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第61話 戴冠式

その日ミライは朝からされるがままの着せ替え人形のようになっていた。

メイドの女性達にタライに貯めたお湯で体中を隅々まで洗われる。一応腰に申し訳程度に布一枚巻いただけの素っ裸であるが、恥ずかしくなるので、あまり意識しないようにしていた。

隣には国務長官のアロイジウス・ベックマン自ら指示を出して、身支度の準備を進めている。


よく分からないがいい匂いのする香油で髪の毛をセットされ、触り心地の良い絹のような肌着と、その上には黒を基調としたら光沢のあるベルベットの布地でできた上着とズボンを着せられる。肩はパットが入っているように固くなっており、金色の紐が垂れ下がっている。胸や背中にも無駄に豪華で造りの凝った刺繍や飾り付けがされていた。


「別にいつものままでいいんじゃない?」

「なりません、公の場では国王陛下の威厳を国民に示す必要があります。また国外からのお客様もいらっしゃいます。国の威信がかかっております。これも国王としての務めでございます」

「へいへい、わかってます。言ってみただけですよ‥」

一応抵抗してはみたが、アロイジウスにあっさりと窘められ、大人しく従う。


身支度が終わると、錫杖を持たされ、謁見の間に向かい、玉座に座るよう促される。


戴冠式自体は、身内だけで行われた。

各省庁の長官とその部下の文官から選抜された50名。

軍の方からも3将軍と2騎士団長、および騎士団から選抜された騎士50名が並び、宰相であるヨハネス・ヒルシュフェルトから王冠を頭に乗せてもらい、戴冠の宣誓を行う。

全て形式に基づいているもので、定型文を読み上げるだけのものであった。国名こそ変わっていたが、基本的にはルクセレ王国の戴冠の儀式の手順にしたがって行われた。

儀式自体はは30分程度で終わったのである。


戴冠式の直後に、城のバルコニーから、城内の広場に入ることのできた約1万人の一般市民に対し、お披露目となった。

貴族制度の廃止と、一律で5%の減税、および国内統一の税率の導入等の政策は事前に発表していたので、今後の期待も込めて、国民の感情的には好意的に受け取られていた。

この辺りは、ご祝儀的な意味も含むが、計算の上収支に問題ないところで閣議決定済みなのであった。


その為、朝から新国王の姿を一目見ようと、城門には長い列ができ、開門と同時に広場は見物客で一杯になった。

城内に入れなかった者達も、城門の外に集まり、遠くからでもその声を聞こうとその場に留まっている。


どうやら新国王が冒険者であることは伝わっているようであったが、この国の貴族でもなく、突如現れて国王となった謎の人物ということで、様々な噂が流れていた。

東の国の国の王子で、兄に殺されかかって亡命して流れてきたのだとか、前国王の隠し子で、迫害され追い出されていたが、兄に復讐し国を奪い返したとか、まことしやかに吟遊詩人が伝え、それを聞いた国民達の間で、どれが本当のことだと議論が飛び交っていたのである。


バルコニーから顔を出すと、大歓声で迎えられた。天皇陛下の一般参賀よろしく、手を振り、国民に答える。


「新アインズゼーゲン王国の国王に即位したミライだ。従来の貴族制度は廃止し、国民には平等に生きる権利を与える。奴隷制度はもとより、亜人に対しても差別のない、公平な国であってほしい。また、飢える心配がなく、誰でも学ぶことができる、そんな国を目指したい。理不尽や不利益は断固として拒否するが、他国ともなるべく友好的に付き合い、戦争のない平和な国でありたいと願っている。新国王として、一人でも多くの国民から笑顔が溢れる国になるよう努力することを誓い、新王国の設立と、国王の即位を宣言する!」


いわゆる所信表明であるが、今まで国民は王族や貴族の財産でしかなく、税金を生み出すだけの卑しい存在としか見られていなかったので、従来はただ国王の機嫌取りのために強制的に歓声を上げさせられていたのであるが、このように人間として国のあり方を宣誓されるなど、例が無く、思ってもみなかったのである。

その表明を聞いて感動し、歓喜に沸くもの、期待に心躍る者、感謝にひれ伏す者など、好意的な歓声が巻き起こった。


当然、あんなの出まかせだとか、綺麗事を行って気にくわねぇとかいう否定的な声もあったのだが、それはどうやら少数派だったようだった。


歓声は止まず、15分位は手を振り続けていたのである。


その後は再び謁見の間に戻り、招待したカールスタッド王国やキルシュ公国、リスボア王国の使者が、国王、公王からの挨拶を受ける。それぞれ親書を持って来ており、お祝いの言葉が書かれていた。前世の世界でも、大統領や首相に当選した時に、各国の首脳から電話でお祝いの言葉をいただくのと同じようなことであろう。形式的な挨拶を交わし、パーティ会場で寛いでもらう。

一点、カールスタッド王国については、もう一歩踏み込んで、首脳会談を実施する準備を求める内容についても書かれており、こちらも国務長官のアロイジウス・ベックマンに一任し、日取りと場所についての調整に入らせた。


各国の代表である使者の挨拶が終わると、コネクションを求め訪れた他国の貴族や自他国の商人達の挨拶を受ける。

1組3分としても、100組以上の面会があったのだ。それは夕方まで続いたのである。


それが終わると、今度は晩餐会である。

自国、他国の要職に就く者達が集まり、新王国の一流の料理や酒が振る舞われた。

色とりどりの野菜がグリルした前菜に、スープ、マリネのような魚料理と、グリルした肉料理が並ぶ。


王族出身ではないということで、キルシュ公国やリスボア王国の貴族のなかで、若干見下した態度をとる者も数名いたことはいたのであるが、度を越すまででは無かったので、こちらがホストの手前、他の友好的な人々に気を使わせないように振舞ってその場を乗り切ったのである。


「お疲れ様でした」

晩餐会も終わり、執務室に戻ったところで、宰相のヨハネス・ヒルシュフェルトから労いの言葉をかけてもらった。


「いや、マジで疲れたよ。こういうことはあまり向いていないな。できれば二度と勘弁して欲しいくらいだ」

「いえ、これからも他国との友好関係を築いていくのであれば、国の行事には招くこともありますし、逆に他国に招いて頂くこともあるでしょう。今のうちに慣れて頂くしかありませんな」

「マジかよ。できらば勘弁して欲しいところだ」


執務室のソファの上で体を投げ出し、横になる。


「まぁ、今回アロイジウスは良くやってくれたと思うよ。ヨハネスのフォローがあったとはいえ、無事に滞りなく式典を終えることができたからな。事前に減税の発表をしておいたのも良かったな。お陰で以外とすんなり国民に受け入れられたようだしな」

「はい、それもミライ様のご判断があってのこと。また、あの所信表明には私も感動いたしました。必ずや素晴らしい国に生まれ変わることを確信しております」

「お世辞でもそう言ってもらえるとありがたい。自信が持てるよ」

「お世辞などではありません。私自身、大変な幸運に恵まれたと感謝しております。このアインズゼーゲン王国を、皆が誇れる素晴らしい国にできるよう、このヨハネス・ヒルシュフェルト、誠心誠意努めて参りたいと思います」

「ああ、よろしく頼むよ」


その日は王国中で酒と料理が振る舞われ、夜遅くまで祝いの宴が催されていた。

王国の将来や、自分達の生活がどう変わるのかについて、そして新国王は何者かという話で一晩中議論が続けられたのであった。


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