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獣は密かにヒトを喰む  作者:
美奈
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13

そんなに長く部屋にこもっている事も、みんなには出来なかったようで、結局夕方には皆リビングに自然と戻って来た。

表面上は和やかに話をしながら、美奈は考えていた。

どうしたら、真霊能者らしくなる…?

みんなに信じてもらえる…?

だが、考えても考えても、分からなかった。何しろ、皆と会うのはこれが初めてで、どんな考え方をするのかも何も知らないのだ。


昼間に話してから気安くなった貴子と真理が、すっかり打ち解けて話しかけてくれるので、美奈はとにかく、この二人だけでも味方にしようと考えて、愛想良く対応していた。

「ねえ、美奈ちゃんはどんな仕事してるの?」

貴子が、飲み物を片手に興味深げに言う。美奈は、苦笑した。

「珍しい仕事じゃないのよ。雑用係みたいなものね。秘書室に居るんだけど、毎日スケジュールを間違えないようにって、そればっかり考えてるわ。他の先輩たちが優秀だから、それに甘えてなんとかやってるんだけど。」

真理が、ソファの方に座っている留美と佳代子の方を伺いつつ、小声で言った。

「で、光さんとは?ほんとに、幼馴染なだけ?」

美奈はまた、困ったように笑った。

「本当に幼馴染なだけなの。小さい頃は、親同士が仲良かったからよく一緒に遊んだりしたんだけど、高校を卒業してから光は海外の大学へ行っちゃったし、私は女子大だしで全く連絡もしなかったし。同じ会社でも、光は忙しいし、私も自分の仕事でいっぱいいっぱいで、ほんとにこの合宿のために声を掛けられるまで、全く話もしてなかったんだ。」

貴子が、うーんと考えるように言った。

「確かになあ…光さんも自分が誘ったのに美奈ちゃんには全く構わないし、みんなに任せきりって感じだもんね。疑われてても庇う様子もなかったし。だから、ほんとに付き合ってるとかないんでしょうね。ごめんね、女子みんなが最初から構えてて。私は佳代子があれだから、光さんを好きとかないんだけど、仲良くしたりしたら何を言われるか分からない状況だったから。でも、今なら大丈夫だよ。あの二人だって、ほんとに何もないんだってわかったようだし。」

美奈は、それはそれで心の中が穏やかではなかった。光が自分に無関心な事実は、美奈の胸をちくりと刺した。それでも、ここで光と一緒に生き残るためには、それも必要なことなのかもしれない。

なので、そんな気持ちを押し隠して明るく笑った。

「やっぱりそうだったのね?大丈夫よ、気にしてないから。光が私なんて、あるはずないじゃないの。ほんとに幼馴染なだけなんだもの。」

真理が、つられて笑って言った。

「そうよね。幼馴染なんて、兄弟みたいなものだもの。そんな気が起こらないわよ、私も腐れ縁で隣り同士のヤツが居るけど。学生の頃は仲良かったけど、大人になると急に気持ち悪く感じちゃって。もう全然、対象外。」

貴子もつられて笑うが、美奈はその言葉に心が潰されそうだった。気持ち悪い…もしかして、光もそうなのかしら。大人になって、兄弟みたいな私は、気持ち悪くなった…?

