表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣は密かにヒトを喰む  作者:
美奈
25/50

25

次の日の朝、一晩中まんじりともせずに身を震わせて座っていた美奈は、部屋の扉の閂が回るガチンという音でハッと我に返った。

朝…?!

美奈は、思わず自分の腕輪を見た。何も無かった…?

とにかくは外へ出なければと、急いで部屋の外へと飛び出した美奈は、目の前に隣りの部屋の学が居るのを見て面食らった。

「ま、学くんっ?」

美奈が思わず言うと、学はうんうんと何度も頷いた。

「ああ、無事だったか。」と、美奈の背後を見た。「光も無事だな。まあ当然か、黒打たれてるし。他は?」

一列に並ぶ扉は開いていて、昨日の朝と同じように皆が出て来ては居たが、昨日よりは寂しい感じがする。

「え…少なくない?襲撃っ?また襲撃なの?!」

美奈が叫ぶと、賢治が言った。

「美津子さん?孝浩も居ない?ちょっと待て、まだ寝てるのかもしれない。薫、そっち頼む、お前孝浩と隣りだろう。オレは美津子さんを。」

薫は、あーあと伸びをしながら自分の隣の部屋の孝浩のインターフォンを押している。美奈は、ドキドキとして来る胸を押さえながら、美津子を呼ぶ賢治の方を見た。

「美津子さん?朝だぞ!とにかく一度出て来てくれ!」

昨日の今日なので、美津子が拗ねていると思っているらしい。しかし、光が賢治の横へ来て、ドアノブへと手を掛けた。

「呼ぶより開けた方が早い。昨日のことを考えても、襲撃を受けたら鍵は掛かってないだろう。」

そう言う光の手元で、扉はカチリと難なく開いて行く。それを見た賢治は、ハッと息を飲んだ。光は、険しい顔をした。

「…待っててくれ。見て来る。」

扉が、押し開かれた。

光がベッドが見える位置まで、そろそろと歩いて行くのが見える。賢治は怯えているような顔をしてそれを見送っていたが、学は険しい顔でじっと見つめている。美奈は、しかし美津子は生きているだろうと思った。なぜなら、昨日真理が襲撃を受けた時に感じたような、生臭い危機感を覚えるような匂いが、全くしなかったからだ。

「美津子さん?」思った通り、光はベッドに向かって声をかけている。「美津子さん、寝てるのか?」

光は、ベッドの方へと歩み寄って行ったようだ。

しかし、次に聞こえて来たのは、鋭い光の声だった。

「賢治!来てくれ!」

その切迫した感じに、賢治は一瞬固まったが、それでも中へと駆け込んで行った。

まさか美津子さん…?!どうして、狐なのに…?!

美奈が手で口を押さえて震えていると、学が横から、ぼそりと言った。

「…呪殺だ。多分そうだ。オレは昨日、美津子さんを占った。孝浩が襲撃を受けたんじゃないのか。死体が2つだろう。恐らくそうだ。」

真占い師…!!

美奈は、学を恐怖の表情で見つめた。学は真占い師だ…!人狼が美津子を襲撃するはずはない。放って置いても吊られる位置だったからだ。そして美奈は美津子を狐だと知っている。学が占って美津子は死んだ。学は真占い師なのだ!

「賢治!賢治どこだ、来てくれ!孝浩が!」

敦の声が、あちらから呼んでいる。14の部屋から叫んでいる…間違いなく、あちらが襲撃を受けたのだろう。

賢治が、こちらの6の部屋から飛び出して来て、叫んだ。

「こっちもなんだ!孝浩はどんな風なんだ、敦!」

薫が、14部屋から出て来て、落ち着いた風で言った。

「死んでるよ。オレ、昨日孝浩を占ったのに。孝浩は白だったんだ。なのにさあ、こんな簡単に首絞められてさあ…。」

絞殺もされるのか。

美奈は、自分は襲撃されることはないのに身震いした。すると、賢治は驚いたような顔をして、14の部屋へと走った。

「なんだって?!そっちもか?!」

そっちも…?

美奈が小さく震えながら困惑してそれを見送っていると、光が美津子の部屋の奥から出て来て、眉を寄せたまま言った。

「美津子さんもなんだ。」そこに居た、学と貴子、美奈が目を丸くすると、光は続けた。「美津子さんも一見何でもないからと側へ行ったら、首に縄が巻き付いていた。死んでいる。」

美奈は、口を押さえた。どういうこと…?!呪殺じゃないの?!それとも、呪殺でも首を絞められて殺されるってことなの…?!

