第39話 聖剣エストレージャス
王都に戻ると、3人の騎士達と共に、すぐに王城へと連れて行かれた。
前回のクラーケン退治の時のように、民衆が船に近寄ることは出来ない。
馬車が用意され、それに乗り込んで、王城へと向かう。
今回は着替えさせられることも無く、少し控え室で待たされただけで、玉座の前に呼び出された。
流石に剣だけは取り上げられたが‥。
「冒険者ミライ、および騎士セレスティノ・カラスキージョ、ファビオ・カノ、イルデフォンソ・ベルリオス。前に出よ」
国王が発する。
「はっ!」
玉座の前に出て、片ひざをついて、頭を下げる。
「顔を上げよ、報告を!」
国王の低い声が響く。
「はっ。ご報告いたします。冒険者ミライ、バハムートおよび我ら騎士3名にて、青竜を討ち倒し、銀山の奪還に成功いたしましてございます。合わせて、島に巣食っていた飛竜および蜥蜴族、小鬼族全てを討伐し、島の安全を確保いたしました」
セレスティノが答える。
その場にいた貴族や騎士達がざわめく。
「して、もう1人の冒険者は?」
と国王が問う。
「個人的な急用にて失礼させていただいております」
俺が答える。
「ふむ‥まぁ良い。竜を退治したと?嘘偽りないであろうな?」
再度確認する。その表情は変わらず、腹のうちご読めない。
「間違いございません。我らこの目でハッキリと確認いたしました。ミライ殿の強力な魔法にて竜は消滅いたしてございます」
イルデフォンソが答える。
「消滅‥とな。尋常ではないな‥」
と国王が訝しむ。
「その実力。この目でしかと見届けてございます。剣の腕、魔法の力、いずれも歴代の英雄と比較しても遜色無いものでございました」
ファビオがフォローする。
「恐れながら国王陛下、依頼は達成いたしました。約束の報酬を」
俺が切り出す。
国王の反応次第で、国が滅びるかもしれない‥そんな思いがあったのであろうか、セレスティノ達に緊張が走っていたのを感じていた。
「うむ、わかった。聖剣をここに」
大臣らしき人物に指示を出す。
しばらくして、豪華な飾りの施された長い箱が運ばれてきた。
重そうに兵士2人がかりで持っている。
玉座の前に台が置かれ、その上に飾り箱が置かれた。大臣らしき人物がうやうやしくその箱の蓋を開ける。
「冒険者ミライ、聖剣を」
国王が発する。
「はっ」
返事をして、台座に近づく。
箱の中には、真っ赤な布に包まれた聖剣があった。
見た目には特に華美な宝飾はない。
鞘の長さは130cmほど。材質は分からなかったが、黒い金属の質感で、金色の幾何学的な模様が描かれている。
握りの部分は、両手で持つことが可能な長さとなっており、握りやすいように皮紐が巻かれていた。また、柄頭は球状になっておりその中央の空洞部分に透明の宝石が埋め込まれていた。
もしダイヤモンドだとしたら、どれほどの価値なのか想像もつかないほどの大きさである。
ゆっくりと聖剣に手を伸ばす。
(イグニ‥いくぞ)
久しぶりに、若干の緊張を覚えながら、右手で持ち手部分を握る。
案の定、手のひらに熱い金属を握ったかのような痛みが走る。そこは我慢して堪える。以前の魔装具の時に比べればなんてことはない。
左手で鞘を握り、ゆっくりと刀身を引き抜く。
現れた刀身は、普通の剣とは似て非なるものであった。
5cmほどの幅の刀身の、中心部1cmほどがくり抜かれ、フォークのように左右に分かれている。
刀身は銀色に鈍く光り、魔法陣に描かれるのと同じ古代文字が刻まれていた。
鞘を台座の上に置き、両手で剣を構えると、刀身に雷が付加されたように、電気を帯び、光り出す。
刀身中心の空洞部分に霊子が溜まり、エネルギーを蓄えられるようだ。
それにより、何倍も威力を底上げするのかもしれない。
もう、手のひらの熱さも感じなくなり、すっかり手に馴染んでいた。イグニが上手く取り込んでくれたのであろう。
同時に、もの凄い力を感じてもいた。
自分の体内の霊子が何倍にもなるかのような無敵感。
この剣を一振りしただけで、山や海をも斬り裂いてしまえるような力を感じていた。
「おーっ」
「まさか、聖剣に認められたぞ」
どよめきが起こる。
国王の前だということも忘れたように、驚きを隠せずに声を上げる者達。
やっぱりか‥とでも言うように、ミライのことを見るセレスティノ、ファビオ、イルデフォンソ。
ミライならば‥と驚きはないようだ。
もう一介の冒険者などとはいう認識はない。
この数日間で、現実離れした光景を見せつけられ続け、遥か遠いところにいる、伝説の英雄に匹敵する存在だという認識に改めてあったからだ。
「静まれっ!」
国王の一言で、場が静まる。
「冒険者ミライよ。聖剣エストレージャスに認められし騎士よ。そなたはたった今、この国の騎士達の頂点に立った。その責務を果たせ!」
「恐れながら国王陛下。私は騎士になるつもりはありません。よって、王城に留まることもありません。これからも自由に行動します。しかし、この国に災難が降りかかったとき、必ずや力になりましょう。陛下が私に友好的である限り、私も友好的であり続けましょう」
正面から国王を見つめ、そう言い放つ。
「騎士団長の任には付かぬというか?」
「はい、お断りします」
「無礼者‥」
周りで、憤慨している声が聞こえるが、無視する。
「聖剣を返すつもりもないのだな?」
「ありません。銀山を奪還した報酬として約束したものですから」
「もし、反逆罪としてそなたを捉えるよう命じたら?」
「その時は、全力で抵抗します。この国が滅びるかもしれませんが‥」
「‥わかった。約束じゃ。聖剣はそなたに与えよう。この度はご苦労であった。以上、下がって良い」
「はい。今後も友好的であり続けてもらえることを期待します」
ニコッと笑って返す。
ミライが去って、国王は残った家臣達に命じた。
「今後、あの者に対し、絶対に危害を加えてはならん。冗談ではなく、国が滅びるかもしれんぞ。余計なことは考えるな。いいな!」
「はっ!!!」
家臣達が返事をする。
「利用するつもりが、扱いきれる獅子ではなかったか‥」
国王が呟く。
ひとまず、セレスティノ、ファビオ、イルデフォンソは、最善の判断を下した国王に安堵したとともに、あらためての忠誠を誓ったのであった。