心ではそう思いながらも、顔はくったくなく笑うという芸当が、僅かな間に出来るようになっている自分に戸惑いながら、美奈はそう思っていた。


みんなが思い思いに冷蔵庫から出して来たもので夕飯を済ませた後、賢治に促されてあの座り心地の悪い椅子へと分かれて座ることになった。

さっきまで見なかった美津子も、いつの間にかリビングへと降りて来ている。

時間は、投票一時間前、午後7時を指していた。

賢治は、険しい顔をしてはいたが、落ち着いた口調で言った。

「じゃあ、今日最後の会合だ。恐らくそうしているうちに、時間が来て投票時間になるだろう。」

全員が黙って聞いている。

外はもう、暗くなっていたが、昨日の夜中に見た時にはシャッターが閉まっていた大きな窓も、今は外の芝が美しい庭の様子を見せていた。

外へ出ようかと窓を開こうとした者も居たが、窓は作り付けで開けるようには出来ていなかった。

しかも、窓ガラスはとても強いタイプの物で、かなりの厚みがあるようだ。

それを見た光や敦、賢治が入って来た建物入口のドアを開こうとしたが、そちらも鍵が掛かっていて、全く開く様子はなかった。

つまり、今の時点では誰もこの建物から出ることが出来ないのだ。

それを知って皆、軽くパニックになったが、今更だった。もう、ゲームをするしかないことは、腕に腕輪が付けられていることで皆覚悟をしていたことだったからだ。

そんなことを思い出していると、賢治が続けた。

「で、今日の投票だが、役職COしている者達以外で吊ることにしたい。で、学から、占い先は共有が決めて欲しいと言って来たんだが、他の占い師はどう思う?」

薫が、おっとりと手を挙げて言った。

「ああ、オレもそうして欲しいですー。怪しい人って言われても分からないし、共有者に言われて場所の方が手っ取り早くていいや。」

美津子も、むっつりと言った。

「…別に。それでいいんじゃない?」

必要なこと以外は発言しないつもりらしい。

賢治は苦笑したが、言った。

「じゃあ、そうするよ。呪殺して欲しいと思ってるから、ほんとは占い師が自分で責任をもって決めて欲しかったんだけど…オレは、今日のところは、人外だったら怖いって位置から占って欲しいと思う。早く安心したいからね。つまり、人狼も見つけられたらいいなと思ってるってことだ。」

光が、発言した。

「つまり、人狼でも狐でもいいから、探し出したいってことか?呪殺が一番わかりやすいって言ってたんじゃないのか。」

賢治は、答えた。

「もちろんそれに越したことはないんだ。でも、人狼だって探したいしね。まだ最初だし、積極的に話して場を動かす力のある人を占ってもらいたいと思うんだ。その中に、人外が居たらラッキーだしかき乱されなくても済む。」

敦が、同意して頷いた。

「そうだな。確かにその通りだ。真剣に人外を探してるように見える人でも、もしかしたら人狼が狐を探してるのかもしれないしな。疑ったらきりがないのは分かるが、一日目の占いぐらいいいんじゃないか?」

他の者達も、うんうんと頷いている。賢治は、それを見回してから、言った。

「よし、じゃあ指定するぞ。まず、学。」学は、賢治を見た。賢治は続けた。「発言の強い利典と、ええっと、女子の中の…佳代子。この二人のうちどっちかを占ってくれ。」

学は、自分の手帳にサッとそれを記した。

「分かった。」

指定された二人は、少し表情を強張らせた。それは疑われているわけではないのかもしれないが、それでもいい気はしないだろう。

賢治は、次に薫を見た。

「次、薫。」

薫は、相変わらず緊張感のない顔で賢治を見た。

「はいはーい。」

賢治はその軽い感じに眉を少し寄せたが、続けた。

「同じように発言の強い光と、女子…留美。の二人のうち一人。」

薫は、メモりもせずに手をひらひらと振った。

「おっけー。」

賢治は、美津子を見た。

「美津子さんは、敦と、あと、貴子。この二人のうち、一人を占って欲しい。」

美津子は、軽く頷いた。

「分かったわ。」

健吾が、賢治を見て言った。

「じゃあ、今日はその指定と役職以外からグレラン?」

それを聞いて、美奈はサッとそのグレーを頭に思い浮かべた。このうちの半分は、自分が霊能者だとCOしたことを知っている。だが、隠している今、自分はグレーになるのだ。

つまり、今の時点で指定もされていなくてグレーなのは、美奈、真理、孝浩、健吾の四人になる。

半分の票が流れて来たら、吊られてしまうかも…。

美奈が表情を硬くしていると、賢治は首を振った。

「いや、二人指定してるんだから、別に占い指定されてる中でも投票してくれていい。怪しいと思う人物に入れてくれ。で、みんなの意見を聞きたいんだが。」

真理が、手を挙げた。

「はい。あの、朝一人一人話を聞いた時、佳代子の考えってとても偏ってましたよね。それは、今も変わらないのかなって思うんだけど、どうかしら?」

佳代子が、真理を睨むように見て言った。

「偏ってるって、みんな美奈さんを怪しいって言ってたんじゃなかった?私もそう思っていたから、その根拠までしっかり話したつもりだけど。」

真理は少しひるんだが、それでも長い議論時間に慣れて来ているのか、すぐに持ち直して、反論した。

「初対面でろくに接してもいない人を、怪しいと言う理由を着けるなんて簡単だったと思うの。利典さんが言ったことに、うまく便乗したようにしか見えなかったから聞いたんですけど。」

