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獣は密かにヒトを喰む  作者:
美奈
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利典は、じっと黙っている。光は、険しい顔をしているものの、落ち着いた様子で頷いた。

「ありがたいな。それでオレ目線偽物が早くに分かるというものだ。オレに黒を打ったのは誰だ?」

賢治は、こちらも取り乱すこともなく答えた。

「美津子さんだよ。」と、美津子をチラと見た。「敦と貴子を二人指定したのに、そのどちらも占う気持ちになれなくて、主導権を握りがちな光を占ったんだそうだ。それで黒だと。」

美奈は、美津子は思いきったことをしたな、と眉を寄せて状況を伺っていた。全員が戸惑っている中、だんまりだった健吾が口を開いた。

「信じられん。」皆の視線が健吾に集まる。健吾は物怖じしないでその視線を受けた。「光は誰よりも白いと感じた。占うにしてももっと終盤で良かったんじゃないかと思うし、共有の言うことも聞かずにもし、呪殺が起きていたらどうするつもりだったんだとも思う。こんな勝手なやり方をされたんじゃ、真占い師の特定に支障をきたす。指定以外を占っていいなら、呪殺が起こった時、実は自分が占ったとこじつけるだろうが。本当のことを言っていても信用出来なくなるんだ。そんな村の判断を乱すようなことをする奴は、人外と考えていいだろう。」

美奈は、また感心しながら健吾を見つめた。健吾は正しい…だってどんな思惑であんなことを言い出したのかわからないけど、美津子さんは狐だし。

美奈がそんなことを考えながら傍観を決め込んでいると、美津子が唸るように反論した。

「私は村に貢献したわ!黒を引いたのよ。共有の指定はてんでおかしいもの。私の判断で占い先を変えたからこそ見つけられたのよ。感謝されても、疑われるなんておかしいわ!」

それには、敦が答えた。

「何のための指定なのかってことだ。健吾の言う通り、それじゃ呪殺が出た時特定出来なくて困るんだと言ったろう。オレを占って黒でも出す方がよっぽど良かったんじゃないのか?いや、昨日美奈ちゃんを庇ったオレとやり合ってるんだから報復かと思われてやっぱり疑われるのか。」

美奈は、皆の動きを観察した。他に黒を打たれた利典は黙って静観している。その利典を占った学は黙っているし、薫は珍しく真面目な顔で話を聞いていた。

光は黒を打たれたとは思えないほど落ち着いていて、貴子はハラハラと皆を見回していた。留美は白を打たれたのでホッとしたのか肩の力が抜けていて、孝浩はチラチラと光と利典を見比べていた。

美津子は、口元をブルブルと震わせていたが、ヒステリックに叫んだ。

「何よ!あんたも昨日から私にばかり突っ掛かってきて!」と、美奈を指した。「あんた、この子を庇ってばっかだったじゃないの!やっぱり仲間同士で守ろうとしてるんじゃないの?!利典も合わせてあんた達が人狼なんでしょう!私の相方は学なんだわ、きっと!」

それには、学は首を振った。

「オレはそうは思わないよ、美津子さん。」美津子は、学の落ち着いた顔に、少したじろいた。学は続けた。「オレだって指定以外を占いたいと思ったりもしたが、共有の指定の意図は知ってるしその中から占った。美津子さんだってそれは知ってるはずだ。それなのに光を占ったり…正直、信じられないよ。オレは今日は自分の黒を吊って欲しいと思うな。」

それでも、学の黒の利典は黙っている。美津子は、学を睨んだ。

「あなたが偽物なの?黒の光くんを庇ってるのね?狂人?」

賢治が、息をついて割り込んだ。

「待ってくれ。」皆の視線が賢治に集まる。賢治は美津子を見つめて続けた。「今の話はおかしい。美津子さん、あなたが最初に言ったように学が真占い師で利典が黒だったとして、あなたの黒の光、そして敦、美奈ちゃんで人狼の数は四人にならないか?この村には人狼3人だろう。仮に美奈ちゃんが陣営同じで狂人だったとして、人狼には最初から狂人が分からないし、狂人からも分からないのに庇うのはおかしい。それに人狼は狂人が疑われても放置する。庇ったりしない。吊縄消費するのが狂人の役目だって美津子さんだっていつも言ってるじゃないか。オレはむしろ、美津子さんが狂人なんじゃとか思ったりしてるんだよね。だって、この行動は吊られに行ってるとしか思えないじゃないか。」

美津子は、目を見開いてブンブンと首を振った。

「そんなはずないじゃないの!どうして私が狂人なのよ!狂人だったら、初日から黒を打ったりしないわ!誤爆したら大変だもの!」

健吾が、口を出した。

「だから光が白いから黒を出して自分が狂人だ、だから噛むなって人狼にアピールしてるんじゃないのか。占い師が呪殺を出さないうちは村人も議論で占い師には手を掛けないと思って。それに黒が出たら吊るのがセオリーだから、そいつを吊ってる間は自分は吊られずに済むしな。」

