第64話 魔導書
同盟契約書への調印式の後、晩餐会に招待された。
新鮮な魚介類を使った、華やかな料理の数々を堪能できたことは良かったのだが、先日まで敵国であった国が滅び、取って代わった新国王に対し、カールスタッド王国の貴族達による敵意、警戒、畏怖、そういった目に晒され、ヒソヒソ話などが聞こえてくるのはあまり気持ちの良いものではなかった。
カールスタッド王国の国王アスドルバルとは当たり障りのない話をしたが、彼とてミライのことを警戒すべき存在と認識しながらも、当面は友好路線で通すつもりだというだけで、決して気を許しているわけではない。
こちらとしても、戦争などという面倒な事態はなるべく避けたいので、作り笑顔に、お互いに打算を計算している関係だということを再認識させられたのであった。
さて、晩餐会も終わり、翌日にはカールスタッド王国の王都アルブフェイラを出発して、アインズゼーゲンの王都エルバドールへの帰路に着いた。
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約2週間ぶりに戻った王国は収穫の秋を迎えていた。
道中、村や町の様子を見ながら帰ったのだが、はじめにテコ入れをしたお陰で、農民の暮らしは少しばかり改善されていた。
まだ皆が腹一杯食べれるところまではいっていないが、飢えで苦しんでいる人間は減ったようだ。
また、今年は例年より収穫量が1割ほど多かったようで、何よりであった。
建国以降、月に一度は長官、将軍が集合し、2日かけて国家戦略会議を行なうようにしている。
会社でいうところの経営会議のようなところだろうか。収支報告や進捗報告の他、様々な計画のレビューが行われ、承認して予算をつけたり、再考させてり、却下したりと、国の方針はこの会議で決めている。
それ以外にも、様々な相談や面会やらがあるので毎週月曜日と、月初めの戦略会議の2日間は王城にいるようにしているが、それ以外は自由行動をさせてもらっている。
細々としたことはヒルシュフェルトに任せっぱなしだが、ヒルシュフェルト曰く、派閥争いにかかる労力が無くなった分、全く問題ないとのこと。
戦争の脅威が減ったことも大きいようだ。
彼も充実して働けているようなので、甘えさせてもらっている。
何かあればベスパに呼び出してもらえれば、念話ですぐ連絡がつくようにチャンネルをあけているので、大丈夫であろう。
竜族同士、多少距離が離れていても、念話で会話することができるので、バハムート、リヴァイアサン、グスタフ、パニガーレ、エストレヤ、ベスパとは、いつでも会話をすることができるのである。
その為、一人フラフラしていても、連絡をとることは可能だった。
デーン村の警護を緑竜騎士団に任せてから、グスタフは俺の側近として同行するようになった。元ミライ組の警備担当だった者達は緑竜騎士団に配属になっているので、手が空いたらしい。
見た目が某少年漫画に出てきたア○ゲイルっぽいオッさんなのだが、優秀なので、近くにいてくれると何かと助かっている。
そんな感じで少し落ち着いて来たので、最近は王城にいない間は、ケスキリカからデーン村に移設した古城の執務室に篭って、不死王が保有していた魔法書を手当たり次第読みまくっているのである。
元々邪教の司祭だったらしいのだから、当然なのかもしれないが、残っていた図書は大部分が神や悪魔に関するものであった。
中には大変に貴重なものなのであろう、魔人や魔獣を召喚する魔導書についても見つかった。
色々な国によって解釈は異なるであろうが、この近辺での解釈としては、この世界は神によって作られたことになっている。
神は1日目に大地を作り、2日目に海を作り、3日目に空を作った。
4日目に竜を作り、精霊を作った。
5日目に天使を作った。
6日目に人間を作り、動物を作った。
7日目に休息をとり、そのまま地上から姿を隠したとされている。
悪魔が生まれたのは8日目で、
9日目に天使と竜の軍団により地獄に追いやられたとなっていた。
悪魔といえば、七つの大罪に対応するルシファー、サタン、レビィアタン、ベルフェゴール、マモン、ベルゼブブ、アスモデウスの7人の悪魔が有名だが、これらの名前はどの文献でも見つからなかった。
書物により多少の違いはあるようだが、サマエル、アザゼル、アザエル、マハザエルという4人の熾天使が堕天し、4大悪魔となったとされているようであった。
これに対抗する熾天使が、ミカエル、ウリエル、ラファエル、ガブリエルの4大天使となる。こちらはお馴染みの名前である。
天使、悪魔共に、その下に智天使級が8名控える。
