかった留美が、おとなしく黙り込んで端の方で小さくなっている。来た時あれほどに派手やかだった留美は、今は化粧もしておらずすっかり参っているようだ。
美奈は、そんな中貴子と一緒に、神妙な顔で近づいて行った。
「ごめんなさい、寝ている場合じゃないのに、気を失ってしまって…あの、結果を言わなきゃ。」
賢治は、力なく口を歪めて笑う形を作り、手をソファへと振った。
「ああ、座って。みんなに美奈ちゃんが霊能者ってことはさっき伝えたんだ。それで、一応聞くけど、結果は?」
美奈は、先に貴子にも聞かれていたので、今度は落ち着いて答えた。
「黒よ。利典さんは、人狼だった。」
それには、そこに居る全員から、ああやっぱり、という空気を感じた。賢治は、もう疲れ切ったように、額に手を置いてうんうんと頷いた。
「だろうね。まあこっちじゃそれを前提に話してたんだけどさ。」
美奈は、ソファに座りながら眉を寄せた。
「何か問題でも?薫くんも学くんも、真占い師だって分かったんでしょう?呪殺が二人出たんだって、貴子ちゃんからも聞いているけど。」
それには、光が答えた。
「状況から呪殺だろうってだけで、片一方が襲撃でも分からないんだよ。だから、今現在は学は真占い師だろうってことになっているが、薫はまだ分からない。だが、オレはその学だって怪しいと思ってるがな。」と、美奈を睨むように見て、続けた。「美奈が真霊能だと賢治は言っているが、孝浩がそうでなかったとなぜ言える。もし美奈が騙りだったら、適当に合わせてることも考えられるし、学も確定しない。利典が白だって言った方が、まだ信じられた。状況を見て言ったんじゃなくて、本当の結果を言ってるように見えるからな。黒なんて、あまりにもこの状況に合わせた結果じゃないか。それじゃオレには信じられない。」
もはや疲れ切っている賢治を横目に見てから、敦が言った。
「だから、さっきから言ってるじゃないか。美奈ちゃんは初日からオレ達には話してくれてたんだよ。だから、オレ達も信じてたし、賢治もそうだ。なあ、どこかで信じるところを決めて行かないと、光みたいに何でもかんでも勘ぐってたら、村人同士で共倒れになっちまうぞ。」
光は、敦を睨んだ。
「オレは信じるにたる理由を探しているだけだ。直感だの状況証拠だのよく分からない理由など要らない。確たる証拠が欲しい。孝浩が、昨日何かを言いたそうにしていたのは確かなんだ。あれが、霊能者としての動きだったらどうする?美奈は騙りってことになるぞ。美奈が騙りでないという証拠は?あるのか、敦、賢治。」
そう言われてしまうと、敦も賢治も何も言えないようで、二人して顔を見合わせた。美奈は、確かに自分は霊能者を騙っているので、真としてどういえばいいのか、すぐには思い浮かばず、黙り込んでしまった。
何しろ光は、間違っていないのだ。
すると、薫が言った。
「美奈ちゃんをいじめないでよー?」薫は、茶化すように光を見た。「まあ、僕はいいよ?孝浩が呪殺でなくて人狼の襲撃で死んだんだとしてもね。学だってそうじゃない?美津子さんが呪殺じゃなくて襲撃で死んでたとしてもさ、また呪殺するからいいよね。でも、孝浩は何も言わずに死んだし、もし、で話してても仕方ないじゃないか。美奈ちゃんは最初から出てたたった一人の霊能者COしてる子なんだ。今は信じるしかないと思うけどな。」
美奈は、自分を庇うようなことを言う薫に、驚いた。昨日は、私を疑ってたんじゃないの…?
