第6話 旅の準備
王都エルバドールへの旅は、長い準備期間の割に、あっという間であった。洞窟を出て半日もかからずに王都の北門の前にたどり着いたのだった。
以下、ここまでの経緯である。
まず、手始めにイグニから近隣の国の情報を教えてもらった。
今いる洞窟のある山岳地帯の南の方に広がっている陸地は、三つの国により支配されているらしい。
山岳地帯の南東に位置するのが、ルクセレ王国。
南西にキルシュ公国。この両国のさらに南側にカールスタッド王国がある。これらの国々は、領土争いの小競り合いを繰り返してはいるが、大きな戦争状態にはないらしい。
商人達もそれぞれの国々を行き交っており、比較的情勢は安定しているようだ。
山岳地帯の北側にはカリーニングラード帝国が存在する。ルクセレ王国、キルシュ公国、カールスタッド王国を足したよりも大きな国力があるらしい。
ただし、山岳地帯を兵士が越えることは不可能なので、迂回して降りてくるルートしかなく、さらに東ルート、西ルートともに、狭い山道を通るしかないため、大がかりな戦争はここ数百年発生していないとのことであった。
また、キルシュ公国の西側に大きな島があり、ここはリスボア王国が統治していた。独自の文化を発展しているらしい。
ちなみに、カリーニングラード帝国の東側にもいくつもの大国があるようであるが、ほとんど人の行き来は無いようである。
まずは一番近いルクセレ王国の王都、エルバドールに向かうことにした。
ちなみにそれ以上の詳しい情報は知らないとのことであった。人間社会について興味などなかったそうである。ある意味当然かもしれない。
まぁ、人間社会のことは、王都に行ってから情報収集すれば良いであろう。
大まかな国の情勢がわかっただけで充分であった。
さて、次に確認をしたのが、能力についてである。イグニ自身も、下位竜から中位竜に進化して、能力がどう変化したかわかっていなかったので、二人で確認する必要があった。
まず、ドラゴンの状態での攻撃力、防御力、敏捷力、霊子量が、格段に向上していた。今の性能からいうと、人間の英雄クラスの戦士や魔法使い相手でも、傷一つつけられないであろうこと。
人間が竜殺しをおこなうことができるのは、竜種の中でも亜種である飛竜や蚯蚓竜、下位竜までのようである。
中位竜や、上位竜については、天使や悪魔のような上位の存在でなければ、戦闘にすらならないとのことだった。
物理、魔法以外にも、毒物や、麻痺などの状態異常や、精神攻撃もほぼ無効であるとのこと。
魔法についても、黒竜の性質である、風、雨、雷に関する魔法について、かなり上位の魔法が扱えるようになっているとのことであった。
本気になれば国一つ滅ぼすくらい造作もないと言ってのけている。
恐らくその通りなのであろうが、自重した方が良さそうだ。
他にも、四大元素のうち、風以外の、火、水、地についても、中位までの魔法は扱えるようであった。
水を作り出したり、火を起こしたり、落とし穴を作ったり(笑)は、造作もないようだ。
あとは、空間系の魔法が使えるようになっていた。まずは、周囲の生物、物、霊子などを、無意識のうちに空間探知できるようになっていた。常時発動型である。
逆に相手から認識されないための認識阻害の魔法も使えるようになっていた。
隠密行動する際は役に立つ魔法であろう。
また、座標を指定しての空間転移もできるようにいた。距離の制限はあるようであったが、数キロ先であれば問題なく瞬間移動できた。一瞬で移動するので、戦闘中に発動させ、攻撃をかわすことも可能のようである。
あとは空間保管。未来のネコ型ロボットが持っている四次元ポケットと同じことができるようであった。
重たい荷物を持って歩かなくて良いわけで!超便利である。身軽に旅ができる。
魔法様様である。
これらの能力は人の姿になった状態でも同様であった。人間の状態で斬撃を受けると、その部分が一瞬だけ竜鱗に変わり、物理攻無効化された。
ちなみに人の姿を維持するのと、人から竜に戻るときには霊子は消費の必要がなかった。竜から人に変身するときだけ必要となっていた。これも体内の霊子量からすれば微々たるものであった。
あとは人の姿で空を飛ぶことも可能だった。
背中を変形させ、竜の翼の小型版を出すことで、竜の状態と同等のスピードが出すことができたが、人間の姿のままでも全速力の半分くらいのスピードで飛ぶことができた。
もう一つ、1週間の練習の中で、イグニのサポートなしに、魔法陣の空間転写ができるようになった。
これにより、俺とイグニで、同時に複数の魔法を使用可能であることがわかった。
これは、かなり大きな戦術となることが期待できた。
そんな感じで、この1週間、入念な確認と準備をおこない、寝ぐらの金貨、銀貨、宝石類を空間保管に放り込み、手頃な長剣を腰に、人間の姿のまま、王都の北門の前までひとっ飛びしたのであった。