悪魔側が、マルキダエル、アスモデル、アムブリエル、ムリエル、ウェルキエル、ハマリエル、ズリエル、バルビエルとなり、
天使側が、アズラエル、チャミュエル、ハミエル、ジェレミエル、ジョフィエル、ラギュエル、ラジエル、ザドキエルとなる。
その下に座天使が16名控え、中位の主天使が128名、力天使が1,024名、能天使が、8,192名と増えていく。
その下の下位には、権天使、大天使、天使になると、何万、何十万という数になるようだが、能天使以上は数が決まっているようであった。ちなみに能天使はパワー、権天使はプリンシパリティーと呼ぶ方が一般的だが、呼び方が異なるらしい。
この世界の悪魔=堕天使とされ、神が自分に似せて創造した人間に対し、嫉妬を抱き敵対するものが悪魔、擁護するものが天使という図式のようである。
魔人、魔獣、不死者は4大悪魔によって生み出されたとされ、中には上位や中位の悪魔に迫る力を持つ者もいるとのことであるが、彼らは厳密には悪魔ではなく、あくまで魔人や魔獣の類となっていた。
例えばナベリウスという悪魔がおり、地球ではソロモン王が従えた72柱の悪魔の1柱とされ、三つの犬の頭と鳥の尾を持ち、ギリシャ神話のケルベロスと同一とされる強大な力を持つ悪魔である。しかしこれは、この世界では悪魔ではなく、魔獣という分類となっていた。
ナベリウスを含め、何体かの魔獣や魔人の召喚方法は魔導書に載っていた。
犬の頭にやら、サソリの毒針やら、処女の子宮やら怪しげなものが触媒として必要らしい。
あるいは生きた人間を3000人を必要とするといった記述もあった。
(ミライよ、上位の魔獣や魔人の召喚は可能だが、世界征服でもするつもりでなければ辞めた方が良いぞ。暴走したら簡単に国の一つや二つ、一晩で無くなるだろうからな)
イグニが忠告する。
(だろうな、もしコイツらがこの世界に現れたら倒せるか?)
(何とも言えないな。我らが上位竜に進化すればなんとかなるとは思うが‥)
(それほどか‥どこかのアホが興味を持って召喚することのないように焼却しておこう)
(それが良いじゃろうな‥)
という会話を経て、後日、俺は魔人や魔獣の召喚方法が記載された魔導書については焼却処分することにしたのであった。
他にも、もう少しお手軽な、役に立つ魔導書もあった。
アンデットを召喚したり、作成したりする方法が書かれた魔導書の中には、スケルトンなどの召喚方法に加え、シャドウという闇の精霊のようなアンデットの召喚方法が書かれており、実際に使ってみると、特定の人物や場所の監視としては非常に役に立っている。
知恵はないので融通は利かないが、離れていても命令できる上、音声や映像を確認できるので、防犯カメラのような使い方をすることができた。
他国だけでなく、自国の王城や各都市の要所や、要職につく人間達を監視させている。
あとは、下位の魔獣を召喚し、使い魔として使役する為の魔導書も見つかり、試しに鷹の魔獣を一羽召喚し、使い魔として肩に乗せている。
名を久遠と名付けた。
見た目は体長80cm位の普通の鷹だが、衝撃波を放つことができる。
普通の鷹より少し強いくらいなのだが、使い魔は念話で飼い主とだけ話ができるのと、使い魔の視覚、嗅覚を共有できるので、屋外での偵察行動に役にたったくれるであろう。
あとは、単純にペットとして可愛いので、可愛がっているのである。
最後に、魔導具についてである。魔法の術式をあらかじめアイテムに組み込んで置くことで、トリガーとなる動作やキーワードで術式が発動する。
この時に霊子が充填されていれば発動するが、足りない場合は魔法は発動しない。
ただし術式自体はあえて回数制限を組み込んでいるもの以外は消えないので、霊子を充填させてあげれば再び動かすことができるのである。
魔道具の作り方の本を読む限り、作成自体はさほと難しいものではなかったが、この世界では、魔法を使うことができる人口が少ないので、作られた魔道具は大変高価なものとなっていた。
とはいえ、見つかったのは、光源の術式が組み込まれた松明や、火炎球の術式が組み込まれた錫杖など、それなりの価値はあるが、特に貴重というほどのことは無いものばかりであったが、数点、遺産と呼ばれる貴重な魔道具が保管されていた。
1つ目が、不死王が手に持っていた、人や動物の魂を負の霊子に変換し保管する宝珠。
2つ目が、登録した座標に一瞬にして長距離転移することができる指輪。最大3個まで登録が可能。
3つ目が、絶対に切れない鎖。魔獣などを捕獲する際に使用する。
どれも凄いが、特に2つ目の転移の指輪は使い勝手が良かった。これのおかげで、王城とデーン村の往復が瞬時にできるようになったのである。




