表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/70

第45話 地面の割れ目

カルシ砦は、1000m級の山と山が重なり谷となる部分を通る道の始まりに出来ている。

2000-3000m級の山々が並び立つプロバンシー山脈に比べると低いが、それでもこれを歩いて越えるのは一仕事である。


カルシ砦自体も、平地から緩やかな坂を登り続け、海抜500mを超えた高度にある。

そこから更に300mほどの高度のある坂を登り、同じ位の高度を下りたところに、キルシュ公国側の砦がある。砦の名前はヌラタ砦という。

砦の間の直線距離は5kmほどだか、クネクネと蛇行しながら登る為、8-9kmほどの距離を歩く必要がある。

平地だと2時間ほどで到着する距離だが、休みながら登るため、普通の人で3-4時間はかかる。


その道を特に問題なく、スタスタと歩いている2人の男女の姿があった。


男の方は、長さ2.5mほどもある、幅広で刃が弧を描いている大刀を左手に持ち歩く。

大き過ぎて、背中に背負うと、鞘から抜けないのである。一撃で馬や牛の胴体をも真っ二つに切り裂きそうな武器を、軽々と持ち歩いている。


女の方は、長さ2mほどのシンプルな穂槍を杖代わりに歩いている。

女性が扱うには重すぎるように見えるが、こちらも重さを感じさせず、軽々と扱う。


バハムートとリヴァイアサンである。

どちらも軽装ではあったが、革製の鎧を来て、シンプルな外套マントを羽織っている。

とはいえ、衣装は全て魔法で作り出したものである。竜に戻った時に鎧や服は破れて無くなってしまうので、人間の衣装を真似て作り出しただけのものであった。


元々竜の鱗を持つ2人にとって、防具など意味をなさないものである。生身のままでも刀や矢を通すことはない。

彼らを傷つけることが出来るのは、魔法が付加エンチャントされた武器か、あるいは、直接霊子を攻撃することができる属性の攻撃のみである。


そんな2人が、山道を歩いていく。

本当は飛んで行くことも可能なのだが、アンデットの大軍の向かった先の手がかりを探す為、歩いているのである。


2kmほど歩いたろうか。

道の脇に狼の死体が数体見えた。

最近のもののようである。血が乾ききっていなかった。


「まだ殺されて一日も経っていないな。刀傷のようだ」

リヴァイアサンが、狼の死体を調べて答える。


「昨晩はここを人が通っていないはずだよな?奴以外は‥」

奴というのは、カルシ砦を陥落させた犯人のことだ。

バハムートが、周囲を調べてみる。


「これは?」

狼の口に咥えられた、黒い布を見つける。


「外套か何かではないか?」

リヴァイアサンがそれを手に取り、答えた。


「やはり、昨晩、誰かがここを通ったことは間違いねぇな」

予想が当たっていたのが嬉しかったのか、少年のようにニカッと笑う。


「これを見てみろ」

リヴァイアサンが何かを見つけたようだ。


その指差す先には、骸骨らしき足跡が残っていた。

「これは、ビンゴじゃないか?」

砦の中のような硬い岩場の地盤では分からなかったが、ここは柔らかい土の森の中である。

ハッキリと骸骨の足跡が残っていた。

ただし、数はそれほど多くない。数体程度だ。


「足跡をたどってみようぜ?」

「賛成だ」

バハムートの提案に、同意するリヴァイアサン。


足跡は森の中に続いている。

それを追跡していると、道からそれほど離れていないところに、突然、崖が現れる。

割れ目のような崖で、幅は最も広いところで10m程度、深さは20-30mほどありそうだった。


「ん?あれは何だ?」

バハムートの目に飛び込んできたのは、割れ目の底に、奥に繋がる洞窟らしき存在だった。


「行ってみるか?」

「勿論だ」

骸骨の足跡が、その周辺で消えていたということもあるのだが、もはや2人の興味は洞窟の方に向けられていた。


2人は躊躇なく地面の割れ目に飛び込み、底に降り立つ。

