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獣は密かにヒトを喰む  作者:
美奈
24/50

24

結局、利典には八票の票が集まっていて、光には四票だったので接戦という感じではなくて、貴子の票が一票どっちへ流れていても結果は変わらなかったという事実を賢治が来てとくとくと貴子に説明するまで、貴子は泣き続けていた。

賢治に諭されて少しずつ元気になりつつあるので、美奈はホッとして貴子のことを任せていた。

美奈は、それを背中で賢治の話を聞きながらキッチンに立って、その日は味噌汁を作っていた。

それぐらいしか作ろうと思えなかったし、しかしホッとする味が欲しいと思っていたからだ。

途中、同じように食べ物を取りに来た者達が美奈の料理を覗き込んだりしていたが、大半の者が声も掛けずに、時には表情だけで挨拶して行くも居たが、それだけで思い思いの食べ物を手に出て行った。

なので今残っているのは、賢治と貴子、それに美奈の三人だけだった。

パックになっているご飯をレンジで温めて、根菜などを煮詰めて味噌を溶いた味噌汁と一緒にダイニングの大きなテーブルの前に座っている、貴子の前へと置いた。

「さあ、食べて。温まるし、きっと気持ちが落ち着くから。」

貴子は、それを見て肩の力を抜いた。

「良い匂い…なんか、久しぶりな気がする。」

そうして、味噌汁の入ったお椀を手にした。美奈は、賢治にもそれを勧めた。

「さあ、賢治さんも。疲れているときは味噌汁に限るって、うちのお母さんがいつも作ってくれるの。」

賢治は、嬉しそうに頷いた。

「ありがとう。昨日からパンとか冷凍食品ばっかりだったから、嬉しいよ。」

そうして、美奈を含めた三人で、しばし無言で味噌汁とご飯で食事をした。

開いたままになっている賢治のノートをチラと見ると、何やらびっしりと細かい文字で書かれてある。あまりに小さいので美奈の位置からは内容まではよく見えなかった。

空腹が満たされて落ち着いて来たのか、貴子が言った。

「…いつまで続くのかしら。私…耐えられそうにないわ。」

賢治が、気遣わしげに貴子を見た。

「気持ちは分かるけど、人狼を全部吊らないと終わらないんだ。襲撃がどんなものか分かったし、今夜はもしかして襲撃は無いかもしれない…もしくは、狐らしい所を噛んでくれるかも。みんな仲間なんだし。」

だが、美奈にはそうは思えなかった。村は、なんやかや言っても結局は占い師の出した黒を吊った。人狼だって、生き残りたいだろう。もしも利典が黒だったなら、尚更そうだろう。人狼だって本気で生き残ろうと考えると思われた。

それでも貴子は、弱々しく頷いた。

「そう思いたいわ。誰も信じられない…。」と、美奈を見て微笑んだ。「美奈ちゃんは別よ。霊能者だもの。信じてる。」

その精一杯の笑顔を見て、美奈の心は痛んだ。だが、それを表面に出すわけにはいかない。なので同じように微笑んだ。

「がんばるわ。夜噛まれなければだけど…もし利典さんが黒だったら、人狼はそれを知られたくないでしょうし、霊能らしき所を噛んで来る可能性があるし…今夜は油断出来ないなと思ってる。」

もちろん、美奈は噛まれても死なないが。しかしそれによって。人狼に狐なのではと気取られてはたまらない。

美奈がそう思って顔を険しくすると、賢治が首を振った。そして小声で言った。

「今のところ、美奈ちゃんは初日疑われていたし、推理もそんなに村に落としてないし、人狼としたら吊り縄を消費するのに後々使いたいと思って噛まない位置じゃないかな。むしろ心配なのは、貴子ちゃんや健吾か…。貴子ちゃんはおとなしいから狐かもとか思って試しに噛むかもだし、健吾は白過ぎるからさっさと始末したいとかで…。」

