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第40話 カミングアウト

「おーっ、帰ってきたぜー」

デーン村まで飛行し、到着した俺は、見慣れた景色にちょっとした感動を覚える。

2週間ぶりではあったが、もの凄く久しぶりに帰ってきた気がしていた。


「今回は、クラーケン退治に、国王謁見して、青竜退治、そして聖剣ゲットだ」

我ながら、密度が濃すぎるんじゃね?と思う。


少しのんびりとしよう。

村をプラプラと歩きながら、北のミライ組の居住区に向かう。


「おー、出来てきたね。感心感心」

2件目、3件目の長屋も完成し、4件目、5件目の建設に入っているようだ。

1軒につき、16人が寝泊まり出来るので、48人が寝床を確保したことになる。

半分位が完成したところだろうか。


しかし、今回蜥蜴族リザードマンを36体仲間にしたのだ。また、長屋の数を増やしてもらわないといけない。


「あとで、バジルにお願いに行かないとなぁ」

独り言を呟いたとき、大事なことを思い出した。


「あっ、やべ。空間に入れっぱなしだった‥」

蜥蜴族リザードマン達を、空間に放り込んだまま、飛行して飛んできたことをすっかり忘れていたのだった。


「ゴメンゴメン。着いたぞ」

蜥蜴族リザードマン達を空間から取り出し、地上に座らせる。

空間酔いをしているようで、皆フラフラだった。


「ヘイスケ、サノスケ。少しここで休んでてくれ。あとでまた戻ってきて、皆に紹介するから」

弱々しく頷く蜥蜴族リザードマン達を置いて、スタスタと歩き出す。


ちなみに、船で帰ってくる数日間に、少しだが言葉を覚えたようである。

念話と併用してだが、意思疎通が測れるようになった。あとは慣れだろう。


さて、まずはバジルの元に向かう。

建設現場の近くに行き、働いている男に声をかける。

「お疲れさん。バジルはいるか?」


男は(見たことあるが、名前は忘れた)、怪訝そうな顔をして、

「あ?バジルさんは、5番館の内装を見てると思うぜ‥」

と言う。


(コイツ、いい度胸だ。この俺に向かってタメ口とは‥いかんいかん、上司たる者、笑顔で、部下に優しく振る舞わねば。最近はパワハラだの、従業員満足度だのうるさいのだ)


「ああ、ありがとう。忙しいところ悪かったな」

そう言って、建設中の5番館の中に入る。


「バジル、いるかぁ?」

入り口を潜り、建設部門の部隊長である元大工のバジルの姿を探す。


「あぁ、今行く」

作業中のバジルが顔を見せる。


「何の用だ?っていうかお前誰だ?」

と真面目な顔で聞いてくるバジル。


「は?たった2週間の間で、俺の顔忘れたのか?って‥‥あれ?俺、今女性バージョンのままだった?」

(どうりで、道ですれ違って声をかけても、みんなに、誰?って顔をされてたわけだ)


「バジル‥」

顔を近づける。美女の顔がすぐ横に迫り、ドキドキして、動揺しまくっているのがわかる。


(面白れぇ‥)

