第53話 半人半竜(ドラゴンメイド)
デーン村に移設した古城の謁見の間。
玉座に座るミライの前に、この村に残り、捕虜として連れてこられた騎士達が並んでいる。
とはいっても縄で縛られて、強制的に連行されているというわけではない。
皆、自分の意思でこの場にいたのだ。
謁見の間は、200人以上は余裕を持って入ることができる広いスペースとなっていた。
現に120人の騎士が中にいるが、まだ半分も埋まっていない。
玉座にはミライが座り、その両脇にはバハムートとリヴァイアサンが控えている。
バハムートの横にはグスタフが並んでいた。
他に兵士などの姿はない。
騎士達は10x12に整列し、その前に騎士団長のフリードリヒ卿が立つ。
「さて、お前たちの処遇を決めなければならないよなぁ」
そう言いながら、ミライは騎士たちの顔を見回した。皆、その表情は固い。
「とは言っても、別に捕虜として牢屋に閉じ込める気はサラサラない。お前たちの気持ちは理解してるしな」
ミライがそう話すと、騎士たちは頭を下げる。
要は、王国の為に差し出した忠誠ではあるが、ハーコートのような貴族の為に命をかけているのではないという思いである。
「恐らく王国としては、こちらを殲滅するつもりで来るだろう。数万人の規模になると思うが、全滅させることは容易い。しかし、俺としては国王およびハーコートのみを殺すつもりだ。ただ命令されて連れてこられた騎士や兵士達を殺すのは、無駄に国力の低下を招くだけだからな。本意ではない」
「なんと、そこまでお考えいただけているのですか?」
「ああ、この戦いが終わったら、ヒルシュフェルトを宰相に建てて国を再生するつもりだ。この村で新たな街づくりをするつもりだったが、国単位でやれることの方が多いだろう。もう少しマシな暮らしのできる国にしてみせるさ」
「だからお前達、俺に協力しろ。後悔はさせない」
ミライは、強い意志のこもった目で騎士達を見つめる。
「我々の意志はこの国に住む民を守り、豊かな国にすること。今の王国の貴族達は派閥争いに明け暮れ、民草から搾り取ることしか考えておりません。それに対して忸怩たる思いを抱いていたのも事実。ミライ殿、いやミライ様がより良い未来を示してくれるのであれば、それに協力させて頂きたい」
フリードリヒが代表して答える。
「他の者もそれで良いか?」
フリードリヒの問いに、騎士達は胸に剣を掲げた。
「一時的に反乱者、裏切り者の汚名を受けることになるぞ。その覚悟は良いか?」
ミライが尋ねる。
「はっ!!!」
騎士達は声を揃えて発する。
「良し、わかった。では臣下の誓いを」
ミライは、2時間近くかけて、7人の騎士と114名の従者全員の臣下の誓いを受ける。
形式的なものかも知れないが、特に今回のように元の主人を裏切って新たな主人に仕えることになる場合において、1つの区切りとして必要な儀式であった。
「グスタフ、あとは任せる。野営の準備を」
「フリードリヒは話があるから、残ってくれ」
そう言って、グスタフにフリードリヒを除く騎士達を任せ出て行かせる。
その場にミライ、バハムート、リヴァイアサン、フリードリヒの4名だけが残った。
「さて、フリードリヒ。お前は半人半竜のようだな。部下たちには内緒か?」
静かに囁くような声で問いかける。
「‥‥なぜ、それが?」
驚くというより、理由を確認したいというように問い返すフリードリヒ。
「俺たちは竜だからな。内包する霊子が人間のものと違うのはすぐにわかった。そうでもなけらば下位竜のバハムートと互角に剣を交えることなどできるはずがないだろう?」
「やはり‥」
お互いに薄々は感じていたようだ。ただの人間ではないと。
「父と母、どちらが竜だ?」
「父の方です。もう竜の力はすっかり無くなりましたが」
「そうか」
半人半竜とは、その名の通り、竜と人のハーフである。
とはいえ、他の亜人のハーフなどと比べて、その意味合いは異なる。
まず、基本的に竜は生殖行為は行わない。この世界に存在できる竜の数というのは決まっており、生殖行為により子孫を増やすものではないのである。
そうすると、どのようにして生まれるかという疑問が沸くと思われるが、竜は転生を繰り返す生き物なのである。
従って、1匹の竜が死ぬと、新しい竜がこの世界のどこかで生まれるというのが、この世界の理であるのだ。
では竜と人のハーフというのはどういうものかと言うと、人化した竜が己の魂を分け与えるのである。オスの竜であれば、メスの人間の卵子に。メスの竜であれば、自分の魂に人間の精子を受け入れる。
そうすることにより、竜の魂を持った半人半竜が誕生する。
生まれてきた半人半竜は、外見は人間と同様になる。
特別、身体が鱗で覆われているということもない。また成長スピードも人間と同様である。
20〜25歳前後で身体が完成し、そこから老化しない。
平均的な寿命は1000年ほど。
通常の竜に比べて短い寿命だが、それでも人と比べると永遠のような長さである。
能力的には、個体によりバラツキはあるが、竜の能力を多く受け継いでいることが多い。
基本的な能力は下位竜と遜色ないが、魔法の能力はあまり得意でないことが多いようである。
特に父が竜であった場合は、その傾向が顕著ということのようだ。ただ、半人半竜という存在自体、非常に稀なのであるが、母が竜であった例はほとんどないようなので、その真偽は不明であるが。
そして、自分の子供に竜の魂を分け与えた竜は、しだいにその力を失っていき、数十年で命を落とすことになる。
なお、竜に変身することはできない。身体は生身の人間なのである。
その為、睡眠や食事は必要である。毒や状態異常などにも耐性はない。
フリードリヒは直接戦闘能力については竜の能力を受け継いだが、魔法に関しては全くダメとのことであった。
それでも、昔、王国内の町で暴れていた下位竜を冒険者として仲間達と倒し、竜殺しの名声を得て、王国騎士団に入ったのである。
その腕は、バハムートも認めるところであった。
「俺の部下たちは、俺たちが竜だということを知っている。お前はどうしたい?」
「私は今まで、自分が半人半竜であることを公言したことはありません。しかし、ミライ様が竜のであると公言なさるのであれば、私が何者であるかを公言されることに異を唱えることはありません」
「そうか、わかった。では、必要な時が来たら皆に話すことにしよう。今はまだその時ではないかもしれないな」
「それでよろしいかと。ミライ様の意のままになされたら良いことです」
「ああ、わかった。そうさせてもらう。ところで、王国軍に関する情報が欲しい。この3日でどの程度の兵が集まるのか?優秀な将はいるのか?地形的にどこで戦うのが良いか‥」
それからしばらく、王国軍の情報について話を聞き、おおよその戦略について議論する。
あのような脅しで、王国が簡単に屈服するわけはないとわかっていた。
戦いになるのは避けられない。
勝つことだけであれば容易いのだが、いかに兵士の被害を少なく戦争を終わらせるか、それが今回の命題であった。
 