貴子は、せっかく落ち着いていたのに、また身を固くした。賢治は、慌てて付け足した。

「だから心配ないって。さっき話したじゃないか、心配ないって。」

貴子は頷いたが、下を向いた。

そこで、美奈はふと、思った。賢治は、理由間もなく人を信じ過ぎている。美奈の事もだが、貴子も…雰囲気に騙されてしまうが、確かに貴子もグレーで、人狼の可能性は捨てきれない。それなのに、こんなに信用してしまって。

美奈は、少し悩んだが、自分を白くするためにも、声を落として言った。

「あの…賢治さん。」賢治は、美奈を見た。美奈は続けた。「私を信じてくれて嬉しいのだけど、村だからこそ思うの。そんなに簡単に、人を信じてはいけないわ。私も貴子ちゃんも、人外がも知れないでしょう?私は確かに霊能者だと自分では分かっているけど、まだ証明されたわけじゃないから。霊能も騙りが出て来るかもしれないし、村に疑念をもたれないためにも、平等に扱ってね。共有に文句を言う人だって居るわけだし、これ以上やりにくくなってほしくないの。私も貴子ちゃんは白いと思っているけど、私も貴子ちゃんも、村から見たらまだグレーなのよ。」

賢治は、驚いた顔をしたが、貴子と顔を見合せた。貴子は頷いたが、賢治は微かに首を振って、美奈を見た。

「そうだな。美奈ちゃんの言う通りだ。大丈夫、きちんと考えてるから。安心して。」

美奈はそれを見て、ハッとした。もしかして共有の相方は、貴子なのでは…?!

しかし、気付かなかったふりをして、神妙に頷いた。

「お願いね。」

美奈は、後片付けをしようと立ち上がったが、不安になった。

なんて不注意なんだろう。これはもしかして、人狼側がかなり有利なのかもしれない。村を勝利に導くより、人狼勝利を手助けした方が、もしかしたら狐は生き残れるのでは…。

美奈は心の中で、そんなことを思っていた。

そう、狐は、別にどちらが生き残ろうと自分さえ無事ならば勝ち残れるのだ。

美奈は、今更ながらにそんなことを考え始めていた。


貴子と賢治をそのままにして、美奈は先に部屋へと帰って来た。

恐らく二人は、共有同士で美奈さえ居なければ何かを話すのではないかと思ったからだ。それが、自分にとって不利ではないだろうと、美奈は踏んでいた。なぜなら、賢治は自分にそれを明かさなかったが、貴子はあの時頷いていたし、恐らく美奈になら役職を教えてもいいとまで思ってくれているはずだ。なので、美奈はわざと二人を置いて来たのだ。

美奈が部屋へ戻ろうと螺旋階段を上って廊下へと上がって来ると、薫がそこに立って、美奈が上がって来るのを見ているのと目が合った。皆が部屋へと入っているのに廊下に出ているのに驚いたが、美奈は薫に占われないように印象付けるチャンスだと声をかけた。

「薫くん?どうしたの、お腹空いた?もしよかったら味噌汁まだ残っているし、食べてくれてもいいよ。」

美奈が言うと、薫は微笑んで首を振った。

「ううん、いいよー平気。さっきサンドイッチ食べたんだー。」と、階段を上がり切った美奈を、急に真剣な顔になってじっと見つめた。「ねえ、美奈ちゃんってさあ、人狼?」

美奈は、思わず息を飲んだ。背中に嫌な寒気が襲う。薫は、自分を霊能者だと信じていないのだ。

突然のことに美奈が何も言えずにいると、薫はそんな美奈を黙って見つめて、スッと表情を緩めた。そして、固まるようにその場に棒立ちになっている美奈に、笑いながらヒラヒラと手を振って自分の部屋の方へと歩いた。

「冗談だよー。じゃあまた明日ねー。」

薫はそう言い置くと、さっさと部屋へと入って行った。

美奈は、結局何も言えないまま、しばらくショックでそこに棒立ちになったままだった。

ああ、もう駄目だ…!呪殺される…!

美奈はその夜、一睡も出来なかった。

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