第67話 昆虫退治 (2)
森の中には大きいもので高さ10mほどの木々がまばらに生えていた。足元には日陰に強いアイビーやディコンドラのような植物が地面を隠している。
やや薄暗く、獣道もない森の中を歩いていくと、木々の奥に大きな動く物体が目に入る。それは薄緑色の外殻に覆われ背中のところには鮮やかな赤色と黄色の模様が入っている、体調2-3mで、高さが1mほど、特徴ある尻尾はサソリのようにぐるっと背中の上部に丸まり、そこまで含めると高さ2mほどにもなっていた。前足がカニのハサミのようになっており、人の胴体くらいであれば掴み切ってしまうことも可能であろうと思えた。
「じゃあ行くよ。小さいのは俺が受け持つから無視して大丈夫だから。大きいのだけよろしくなー」
そう言って、剣も抜かず、素手のままスタスタと前に進んで行くミライ。
「雷撃矢」
おもむろに手を挙げたと思うと、ミライの頭上にものすごい数の光り輝く矢‥というよりも槍と呼んだ方がいいのではと思える大きさの矢が浮かび上がり、前方にいるアラナクランに向け、右へ左へと音もなく飛んで行く。一瞬のうちに1匹につき3本づつの矢が頭と胴体を突き刺さり、数秒もがいたあとに動きを止める。
ミライはそのまま歩みを止めず、前に進んで行き、それとともにアラナクランが次々と串刺しになっていった。
それは一切の抵抗を許さず、瞬時に、そして確実に息の根を止めて行く。
「すごい、これほどとは」
「すごいよ‥」
魔導師であるエレオノーラとロジーナには、目の前で広がる光景がどれほどのことなのか理解できた。
雷撃矢自体は、無属性の魔法矢に雷属性を付加したもので、比較的初期に覚えることができる魔法である。
ロジーナも火炎矢を放つことができるが、基本1本だ。それでも十分協力で、小鬼族であれば一撃で倒すことができる。
実力が上がっていくに連れて、矢の数が2本、3本と増えていくのだが、ミライの頭上には常時30本の矢が浮かんでいる。
エレオノーラもロジーナも、最大でも5本までしか操れる人を見たことがなかった。
かつ、矢の大きさである。どれだけの霊子を込めればあのように槍のような大きさの矢が生まれるのであろうか。
通常の雷撃矢と比べてその威力は数十倍もあるのであろう。おそらく凶悪なアラナクランでも、あの雷撃矢1本で十分倒せるのではないだろうか。確実に倒すためにしていることであろうが、1体に3本も使っているのはオーバーキルのようにも思えた。
ミライの後ろを剣を構えながら歩いてついていくが、凶悪な魔物がすでに20体以上が瞬殺されている。
「エレオノーラ、デカイのいたぞー。頑張ってなー」
不意に気軽な感じでそう言うと、ミライは空中に浮かび上がり、雷撃の矢が四方に飛び散った。
「終了ーっ。小さいの35体は全て討伐完了したから。デカイのだけに集中して!」
目の前に現れた、体長6mほどの大型の魔物。聞いていたよりも小さかったのだが、それでもアラナクランの2倍ほどもある大きさである。頭の位置が高さ1mから2mに変わり、見上げるようになると数字以上に巨大に感じる。
「まずは私が行くっ」
アンゲーリが盾を構えながら飛び出し、剣を振るう。
前足のハサミ部分の関節部を狙った一撃は、テラナクランが動いたことにより外れ、外殻に弾かれる。ダメージを全く与えていないように思えた。
それを見ながら、テラナクランの横側に回り、脇の部分に短剣を突き立てようとしたのだが、毒針を持った尾が振り下ろされ、それを交わすことを優先させ、距離を取るレナ。
「以外と素早いぞ、気をつけろ!!」
そう叫びながら、アンゲーリカが2撃、3撃と剣を振るうが、有効打はない。ハサミのついた前足を振り回してくるのを盾で防いでいるが、その力に押し飛ばされている。かろうじて立っているが、バランスを崩したら倒されて、ハサミか毒針の餌食になってしまう可能性が高い。
「アルネ、クラン、ローレンシウム、ヤギリゥム、ファイラ‥火炎矢!!」
呪文の詠唱により、空中に魔法陣が描かれていき、魔法陣が完成すると、一本の炎に包まれた矢が現れる。
「行って!」
ロジーナが手を前に押し出すと炎の矢はテラナクランの頭に突き刺さる。
「キュー!!」
痛そうに身をよじり、テラナクランが暴れ出す。
「アルネ、クラン、ローレンシウム、ヒカリゥム‥魔法矢!!」
エレオノーラがロジーナに続く。こちらは無属性の魔法の矢である。
テラナクランの首筋に命中し、緑色の血が吹き出す。
「うぉーっ!!」
アンゲーリカが、首元に開けられた傷口に目がけ剣を振り下ろす。
バキッと鈍い音がして、首筋の外殻が一部割れ、剣が刀身の幅の半分ほど埋まった。剣を引き抜くと、プシャーッと緑色の血が飛び散る。
「効いているぞ、押し切れ!」
エレオノーラが叫ぶ。
火炎矢と魔法矢の2射目、3射目が突き刺さり、その傷を目がけて、アンゲーリカが剣を振り下ろし、レナが短剣を突き刺す。
コボルトのエイドは激しい攻防に剣を構えながらも、足を引っ張ることを恐れ、入っていけずにいた。
人間の子供ほどの身長しかないエイドには、どうすることもできなかった。
グスタフはというと、剣を構えながらも動かずにいた。
ミライからは援護といわれているので、必要があった時には加勢するつもりでいたが、今のところはその必要がなさそうに思えたからである。
戦況は優勢であった。テラナクランがハサミを振り回し、毒針の尾を突き立てるが、前衛のエレオノーラとレナは注意深く動きを予測し、相手の攻撃を交わしながら攻撃を加えていた。
しかし、テラナクランが大振りしたハサミが低木にあたり、それが折れてアンゲーリカに飛んだ。
アンゲーリカは盾を構えそれを防いだが、体勢が崩れる。そこに毒針の尾が振り下ろされた。
「「アンゲーリカ!!」」
エレオノーラとロジーナが叫ぶ‥が体勢を崩したアンゲーリカは動くことができない。
「くっ」
レナが毒針の尾を短剣で叩き斬ろうと動き出すが、明らかに間に合わない。
アンゲーリカが本能的に顔の前に腕を交差させ、観念し目を閉じる。
しかし、数秒たっても攻撃を受けた衝撃が来ない。恐る恐る目を開けると、グスタフが剣を一閃し毒針の尾を弾いていた。
さらに、ミライが剣を振るい、テラナクランの胴体が前後に二つに分けていた。




