第38話 帰還
「遅いですよー」
ファビオか身体をブルブルと震わせながら、不満を口にする。
騎士は3人ともずぶ濡れであった。
「ずいぶん待たせてしまったか?こっちも色々とあってな」
「色々ってなんだよ‥こちらは真っ白な霧の中歩いてたら、上空で巨大な魔物の唸り声が聞こえ、戦闘が始まったと思って急いで来たんだ。そしたら、竜が地上に落ちるのが見えて‥」
「毎度のことだが、どうなってるんだ?」
セレスティノがボヤく。
「まあ、説明するよ、奥で話そう」
そう言って、3人を連れて皆がいるところまで案内する。
奥にはバハムートの他に、綺麗な女性が3人、男1人。
「誰だ、この人達は?」
小声でセレスティノが聞いてくる。
その顔を見ると、まさかね‥という表情を浮かべてるので、大体の状況は察しているのだろう。
ニヤッと意味深な笑みを浮かべ、とりあえず燃えそうな木の破片を集め、奥の縦穴近くで火を起こす。
霧の中を歩き、途中小雨ににも降られたらしいずぶ濡れの身体を温めてやるためである。
焚き火にあたり、少し落ち着いた3人に、事の顛末を説明してやった。
「予定通り、飛竜は見つけたんだがな、青竜と遭遇し、戦闘になった」
「結果、激戦の末、青竜を倒すことができた。お前たちが竜が地上に落ちたのが見えたというのはその時の戦闘が終わった直後だ」
「で、傷ついた青竜を回復させ助けた。人の姿に変身させ、俺に従うようにしたというわけだ。あとついでに飛竜3体も人化させ、部下にした」
「この青い髪の女が青竜、名前はリヴァイアサン。オスの飛竜はパニガーレ、メスの飛竜は、こっちの髪が長い方がエストレヤ、短い方がベスパだ」
「ということで、これでこの島の魔物は全ていなくなったということだ。銀山を奪還するという依頼は達成ということでいいかな?」
「まったく、君は、何を考えているんだ‥」
「常識を外れているというのにも程があると思うが‥」
「もう、笑うしかないよね。竜を従わせたって?今まで聞いたことがないよ‥」
3人は頭を抱えている。
腕の立つ冒険者や騎士であれば、飛竜を倒すことはある。
それでも竜を倒した者は歴史上数えるほどしかいない。
それもせいぜいが下位竜を 倒すことができたという程度だ。
聖剣までは届かずとも、魔法の付加された武具を扱い、相当に熟練した剣技や魔法力を持つパーティである必要がある。
普通の人間では、どう頑張っても格が高位の生物である竜に対して、敵わないのが現実である。
まして1対1で勝つなどはほぼ不可能であろう。
そういうことで、当然ではあるが、竜を従わせることができた人間など存在しない。
ここに一つの伝説が生まれてしまった訳である。
ま、普通の人間じゃないけど。。。
「さて、そんな訳なのだが、一つ相談がある。今の話はお前たち3人の胸の中にしまい、青竜は死んだということにしておいてほしい‥もし青竜が生きていると知ったら、脅威に感じる人間が現れるだろう。そいつらが、もし先に俺たちに危害を加えようとしてきたら‥?」
「反撃する‥か?」
セレスティノが答える。
「正解だ。徹底的にやる。もし国王が下手な色気を出したら、この国を滅ぼす」
ニヤッと笑う。冗談ではないことを察したようだ。3人とも緊張で表情が固まる。
「一方的にこちらを利用しようとしたり、危害を加えようとする者には徹底的な反撃を与えよう。しかし、友好的でいる者に対しては友好的であろう。助けを求められればそれにも応じよう」
「俺達はクラーケンを倒し、海域の安全を確保した。次に青竜を倒し、銀山を奪還した。カールスタッド王国に対し、これ以上ないほどの貢献をしたわけだ。この恩を仇で返されることが無いように期待してるぞ‥」
「今回一緒に旅をして、お前達のことは気に入っているんだ。王国の為に上手く立ち回ってくれ。わかる‥よな?」
コクコクと頷く3人。
「よし、じゃあ先にベースキャンプに戻ってくれ、俺たちは今後の話をしてから戻るから」
そう言って、セレスティノ、ファビオ、イルデフォンソの3人を先に戻らせる。
(よし、レビィ、身体はどうだ?動けるか?)
念話で会話する。
人間の身体には変身したが、まだ言葉を喋ることは出来ない。
いずれ、彼ら、彼女らにも、勉強してもらう必要があろう。
(ああ、大丈夫なようだ。少し身体が重いが、痛みもない)
(お前達はどうだ?その姿のまま飛べるか?)
と3人の飛竜達に訊く。
(大丈夫なようですわ)
とエストレヤ。
3人とも上手く空中に浮かんでいる。グスタフも出来ていたのだから大丈夫だろう。
(よし、では、バハム。4人を連れて、先にデーン村に戻ってくれ。俺は騎士達と一度王都に戻り、報酬を頂いてから、村に戻る)
(蜥蜴族達は、どうするか‥船には何とか乗りそうだから、王都まで連れて行くとして、そこから空間に放り込んで運ぶしかないかな‥)
(わかった。じゃあ先に戻ってるぜ)
バハムートが任されたと言って、リヴァイアサン達を連れて飛び立った。
「あっ、そうだ。宝は回収しておかないと‥」ということで、リヴァイアサンの寝ぐらにあった金貨や銀貨の山を全て空間に放り込み、その場を撤収する。
その後、ベースキャンプで騎士達とも合流し、船を出す。
王都に到着したのは、3日後のことであった。