美奈は、それを聞いてやっと美津子の意図が何となくわかった。噛まれることは恐らく案じてなかっただろうが、こうして黒を打つことで人狼に自分が狂人だと思わせて、守らせようと思ったのだろう。吊りも、黒を打てばそれを吊って翌日色を見るのが常だし、今日霊能者が出て来たならそれを人狼に噛ませてしまえばいい。美津子が狂人なら、狼も利用しようと動くだろうからだ。

だが、狩人が生きているだろうと思われる今、守られる可能性が高いのであまり成功率は高くないと思われた。まして、共有者は霊能者は出さないと決めていたのだ。

「うーん、でもここまで怪しいと確かになあ。人狼ではなさそうだし、狂人の線が一番強いように見えて来たよ。」賢治が言うのに、美津子が反論しようとしたが、賢治はそれを遮った。「いや、この議論は後で。先に黒の精査をしなきゃならないから、学の黒のことを考えよう。利典、さっきから黙ってるが何かあるか?」

利典は、フッと息を吐くと、やっと口を開いた。

「まさか自分が黒を打たれるとは思ってなかったから、混乱してるが仕方ないな。もちろん、オレは人狼じゃない。光ばかりが白いと言われてるが、お前達が今狂人扱いしてる美津子さんと、オレは昨日あれだけやり合ってるんだぞ?確かに人狼から狂人は分からないが、オレが人狼だったら初日から敵を作るようなことをすると思うか?あんなに派手にやり合う人狼なんて居ないと思うが。」

ここに居る中で、美津子の次に年長だけあって落ち着いた話し方だ。美奈から見ても、利典はとても人狼だとは思えなかった。

賢治は、顔をしかめた。

「まあなあ、言われてみればそうなんだが。しかし黒が2つ出ている以上、どちらかを吊って明日色を見たいというのがオレの考えなんだ。それによって占い師の真贋もついて来るかもしれないし。二人占い師が居る村で、3人の占い師が出て、二人が黒を打ってる。少なくとも、一人は黒じゃないかと思いたいんだ。でないと占い師が欠けてることになるじゃないか。」

光は、黒を打たれている張本人であるにも関わらず、すぐに頷いた。

「賢治の言う通りだ。占い師の内訳を知るためにも、どっちかを吊るのが正しい。早く真占い師を特定できないことには、狐まで居るこの村はヤバいんだよ。昨日の佳代子が白だったことを考えても、少なくとも人狼は吊れていないし、死体が一つだったことから見ても、狐は2匹居る。現在12人で後5縄。それでこれから人狼3人と狐2匹を始末しようと思ったら、狐は呪殺頼みになるんだ。真占い師にだけは生き残ってもらわないと困る。」

それを聞いた村人の顔色は、賢治を含めて緊張した面持ちになった。つまり、今日騙りに落ちて人外以外を吊ってしまったら、それからは呪殺を出さなければ絶対に村は勝てないことになる…。

「…だったら、偽物が打った黒を吊ってる場合じゃないだろう。」敦が、焦ったように身を乗り出して言った。「ほんとに怪しいのは誰なんだ!美津子さんは昨日からみんなに疑われてる。光はどう見ても白い。じゃあ利典か?だがその怪しい美津子さんとあれだけやり合ってたじゃないか。そうなって来ると学まで怪しく見えて来る。誰を疑ったらいいんだ!」

敦は、パニックになりそうなほど、最後の方は早口に段々とヒートアップした口調になって言った。賢治が、急いで言った。

「落ち着け、焦っても駄目だ、落ち着いて考えよう!確かに今日人外以外を吊ってしまったら村は苦しくなるが、占い師が生きてる間はまだ勝てる可能性があるんだ。」

じっと黙って聞いていた美奈だったが、ふと思いついてそこで口を開いた。

「でも…占い師の中に狐が混じっていたら?呪殺出来ないでしょう。結局最後は吊らなきゃならないことになるんじゃないの?」

それには、薫が答えた。

「あ、それ。僕、それについて賢治に話したよね?いろいろ考えたけど、占い師の中に狐が混じっていた時のためにも、相互占いをしておいた方がいいって。そうしないと、狐の思う壺だって。」

美奈が驚いて賢治を見ると、賢治は薫に頷いていた。

「ああ、占い結果を聞きに通信した時、薫はそう言ってたな。誰かが襲撃されたり、占い師の決め打ちに失敗して真占い師が居なくなってしまわないように、今のうちに相互占いはしておいた方がいいかもしれないとオレも考えてる。」

光は、それに黙って頷いている。

孝浩は、言った。

「それで真占い師が確定出来たらこっちにとっても願ったりだろう。残りの狐はその真占い師に片っ端から占わせて探して行ったらいいんだから俄然有利になる。連続ガード有りなんだ、占い師はテッパンで守ってもらって。うまい具合に霊能は出てないんだし。」

美奈は、それにもっともらしく頷きながらも、美津子は占い対象になるんだ、と心の中でほくそ笑んでいた。これで、美津子が呪殺されればあれだけ目の仇にされている私は生き残れる。少なくても、狐だと疑われることはなくなるだろう。

だが、学と薫は真占い師なのだろうか。

狐の美奈には白か黒かなどまったくわからないので、じっと二人を見て考え込んだ。


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