第47話 不死王(デミリッチー)
不死王は考えていた。
自分を凌駕する目の前の生き物は何者なのかと‥。
生前は死霊使い(ネクロマンシー)として様々な術や儀式を編み出し、邪教徒の司祭として崇められたこともあった。
王侯貴族ですら容易に手出しのできない組織に育て、理想の為に小さな村に住む人間をすべて虐殺するなど、日常茶飯事であった。
死期が近づき、更なる力を求めて、自身を不死化させる儀式を行った。
成功率10%とも言われる、高度で難易度の高い試練を勝ち抜き、屍霊王になったのだ。
それからも古城に住み着き、魔導の研究を続けた。魂を闇の力に変換して蓄えることができる宝玉を作り出すことに成功した。
時折訪れる冒険者や、近隣の村、魔物、獣、すべてのものに平等に死を与え、長い時間をかけて力を蓄えていったのだ。
その力を使って、秘術を行うことにより、更なる上位の不死王に進化したのである。
その不死王が更なる進化を狙う先は死神であった。
死を自由に操るもの。悪魔にも等しい存在である。その為に必要なのは、竜の力であった。
竜の亡骸を手に入れ、器を作り、そこに闇の宝玉を心臓として力を蓄えるのだ。
膨大な闇の力を蓄えて、自身と融合し、死神に進化し、その絶大な力を手に入れる。
邪教徒の司祭であった彼が、邪教の神となるのだ。それこそが、彼にとっての究極の目的であったのだ。
長い年月探し続け、ようやく手に入れたその竜の亡骸を、こんなにも簡単に壊されてしまうとは‥。
絶対に許せない。殺しても殺したりない。
膨大な力を保持していることはわかる。せめてその力を闇の宝玉が吸い尽くしてくれる。
声帯などない存在であるので、物理的に喋ることはできない。
しかし、そんなものは不要であった。
静かに、殺意を燃やし、目の前の2人に対峙する。
(召喚骸骨百足)
過去に自分が生み出した、最強の合成不死獣である。
百人の騎士の上半身を集め、合成した。
腕には剣や槍が持たされており、素早い動きで敵の周囲を動き回り、百本の足による攻撃で、確実に斬り殺す。
このモンスター一体で、小さな町一つを虐殺し尽くしたこともある。自信作であった。
(殺せ、骸骨百足!)
闇より呼び出された巨大な百足のような骸骨に命令し、リヴァイアサンに襲いかかる。
しかし、面倒臭そうに、その猛烈な攻撃を受け流し、槍を突き出す。
水が現れて、竜巻のように渦を巻きながら、骸骨百足を巻き込み、壁に激突し、粉々に消え去った。
(一撃だと‥?)
焦りの色を見せる不死王
「おい、そろそろ天井がヤバイって、崩れるぞ」
男の方が慌てている。
その声を聞いて、余裕を取り戻す。
(クックック。私の邪魔をしてくれたお礼だ。このまま生き埋めにしてくれよう。自分は先に逃げさせてもらうがな‥)
そう考えながら、ゆっくりと入口の方に位置を移動する。
((召喚骸骨巨人)スケルトンジャイアント)
巨人族の亡骸で作った骸骨を3体。同時に召喚した。
神の軍団でもある巨人族を3体も召喚したのだ。
竜族にも引けを取らない隠し球であった。
自分の力を改めて確信し、優越感に浸る。
(洞窟を壊せ)
不死王はそう命令する。
女が得体の知れない槍を振るい、巨人の一体を薙ぎ払った。これも一撃で消滅する。
しかし、そこまでであった。
巨人の放った棍棒の一撃は、壁を砕き、天井にまで一気に亀裂が走る。
ドンっ!と大きな音がして、天井が崩れ出す。
「だから言ったじゃねぇか!」
男が叫んでいるが、もう遅い。
崩れ出す洞窟から急ぎ逃げようとする不死王だったが、振り返った瞬間、自分の目の前に見たこともない男が立っていたことに驚く。そしてその男の持っている剣は、複数の結界が張られた自分の肉体を、紙を切り裂くように、何の苦もなく、真っ二つに切り割いていたのである。
痛みを感じることもなく、消えていく身体。
