第66話 昆虫退治 (1)
あけましておめでとうございます。
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1,000人以上の方が読んでくださっているようで、ありがたいです。
中々更新できないこともありますが、楽しんでいただけると嬉しいです。
よろしくお願いします。
「待っていました。さあ、行きましょう。我々の準備は OKですので」
王都の南門の前で待ち伏せしていた赤髪のアンゲーリカが後ろをついてくる。
「誰が連れて行くと言った?」
「そんな意地悪なことを言わないで、一緒に行きましょうよ。人数が多い方が楽に戦えるでしょう?」
「別に一人でも十分だよ。報酬が少なくなるじゃないか」
「あら、これでも銀板の冒険者の中では、上位にいるパーティなんですよ?」
「じゃあ、自分達だけで依頼をこなしたらいいんじゃないか?」
「それはそうかもしれませんが、少しでも可愛らしい女性の側にいたいので‥」
レナがポッと顔を赤らめる。
「あの‥うちのメンバーが勝手なことを言って申し訳ないのですが、ちょうど我々にとってはA級の依頼を受ける良い機会ですので、今回だけということで、ご一緒させていただけないでしょうか?報酬の取り分は、コボルト君を入れて我々5人が1割づつ。残り半分をミラ様と相方様で折半するということでどうでしょうか?」
黒髪のエレオノーラが交渉に入る。
銀板の冒険者にとって、金板の冒険者とA級の依頼を受けるというのはあまりない機会だろうし、いい練習になるのだろう。その真剣な眼差しに折れることにした。
「わかったよ。今回だけな」
「ああっ、ありがとうございます」
喜んでいる5人を連れて、街の外に出た。
「創造樹木獣」
街から少し歩いた森の前に立ち、大木に向かってミライが魔法を唱えると、大木が変化し馬の形に変形した。
その数7体。
「ウッドゴーレムだ。操る方法は普通の馬と変わらないから、使っていいぞ。そこそこの速度で走り続けても普通の馬みたいに疲れないから、目的地まで歩いて1日の距離だが、お昼になるまでには到着できるだろう」
馬の形をしたウッドゴーレムに跨りながら、説明する。
「すごい‥」
「そんな魔法も使えるのですか?」
「ミラちゃん、すごいねぇ」
と感嘆の声を上げる女冒険者達。
「よし、準備ができたら行くぞ」
「久遠、先に飛んで、目的の魔獣の居場所を探し出しておいてくれ」
(了解しました、主人よ)
クオーと一声鳴いて、使い魔の久遠が、左肩の上から羽ばたいて飛んで行く。
ミライ達はそれに続くように、南の方角にウッドゴーレムを走らせたのである。
「そういえば、自己紹介が途中だったな。一応、何ができるのか把握しておきたい。俺はミラ。ミライが本名だが、国王と同じというのも紛らわしいので、ミラで頼む。魔法も剣も使う。魔法は風や雷系の魔法が得意だが、全般使える。よろしく頼む」
「私は、ミラ様の側近でグスタフと申します。魔法は使えませんが、剣には多少覚えがあります。短い間ですが、よろしくお願いいたします」
ミライに続いて、グスタフが自己紹介する。相変わらず堅いが。
「では、私はエレオノーラ。このパーティでリーダーを務めています。職業は魔法使い。回復系の魔法を得意としています。軽傷や状態異常であれば治すことができるのと、多少は攻撃魔法と弓も使えます。よろしくお願いします」
「次は私だな。私はアンゲーリカ。剣士だ。片手剣と盾を使う。よろしく頼む」
「はいはーい、アタシはロジーナ。最年少だけどなめてもらったら困るよ。アタシも魔法使いで、攻撃魔法、特に火の魔法が得意。火炎球とかも使えるよ。よろしくね」
「アタシはレナ。盗賊だよ。短剣を使う。遺跡なんか行くと罠が仕掛けられていることが多いからね、重宝されている。屋外でも影に隠れて不意打ちをしたり、敵の居場所をいち早く感知したりできるよ。よろしく」
「あ、えと、先ほどは助けてもらってありがとうございます。僕はコボルトのエイドと言います。銅板の冒険者で、戦闘ではあまり役には立てませんが、荷物持ちとか、退治した魔獣の討伐証拠の部位を回収したりとか、野営の準備や料理とか雑用全般は任せてください」
それぞれが自己紹介をして、馬の形をした樹木獣を走らせる。
この樹木獣は普通の馬のように疲れることがなく、時速40-50kmほどの速度で走り続けることができる。
もう冬なのでかなり寒いのはずなのだが、ミライにかけてもらった耐性冷気の魔法のおかげで、皆寒さに凍えることなく樹木獣を猛スピードでを走らせている。