だが、真占い師に近い薫からの援護は、有難かった。とりあえず、困惑したように光や賢治、敦を見ていると、健吾が言った。
「今は、何を信じていいのか分からないんだよ。狼が、美津子さんを噛んだのか孝浩を噛んだのか、それとも狩人が守っていた誰かを噛んでグッジョブが出てるのか、せっかく真占い師が確定するかと思ったが、死体が変な形に残ってしまって分からなくなっちまってる。これで片一方が昨日の真理みたいだったら、もう片方は呪殺だと思えたのに。」
健吾は、自分で言って、自分でハッとしたような顔をした。賢治が、見る見る目を見開いた。
「そうだ。」賢治は、健吾を見つめて言った。「そうだよ、人狼はきっと、真占い師を確定させたくなかったんだ!どっちかを同じように殺したんだよ!」
しかし、健吾は、一瞬ひらめいたような顔をしていたのに、首を振った。
「いや、だからそれはない。それは確か見つかった最初に考えたじゃないか。人狼が、呪殺された狐の様子を見られたとは思えないし、呪殺がどうなっているのか分かるはずはない。それに…これは昨日も言ったことだが、人狼陣営の奴らが手を下してない可能性がある。入力したら、ゲームマスターの奴らが分かりにくいようにわざとあんな殺し方をしたのかもしれないじゃないか。」
賢治は、がっくりと肩を落とした。
「もう、分からないよ。ただ、オレは美奈ちゃんが真霊能者だと思っているから、学が出した黒に同意しているし、学は真占い師だと思う。つまり、美津子さんが狐だと思う。薫のことは、まだ呪殺かどうか分からないから、半分信じてる感じだ。それでも限りなく真に近いと思ってるよ。美津子さんが狐だったんだから、その美津子さんが最初からあれだけ攻撃していたんだから、美奈ちゃんは白いと思わないか?」
まるで、自分に問うているような言い方だ。貴子が、賢治に頷いた。
「私もそう思う。狐の美津子さんが、あれだけ攻撃していたのよ。美奈ちゃんは、絶対に白いわ。」と、光をキッと睨んだ。「あなただって、美津子さんに黒を打たれたんだから美奈ちゃんの気持ち、分かるでしょう?どうしてそんなに美奈ちゃんを疑うのよ?昨日あなただって言っていたじゃない。自分が白いって、具体的に説明できる人なんてこの中には共有以外には居ないわ。」
光は、弱々しかった貴子が強く言うのに少し驚いたようだったが、それでも目を細めて貴子を睨み返した。
「君だってグレーだろうが、貴子。急に強く出始めて、仲間だから庇っているんじゃないかと疑うぞ。」
貴子は、それを聞いて自信たっぷりに首を振った。
「仲間よ!美奈ちゃんは村陣営の霊能者だもの!最初から私のことを気遣ってくれているし、私は信じているわ!」
美奈は、少し心が痛んだ。貴子は、すっかり自分を信じ切ってくれている…本当は狐である、自分のことを。
しかし、こうして自分が霊能者と名乗り出ているのに他に誰も出ていないということは、やはり孝浩が、真霊能者だったのだろうと思われた。そうでなければ、今美奈を攻撃している光が霊能者ということも、あり得ないことではない。共有者が求めても、自分が時ではないと思ったらCOしないこともあり得るからだ。
孝浩がもし、真霊能者だったとしたら、人狼は孝浩を襲撃したのだろう。役職を匂わせたので、もしかしたらと噛んだとしたら説明がつく。人狼は、美奈が霊能だと知らなかった?つまり、人狼は美奈のCOを聞かなかった向こうのグループに居る…?
美奈は、急に見えて来て、身を乗り出した。
「…分かったわ!」皆が驚いたように美奈を見たが、美奈はお構い無く続けた。「人狼は、昨日孝浩くんが役職を匂わせたから噛んだのよ!霊能者かもしれないって思ったんじゃない?!つまり、孝浩くんは襲撃なのかもしれない!」
敦は、顔をしかめた。
「確かにそうかもしれないけど、呪殺かもしれないよね。占い師の真贋の特定はまだ出来ない。」
美奈は、ブンブンと首を振った。
「それでも、人狼はきっと孝浩くんを噛んだのよ!数を減らしたいのに、守られてる可能性が高い賢治くんを噛んだりしないと思う。狐かはわからないのに、占われても白って出るだけかもじゃない。きっと、利典さんの黒を見せたくなかったんじゃないかな。」
賢治は、美奈があまりに前のめりなので、少しひきぎみに言った。
「そうだとしても、美奈ちゃんはこうやって生きてるわけだし、無駄だったわけだよね。それがどうしたんだ?」
美奈は、勝ち誇ったように言った。
「だから、よ!」訳がわからない皆を前に、美奈は焦れて言った。「私が霊能者なのは、ここに居る何人が知っていたの?少なくとも人狼は、それを知らなかったのよ!」
みんな、ハッとした顔をした。
そして知っていた者達の目は、一斉に知らなかった者達へと向けられた。
学と、光と、留美だった。