何が起きたのか、理解することもできず、不死王は消滅したのである。
「何やってるんだよ‥」
不死王が落とした、黒い宝玉を手に取りながら、ミライは呟いた。
15分前のことだ。
レンズブルクからカルシ砦に戻ったミライは、バハムートとリヴァイアサンが、偵察に砦を出たと、パニガーレ達から聞いたのである。
嫌な予感がして、急ぎ後を追ったのだが、途中で2人の気配を見つけ、この洞窟にやってきたのだ。
するとどうだ、討伐を依頼された不死王と2人が戦闘になっているではないか。
それはいい。相手に逃げられそうになって、かつ自分達は洞窟に生き埋めになろうとしている。
チョット目を離すとこうなるのか‥。
以前にイグニから聞いていたリヴァイアサンの逸話を思い出して、反省していた。
「重力操作」
「雷撃矢」
崩れ落ちてくる天井を押さえつけ、骸骨巨人を雷属性の矢で射殺す。
「なぁにをやっているんだっ、お前達はっ!」
2人に向かって歩きながら、半ば呆れた口調で詰問する。
「ミライ‥助かったぜぇ‥」
真底ホッとしているバハムートが、腰を下ろし、座り込む。
「こんなところで、どうしたのだ?」
一方のリヴァイアサンは、天井が崩れ落ちそうなことに気づいてもいない様子。
「どうしたのだ‥じゃねぇよ。自分達がまだ中にいるのに、その洞窟をぶち壊してしまうような攻撃をするって、どういう神経してるんだよ、ったく」
「ところで、その手の槍は何だ?俺も始めて見るが‥」
リヴァイアサンの手に持っている、見たこともない槍が気になった。聖剣ほどではないが、ものすごい力を感じる。
「これか?これは虹蛇だ。槍に変形させて使っている。私の支配下にある水の上位精霊だ」
「へぇー、そんな武器持ってたんだ。スゲェな」
「バハムもそんな剣持ってたりするのか?」
好奇心で聞いてみたのだが、そんなのねぇよ、とつれない返事が返ってくる。
見ると、自慢の大剣も折れてしまった様子。
通常の幅広剣を構えているが、小さすぎて似合っていない。
(ミライ、面白いものが残っているぞ)
ふと、イグニが呼びかけてくる。
(ん?なんだ?)
(ここに下位竜の亡骸があったらしい。その竜が持っていた剣のようだが。具現化してみるか?)
(ん?ああ、やってみてくれ)
すると、部屋の中央に白いモヤが集まり、真っ赤に燃えるような両手剣が具現化する。
「何だ、これは?」
バハムートが聞いてくる。
(だってよ、何なんだ?)
イグニ先生に答えを聞く。
(竜剣エタンセル。火花を意味する。それほど格は高いものではないが、一応竜装具のようじゃ)
(死んだ竜が持っていたのであろう。こんなところで見つかるとは、幸運じゃったのぅ)
とのこと。
そのまま、バハムートに伝えてあげる。
「マジかよ‥」
欲しそうにしている。
「いいんじゃないか?武器も無くなったみたいだし、貰っておけよ」
そう言うと、
「マジで?良いのか?」
と、子供みたいに喜んでいる。
バハムートが、剣を手に取ると、すんなりと認められたようで、その両手にすっぽりと収まる。
前の大刀よりやや短いが、数回素振りをすると、具合が良かったらしく、ニンマリと笑顔になったいる。
「これ、軽くて扱いやすい。しかも頑丈そうで、火属性まで持ってるみたいたぜ」
「ミライ、マジでサンキューな」
ホクホク顔である。
先ほどまでの焦っていたときの顔とは別物であった。
「さて、じゃあ、今回の犯人である不死王も倒したみたいだし、戻るか。
飛竜達も心配してたみたいだしな。別の意味で」
そう言って、洞窟を出る。
「‥‥?」
リヴァイアサンは何のことという顔をしていたが、あえて説明はしなかった。
重力操作の魔法を切ると、洞窟は崩れ落ちた。
途中、カルシ砦で飛竜達と合流し、不死王討伐の報告をしに、レンズブルクに戻ったのであった。