イタズラ心がムクムクと湧き上がる。


「お前の忠誠を誓った領主の名前はなんと言う?」

「い、いや、それは、ミ、ミライ様だ」


「そうなのか。そのミライ様とやらはどこにいるのだ?」

「い、今は、お出かけになられている」


「へぇー、領主が不在なのか。そんな大事なことをペラペラと話して良いのかな?」

「‥‥」

しまった‥という顔をするバジル。


「プッ‥」

その表情を見て、思わず吹き出してしまった。


「な、何がおかしい?」

ムキになるバジル。


「ゴメンゴメン。俺だよ。ミライだ」

「は?」

固まるバジル。


男性バージョンに変身して見せると、ようやく納得した。

「ミ、ミライ様。いつお戻りに?って言うか、先ほどのは‥何というか、その‥」

必死に言い訳を考えているようだが、動転しまくって、オロオロとしている。


「冗談だよ、別に問題ない。良くやってくれているようだな。ご苦労だった」

そう、声をかけてあげると、落ち着いたようだ。


「いえ、ありがとうございます。もうじき4番館も完成し、6番館の建設に着手する予定です」

「皆、頑張ってくれているので、もう少しで、全員分の寝床が用意できそうです」


「ああ、そのようだな。予想よりかなり早い。頑張ってくれているのがわかるよ。ただ、事故には気をつけてな。安全第一で進めてくれ」


「はい、ありがとうございます。しかし、ミライ様のお屋敷建設を後回しにさせていただいていること、お待たせしてしまい申し訳ありません。住居が建設終わりましたら取り掛かりますので、ご不便をおかけして申し訳ありませんが、もう暫くお待ちください」


「あっ、いいよいいよ、ゆっくりで。それより、一つお願いがあって来たんだ」

「はい‥何でしょう?」

「それがな、こないだ南の島で蜥蜴族リザードマンを捕まえて連れてきた。全部で36体だ。人の姿に人化させてるから、そいつらの分の住居も計画に追加してくれないか?夕食の時にでも紹介するから。俺の屋敷は後回しでいいから。よろしくなー」

そう言って、その場を後にする。


あとは、グスタフに人数配分を丸投げしておけば、上手くやってくれるだろう。

優秀な部下がいると、本当に助かるぜ。


さて、バハムートは無事に帰ってきただろうか?

リヴァイアサンの様子も気になるところだ。

俺の寝床でもある仮設テントに向かう。


と、歩いている途中で、バハムートと、リヴァイアサン、パニガーレとエストレヤ、ベスパの5人が歩いているのに出くわした。

聞けば、向こうも俺が戻って来たのに気づき、出てきたようだ。


「バハム、レビィ、あと飛竜ワイバーン3人組。無事に到着してたか?迷ってないか少し心配してたぞ」

「何を馬鹿なことを言っている。迷うはずがないだろうが‥」

バハムートが答える。


「レビィ、身体の調子はどうだ?」

「ああ、もうすっかり問題ない。世話をかけたな」

「いや、やり過ぎてしまったのは否めない。だが、まぁ、あれぐらい力の差を見せつけないと、仲間になってくれなかったかも知れないと思ったからな。すまなかった」

「もういい。あれだけ何もできずに負けたのだ。もう納得しているさ。それにしても、この場所は良いところだな。空気も澄んでいて、水も綺麗だ。霊素マナも豊富にある」

レビィもこの場所を気に入ってくれているようだ。


「そうだろ?俺も気に入ってな。仲間になった人間達と一緒に町づくりを始めたところさ。まずは住むところを用意して、食べ物や衣服を充実させて、そのうち特産品を作って、商人が行き交うような町にしてみせるさ」