上から見えたよりも実際には大きな横穴が空いていた。幅も高さも5m以上ある。


「明かりはいるか?」

バハムートが、一応、気を使って聞いてみただけであったが、

「不要だ」

とあっさり断られる。

2人とも、暗視の能力があるので、暗闇でも問題なく見通すことができたのである。


「まさか、こんなところで、洞窟を見つけるとはな」

竜である2人にとって、ちょうど良い寝床となる洞窟を探すのは、なかなか骨の折れる作業なのである。なので、一度寝ぐらを見つけると、そこからあまり動こうとはしない。

今は不要であるが、この場所は、煩わしい人や魔物入って来づらく、入口の大きさも十分で、なかなか良さそうな物件に思えた。

将来の為にキープしておくのも悪く無いかもしれない。


「すでに住人がいたりしてな‥」

冗談を言うが、この近くに竜の気配がしないのはわかっている。

2人とも、イグニのように空間探知能力に長けてはいない。それでも同族が近くにいれば感じ取れるはずであった。


暗闇が広がる洞窟の奥へ奥へと進んで行く。

洞窟は緩やかな勾配となっており、下に下につづいていた。


ふと、数十メートル先で、何かが動いた気配を感じる。

武器を持つ手に力を込めるが、足取りは緩めない。何が起きても対処できる自信があるからである。


何かが動いた気配というのは、骸骨戦士スケルトンウォーリヤーであった。5体いる。

棒立ちになっていたのだが、こちらに気づくと剣を振り上げ、問答無用で襲いかかってくる。


「ふんっ」

バハムートが剣を薙ぐと、5体の骸骨戦士スケルトンウォーリヤーはバラバラに崩れ、吹き飛ぶ。しかし、数秒の間隔の後、骨同士が集まり、再び骸骨戦士スケルトンウォーリヤーの形を取り戻し、起き上がる。


「奴らに物理的な攻撃は効かないぞ!」

リヴァイアサンがそう言って、自分の武器に魔法をかける。


聖水付加エンチャント・ホーリーウォーター

すると、ボンヤリと光る水が現れ、渦のように絶えず形を変えながら、槍の穂先にまとわりつく。

水の属性に、光の属性を合わせた複合属性付加の魔法である。


「ていっ」

槍を骸骨戦士スケルトンウォーリヤーの胸元に一突きする。

すると、穂先の水が、グルグルと回転し、骸骨を巻き込み、弾き飛ばす。

弾き飛んだ骨は、空中で崩れ去り、灰のように消え去った。


そのまま、次の一突きで、2体目も葬り去る。


「ちょ、俺の分も残しておけよ!」

バハムートが、焦り、叫ぶ。


聖火付加エンチャント・ホーリーファイア

こちらは火の属性の光の属性の効果を持つ。

剣を燃えさかる炎が包む。


「はあっ」

リヴァイアサンが、3体目を仕留めたのと同じタイミングで、剣を一振りし、同時に2体の骸骨戦士スケルトンウォーリヤーを薙ぎ払う。

骸骨はバラバラになるのと同時に、炎で燃やし尽くされ、灰になって消えた。


「危ねぇっ‥」

かろうじて、獲物をリヴァイアサンに独り占めされなかったという意味の言葉である。


「あの程度、私一人でも問題なかったぞ」

リヴァイアサンが言うが、バハムートとしては面白くない。彼も暴れたいのだ。


「ところで、今の骸骨スケルトン はひょっとして‥」

「砦を攻め落とした犯人に従う者と考えるのが妥当であろうな」


「この先に何があると思う?」

「今はまだ分からぬが、行けばいずれわかるだろう。何の目的もなく、こんな洞窟に来る者などいないだろうからな」


もっともだ。

2人は、先に進む。


その先も、骸骨戦士スケルトンウォーリヤー骸骨魔導師スケルトンメイジとも遭遇した。


いずれも5体づつほどで、固まっており、数十メートル間隔で立ち尽くしていた。

近づくと攻撃してくるので、薙ぎ払う。


そんな戦闘を何十回繰り返しただろうか。

その先に、一際大きな空間が広がっていたのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