美奈は、気が遠くなって、そのまま何も分からなくなった。


美奈は、ハッと飛び起きた。しまった…寝過ごした?!

しかし、ベッドの脇から声が聴こえた。

「美奈ちゃん?大丈夫よ、落ち着いて。ここはあなたの部屋よ。」

美奈は、横を見た。そこには、貴子が座ってこちらを見ていた。そうだ、私はあれから…。

貴子は、困ったように微笑んだ。

「二人が死んでるって分かった時、美奈ちゃん、倒れたの。光くんがここへ運んで、見ててやれって。今、お昼ぐらいよ。」

美奈は、頷いた。昨日寝ていなかったこともあって、気を失ってそのまま眠ってしまったらしい。

「ごめんなさい。ありがとう…話し合いは?あれから、どうなったの?」

貴子は、頷いた。

「さっき賢治くんが来て教えてくれたの。占いは学くんが美津子さん、薫くんが孝浩くんを占っていて、どちらも白。昨日の真理と違う絞殺で、これは襲撃じゃなくて呪殺なんじゃないかって話になってるみたい。人狼が、呪殺が絞殺だって知ってて合わせたなら別だけど、そんなの知ってるはずないでしょう?だから、どちらも呪殺かなって。ほら、孝浩くん、やたら美奈ちゃんを占えって役職匂わせるような言い方してたじゃない?あれも、狐だったから避けようとしてたんじゃないかって。で、賢治くん、美奈ちゃんが霊能者なんだって言ってたよ。結果、一応聞いてもいい?」

美奈は、慌てて言った。学が利典に黒を出していたのだ。

「黒だった。」美奈は必死に言った。「利典さんは、人狼だったの。」

貴子は、分かっていたという風に何度も頷いた。

「やっぱり。これで学くんは真占い師だと確定したね。薫くんも。美津子さんは、狐だったんだ…。」

貴子は、もういろいろなショックで、無表情になっていた。美奈は、慌てて貴子の手を握った。

「貴子ちゃん、大丈夫?人外が昨日だけで3人も居なくなったんだよ。大丈夫、きっと勝てるよ!あと、人狼二人だもの!」

貴子は、薄っすらと微笑んだ。

「うん…。」と、美奈の手を握り返した。「美奈ちゃん、もう、9人になっちゃった。」

美奈は、頷きながら自分の顔がどんどんと険しくなるのを感じた。16人で来て、もう7人が死んだ。いや、実際は吊られた者達は、仮死状態で監禁されているのかもしれない。少なくとも皆が死体を見て確認した、真理と美津子、そして孝浩、初日の梨奈、典子の5人は確実に死んでしまったのだ。

「貴子ちゃん…きっと、大丈夫だよ。」

貴子は、力なく頷きながら、下を向いた。

「でも…あのね、光くんが言ってたんだ。もし、どっちかが呪殺じゃなかったら?って。二人共呪殺だってことは、狼が同じ所を噛んだのか、狩人が護衛に成功したかでしょう。人狼は村人の数を減らしたかったはずなんだよ。もしかしたら呪殺されるかもしれない相手を噛んだりするかなって。確かに私もそう思う…賢治くんは、狼が共有者の賢治を狙って来て、狩人が守ったんじゃないかって言うけど、そんな簡単なことかな。根拠のないことを信じられないって、光くんは言うらしいよ。賢治くんは、昨日美奈ちゃんも言っていたように、信じすぎると思うんだ…状況でそう思い込んでしまうっていうの?」

美奈は、確かにその通りだと思い、頷いた。

「そうだね。私もそう思うよ。そんな単純なことじゃないと思う…。」

貴子は、立ち上がった。

「じゃあ、下へ行こう。みんなさすがにヤバいって思って、ずっと下に居るみたいだよ。薫くんも珍しく真面目な顔をしていたしね。結果をみんなに言わなきゃ。昨日の利典さんは、人狼だったんだって。」

美奈は、覚悟を決めてベッドから起き上がった。これから自分は、霊能者にならなければならないのだ。気を失っている場合では、ない。

美奈は、貴子について、階下へと降りて行ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