「そうか。で、私はこれから何をしたら良いのだ?」

「そうだな、実はまだ、決めてないんだ。時間はあるし、ゆっくりと気の向くままにやりたいことをやったらいいさ」

歩きながら、話をする。


「ところで、皆んなに紹介は済んでるのか?」

バハムートに訊いてみる。


「まだだ。お前が戻ってからの方がいいかと思ってな。グスタフなどには話をしているがな」

とバハムート。


「わかった。じゃあ、今日の夕食の時にでも話をしてみよう」


「ところでミライ。褒美の件はどうなった?聖剣は持ち帰って来たのか?」

とバハムート。

「ああ、もちろんだ」

そう言って、背中の剣を抜く。


「これが、聖剣か」

圧倒的な霊力が漂っている剣を見て、バハムートが感嘆の声を上げる。


「なんだ、この剣は?上位竜アークドラゴンに匹敵する力ではないか?」

リヴァイアサンも驚いている。

そう言えば、経緯を説明していなかった。


カクカクシカジカで、銀山を奪還する代わりに、人類の宝である剣を譲り受けたことを説明する。


ある意味、この剣のために、リヴァイアサンを倒した形になるのだが、そのことについて怒ってはいないようだ。

むしら俺的には、一挙両得のつもりだったのだ。


「何かあったときに、力が足りずに後悔するのは嫌だからな。その為の力だよ」

本心である。


さらに、魔装具と神装具を合成することにより、竜装具にすることができ、俺に最適化されるらしいのだが、イグニが今作業してくれている。

さすがに、少し時間がかかるようなのだが、気長に待とう。


「それよりも、この村はもう見て回ったのか?」

リヴァイアサンに訊く。


「いや、まだだ。お前が来るまで大人しく待っていた」

「じゃあ、夕食まで、案内するよ」

そう言って、夕食までの時間、建設現場や、鍛治工房、畑や森など、案内して回り、各部隊長には一通り紹介して回ったのであった。


夕食の時間になり、作業を終えた住人が集まって来た。

元々デーン村のあった北側を伐り開き作った新居住区の真ん中に大きな広場があり、皆でワイワイと食事を摂るのが習慣になっていた。


食事は朝9:00頃と16:00頃に一日2食が振舞われる。

村長の奥さんのフローラさんを中心とした食事係が、村人全員分の食事を作ってくれているのだ。


朝起きて、朝飯前に一仕事をし、ブランチに近い朝ごはんを食べてから、日中夕日が赤くなる頃まで働いて、夜は毎日宴会である。

毎日が林間学校みたいで楽しいのだ。


野菜の収穫にも目処が付き、森での狩猟により安定して獣肉の供給を受けることができるようになったおかげで、食事事情は当初に比べて、驚くほど改善していた。

主食である麦類の生産はまだこれからなのだが、俺が自腹を切っていたので、当面食べていくには十分な在庫が確保されていた。

日々の食事をすら、満足に取れない状況であった当初からみると、食べることに困ることの無くなった今の状況は、夢にまでみたような暮らしであったのである。


村人達の顔には笑顔が浮かび、毎日この場所で皆仲良く食べて飲んで、楽しんでいるのであった。


さて、ここに新たな仲間が加わった。

蜥蜴族リザードマン達である。


「皆んな、久しぶりだな。留守している間に色々あってな。仲間が増えたので紹介する」


夕食を食べ終わり、お酒が回り始める前に、皆に新しい仲間を紹介した。


「カールスタッド王国で、住むところが無くなり困っていた者達を連れてきた。貴重な労働力になると思う。まだ言葉は上手く喋れないのだが、今日から仲良くしてやってくれ」

「料理に興味がある者、数名は食事係に行ってもらう。残りは4つに分けて、鍛治、建設、警護、農業の4部門を2日づつローテーションで経験させ、その後に希望をとって進路を決めてもらう。最終的な人数調整は、グスタフを頭に、各部隊長に任せるよ。よろしく頼む」


「お任せを」

グスタフが、一礼する。


「さて、他にも仲間が加わった。コイツがリヴァイアサン。俺とバハムの古くからの友人だ。レビィと呼んでやってくれ」

「あと、レビィの部下のパニガーレと、エストレヤと、ベスパだ。よろしく頼む」


全員が美男美女である。

特に男性陣からは、熱い視線が注がれる。


「いいか、可愛いからって、手を出すと痛い目にあうぞ。こう見えて、バハム並みに強いからな」

リヴァイアサンの表情は変わらない。当然だとでも言うように、相変わらず凛々しい表情だ。

女性から見ても格好いい女性の姿であった。


「レビィと言う、よろしく頼む。竜である私が人間と接するなど考えても見なかったが、興味はある。どうか私のことを怖がらず仲良くしてくれ」

「‥‥」

その瞬間、皆の時間が止まった。


「あちゃー」

バハムートが額に手を当てる。


「あ‥」

竜だってこと、内緒にしておくの、言うの忘れてた。というか、わかるだろ普通。

そう言えば、バハムもイグニも、レビィがとんでもないことをやらかすキャラだと言っていたが、こういうことだったのか?