「うわわわっ、ミラちゃん、危ないよー」
先頭のミライが馬の速度を緩めると、後ろのロジーナが抗議の声を上げる。
「ごめんごめん、この先の森の中に討伐対象のアラナクランがいるようなんだ。久遠が教えてくれた」
ロジーナが見上げると、ミライの肩から飛び立った鷹がこの先の森の上空を旋回している。
「んー、ちょうど久遠が飛んでいるあたり半径500mの範囲で、個体の反応が36体。そのうち何か半端なく大きいのが1体混じっているようだが‥」
「それは、テラナクランかもしれませんね。アラナクランの上級種のような存在です。突然変異により稀に生まれることがあるようですが、アラナクランが体長2-3mに対し、テラナクランは体長が7-8mほどにもなると聞きます。私も戦ったことはありませんが、かなり手強いことは想像に難くありません」
グスタフが答える。
「正確な個体数までわかるのか?私には全く見えないが‥」
「ああ、空間認識の魔法でね。この先の魔物の位置や数、大きさなどある程度は把握できる」
「へぇ、便利なもんだな」
アンゲーリカがつぶやいている。
「ところで、テラナクランって? アタシは聞いたことがないけれど。エレオノーラは知ってるかい?」
「いや、私も知らない」
レナの問いに、エレオノーラが首を振る。アンゲーリカもロジーナも、コボルトのエイドも同じく知らないようであった。
「危険な魔物なのですか?」
エレオノーラがグスタフに訊く。
「そうですね、基本的にはアラナクランと同じ特徴で、硬い外殻を持ち、巨大なハサミと毒を持つ尾で攻撃してきますが、体が大きいのでより硬く、リーチもあるのでかなり危険です。非常に硬いので剣で斬りかかっても弾かれるので、関節部の柔らかいところを狙う必要があります。かつその体液にも毒が含まれるので、体液を被らないように注意しながら戦う必要がありますね」
「それは‥」
「あまり戦いたくないわよねー」
アンゲーリカとレナが顔をあわせる。
「魔法は効くかなー?」
「大丈夫ですよ、ロジーナさん。特定の魔法に対して耐性は無いようです。火、風、水、土のどの属性の魔法も有効です。ただし外殻が硬いので、火炎球や風刃のように、爆発やかまいたちのような物理的なダメージを与える魔法については効きづらいと思われますね」
「えー、火炎球が効かないのかー」
「そうですね、その代わり、火炎矢のように直接的に相手に突き刺さるような魔法は有効ですよ」
ロジーナの問いにグスタフが答える。
「それはそうとして、個体の脅威もそうですが、ちょっと数が多すぎるのではないでしょうか? 普段の私達のパーティーなら、4-5匹を超えた時点で撤退を考えますし、まして上級種のテラナクランでしたっけ?‥がいるというのでは、勝ち目が薄い上に大きな被害が考えられるのですが‥」
エレオノーラが申し訳なさそうに、撤退を考えるように発言する。
「そうだねぇ‥」
「ミラ様、何か作戦はあるのですか?」
ミライが答えを考えていると、アンゲーリカが訊く。
「いや‥俺一人でサクッとやっつけてしまうのは簡単なんだけど、せっかくAランクの依頼なので、少しは経験してもらった方がいいかなぁと考えていただけなんだけど‥」
独り言のようにつぶやいた一言にグスタフ以外は、驚きを隠せないでいる。
「お一人で‥ですか?」
「ん?なんか変なこと言っちゃった?」
「いえ、銀板の冒険者4人組のパーティが最低でも5組、通常7-8組で対応しないと厳しいと思われる依頼だと思うのですが、金板の冒険者であればお一人で対応できてしまうのかと思いまして‥」
「んーどうだろう、他に金板の冒険者を見たことないからなぁ。グスタフだったら一人で片付けられるか?」
「いえ、私は魔法が使えませんので、さすがに少し厳しいと思います。ですが、パニガーレやエストレア、ベスパの4名で当たれば問題なく対応できると思いますが‥」
「まぁ、そんなものかもしれないな。おそらく4人組のパーティでこれくらい対応できれば金板の冒険者の実力ありとして認められるのだろうな」
「それはそうと、せっかくだから、このパーティで大きい方の退治をしてみたらどうだろう?残りは俺の方で片付けておくから。グスタフは援護に入ってやってくれるか?」
「はい、構いません」
「それでいいかな?」
「は、はい。あまり自信はないのですが‥」
エレオノーラをはじめ、全員の顔が引きつっている。
「大丈夫だよ、やばそうだったら助け舟出すから。じゃあ行ってみようか。ここからは徒歩の方がいい」
ミライに促されるまま、武器を構え、冒険者達一行は森の中に入って行くのだった。