「な…っ!」

いつもは黙る真理が、ガンガン反論して来るので焦っているようだ。追い打ちをかけるように、貴子が言った。

「そう、こっちで話していたのよ。ほら、光さんが一生懸命人外を探している村人にしか見えないほど白いから、それに便乗して自分も白くなろうとしている人外にも、見えなくはないな、って。留美もよ。」

それを聞いた留美が、顔色を青くした。

「どうしてそうなるのよ!私は怪しい位置じゃないでしょう。じゃあ占ってもらえば分かるから、今日は吊らなくていいわ。私は指定されてるんだし。」

それには、敦が言った。

「別に指定されてても占うのは占い師の自由だから、君が占われるって保障はないし、怪しいなら吊るべきだよ。共有がそう言ってるんだからね。指定してても投票していいって。」

留美は、首を振った。

「私は人外じゃないわ!縄が無駄になるわよ!」

「私だってそうよ!」佳代子が、強い調子で言った。「私は村人。だから、ここで死ぬわけには行かないわ。そんなミスリードするぐらいなら、いつものようにおとなしくしてた方がいいわよ、二人共。」

貴子が顔を赤くした。真理が、キッと佳代子を睨んだ。

「村人の私達を陥れて吊ったこと、一度や二度じゃないでしょう。あなたが人外だったら、私達を狙って来るからすぐに分かるんだから!私達は噛まれない。吊り要員にしたいから。いつものやり口じゃないの。」

佳代子は、フンと横を向いた。

「ゲームよゲーム。何を言われても反論出来ない自分が悪いんじゃないの。村人の信用を得られないから吊られるんだし、私のせいじゃないわ。」

それを聞いていた美奈は、この高い自信を壊してやりたいと、ふと思った。佳代子を吊りたい。人外でもそうでなくても、目障りなのは変わりない。

美奈は、わざと悲しげな顔をして、割り込んだ。

「佳代子さん…そんな言い方…。」

そして、貴子と真理を心底同情している目で気遣わしげに見た。

すると、美奈が思った通り、雰囲気が変わった…佳代子を見る目が、批判めいたものに一瞬にして変わったのだ。

敦が、息をついた。

「メタだと言われても生活しながらのゲームなんだからそうなるよな。オレも、佳代子の言い方は性格悪いと思うぞ。それに、いつものプレイスタイルもな。お前が人外の時はほんとに後で胸糞悪い感じがするし。いっつも貴子とか真理とか、あとここには居ないがおとなしそうなヤツを矛先にするもんな。ま、それに踊らされるオレ達もオレ達なんだけどさ。お前を援護射撃する他の人狼を信じちまって、つい吊っちまうんだよな。で、後悔する。」

光も、顔をしかめた。

「まあ…確かにそうだな。」それを聞いた佳代子が、ショックを受けたような顔をしたが、光は気にも留めずに先を続けた。「なあ、じゃあ美奈がおとなしそうだったし、他のヤツがうまいこと疑ってたからそれに乗った感じで攻めてるって考えたら、この感じは佳代子が人外の時ってことになるよな?」

敦は他の人達とも視線を合わせてから、ためらったようにゆっくりと頷いた。

「…そうだな。今の論理で言うと、そうなるな。」

「違うわ!」佳代子は、叫んだ。「私じゃない!信じて、確かに利典さんが怪しいと言い出したから、そうかなと考えて、自分なりに出した答えだったの!おとなしそうだからとか、そんな理由じゃないわ!村人の時の私は、いつもそんな感じだったでしょう?」

貴子も真理も、目を合わせない。敦も、困ったように回りに座る皆を見回していた。賢治が、ため息をついて言った。

「…そうだなあ。メタにはなるけど、確かにみんなの言うことは間違ってないように思う。でも…佳代子も気になるけど、孝浩はどうだ?お前、今回全然意見を出してないな。どう思う?」

皆が、孝浩を見た。

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