この美人がドジっ子天然キャラだったとは、予想外だったわ。


案の定、村人がざわめき出す。

ミライ組の皆は、ミライもバハムも竜だということを知っているので驚きはなかったようだが、村人に内緒にしていたことは知っていたので、やっちまったなぁという様に苦笑している。


「ん?何かおかしなことを言ってしまったか?」

リヴァイアサンが、空気が変わったことに気づき、自分が何かおかしなことをしてしまったのか自問する。


「あー、レビィ。皆んなを驚かせてしまうから内緒にしてたんだが、出てしまった言葉は戻せない。俺から説明するよ」


「そ、そうなのか?悪いことをしてしまったか?」

まだ、何が悪かったのか、良く理解していなかったようだが、あとでゆっくりと説明してあげよう。


「いいから、いいから。大丈夫」

リヴァイアサンを落ち着かせてからカミングアウトする。


「まず、隠していたことについて謝ろう。すまなかった。ひとえに、お前たちを怖がらせたくなかったという思いだったのだが、こうなった以上、お前達に全てを話そう」


そう言って、全員の顔を見る。

皆んな真剣な表情だ。


「まず、俺とバハムート、リヴァイアサンは、人間に姿を変えているが、ドラゴンだ」

ドラゴンは通常、人間に対して干渉しない。ただ稀に魔物のように人間に危害を加える者もいれば、人間の守り神としてその土地を守る者もいる」

「アロイス、俺たちは、この村の人間に取って、どちら側の竜だ?」


村長のアロイスは、真剣な顔をして、ある意味納得したような表情を浮かべ答える。

俺の馬鹿げた力が、竜の化身だったと聞いて納得できたのであろう。

「ミライ様は、我らにとって、守り神でございます。我らを守り、食べ物を与えてくださり、そして、笑顔を与えてくださりました」


「そうか、そう言ってくれると、俺としても嬉しいよ。では、本来の姿を見せてやるが、決して襲ったりしないから、驚かないで見てくれ」


そう言って、空に浮かび上がり、黒竜の姿に変身する。


「‥‥」

わかってはいても、間近で見るその迫力に、腰を抜かす村人達。

ミライ組の皆もさすがに驚いている。


あまり驚かせても可哀想なので、人間の姿に戻る。今度は女性バージョンの方だ。


竜の姿から変わった、リヴァイアサンとはまた違う可愛らしい女性の姿に、皆、声も出ない。


「カールスタッド王国では、こっちの姿で冒険者として活動している。一応、目立たないように使い分けてるという訳だ。こんな風に、男にも女にも化けることができる」


そうして、もう一度男性バージョンに変身する。


「さて、今見てもらったように、俺たちは竜だ。そして、グスタフと、パニガーレ、エストレヤ、ベスパの4人は、竜族の亜種である、飛竜ワイバーンだ。今回連れてきた36名も竜族の眷属である蜥蜴族リザードマン達で、みんな俺の魔法で人化させている」

「この村に来たのは、ゴブリン退治の依頼でたまたまだったが、この地が気に入ってるし、縁があったものと思っている」

「重ね重ね黙っていて悪かったが、怖がらせたくなかったという思いだったということは信じて欲しい」


皆の反応を見る。怖がっていない訳ではないが、反発や否定の感情は感じられなかった。


「もし、俺が領主としてこの地に留まるのを良しとしないのであれば、遠慮なく言ってくれ。すぐに出て行く。しかし、このまま、皆を受け入れてくれるのであれば、全力でこの村を守ろう」


出て行くという言葉に反応して、すぐさまアロイスが反応した。


「とんでもございません。是非この村の守り神として、この地に留まってくだされ。まさかドラゴンだったとは考えもしませんでしたが、特別なお力があることは存じていました」

「先ほど申しました通り、この村の住人にとって、ミライ様は恩義と感謝の対象であって、恐怖や侮蔑の対象ではござりませぬ。どうかこれからも変わらず、我らを導いてくだされ」


そして、村人全員の方を向き、確認し、

「これは村人全員の総意でございます」

と断言した。


「そうか。ありがとう。そう言ってくれて嬉しく思うよ。では改めて、これからもよろしく頼むな」

アロイスと握手をし、その場が拍手で埋め尽くされた。


こうして、カミングアウト後も、再び受け入れられ、この村に留まることができたのであった。

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