第36話 蜥蜴族(リザードマン)
ベースキャンプのある港跡に戻ると、簡易的なテントが張られ、寝床と食事の準備ができていた。
野宿に比べると、全然快適に過ごせる。
さすが国王軍だ。冒険者の旅とは一味違う。
一応、船長他、乗組員に人数が増えたことを説明し、食事は不要であることを伝える。
蜥蜴族も、少しではあるが、マナを取り込むことができる。その為、1週間位は食事を摂らなくても死ぬことはないのだ。
乗組員達は、信じられないという様子だ。
ファビオがことの顛末を説明して、ようやく、半信半疑ながらも、納得したようであった。
そんなことをしているうちに、バハムートとイルデフォンソが戻ってきた。
思いもよらぬことに、こちらも蜥蜴族を引き連れてきている。
当然、人の姿はしておらず、元のトカゲのような姿のままだ。
あちこち痛めつけられている様子で、怪我をしているようであった。中には尻尾の無くなっている者もいた。
乗組員達は、その姿に慌て、警戒する。
凶悪な魔物がすぐ近くに現れたのだから、無理もない。
「遅くなってすまなかった」
「蜥蜴族の群れに出くわして、ボコボコにしてやったら、手下になったから連れてきたぞ」
と、バハムート。
隣にいたイルデフォンソが疲れた顔をしている。
「わかってはおりましたが、この御人は、やはりとんでもない方でした」
イルデフォンソが、セレスティノとファビオにそのときの状況を報告する。
「こちらも似たようなものだよ」
セレスティノが、人化した蜥蜴族の一団を説明する。
3人の深いため息が聞こえた。
とりあえず3人は無視して、バハムートが連れてきた蜥蜴族の群れのリーダーに念話で声をかける。
(だいぶひどくやられたな。痛むか?)
かなり痛むのであろう。無言で頷いている。
(怪我を治してやるから、近くにかたまって)
「怪我治癒」
怪我の箇所に魔法陣が現れ、痛みを消す。
骨折していたり、尻尾が無くなっていたりしたところが、元どおりに回復する。
(おー、痛みが消えたぞ)
(回復魔法なんて始めて見たぞ)
(ありがとうございます)
喜んでいるようだ。
(あー、あと、そのままだと目立つので、人化させるから)
そう言って、有無を言わさず、魔法をかける。
足元に魔法陣が現れ、一瞬で人の姿に変身する蜥蜴族達。
当然だが、人間となった自分達の変化に驚き、戸惑っている。
こちらも、全部で18体。オスが10体、メスが8体体であった。
人の姿に変わった様子を見て、驚くイルデフォンソと船員達。
セレスティノとファビオは先ほど見ているので、驚きはなかった。
合計36体の人化した蜥蜴族達。
人の姿には変身したので、いずれできるようになるとは思うが、まだ、言葉を覚えていないので、会話をすることはできない。
念話を使って会話する。
ちなみに、今は蜥蜴族達とバハムートのみに念話を飛ばしているので、他の人間達には聞こえていない。
(人間の姿に化けてはいるが、俺が中位竜のミライだ。コイツは下位竜のバハムート。お前達の群れのリーダーは前に出てくれ)
そう言うと、2名のオスが前に出て、片ひざをつく。
(俺に忠誠を誓え。協力し、俺の力になれ。仲間割れは許さない。いいな?)
(はっ)
頭を下げる。
まぁ、竜相手に裏切ろうとすることは無いだろうけどね。仲間割れはあり得るからなぁと、事前に警告だけはしておくことにしたのであった。
(名前がないと都合が悪いので、名前をつけてやる。お前はヘイスケ、そしてお前はサノスケな)
(はっ、ありがとうございます)
そのまま、残りのメンバーも名前をつけてやる。
(サンジュウロウ、ゲンザブロウ、キサブロウ、シンタロウに、シュンタロウ、ヨシタロウ‥)
(メスは、ハナ、アヤ、コト、サクラ、サチ、シノブ、ハル‥)
こんな感じで、古風な感じの日本語の名前でまとめてみた。
(あと、人間の言葉を覚えて喋れるように勉強しろよ。イグニ先生とのチャンネルあけておくから)
とりあえず、リザードマン達には、人間の身体に慣れさせるのと、言葉を喋る勉強をさせておいて、先生役にイグニとの念話をあてがい、夕飯にすることにした。
「明日なんだが、お前達はどうする?」
3人の騎士達に向かって聞く。
「明日は、3匹いるらしい飛龍と、青竜との戦いになる。お前達の腕も決して低くは無いのだが、竜が相手となると、正直、力不足だ。大人しく待っててくれると助かるんだが‥」
「しかし、僕達も国王陛下から勅命を受けて来ている。敵わないことはわかっているが、待っているだけということもできない」
と反論するセレスティノ。
ファビオとイルデフォンソも同意して頷く。
「もっともだ。お前達の立場も理解できる。では、夜明けと共に、俺とバハムートは先に行く。飛行の魔法があるので、歩くよりずっと早く辿り着くことができる」
「お前達は歩いて付いてきてくれ。その間に飛竜の方を片付けておく。洞窟の入り口で落ち合おう。それでいいか?」
その提案に、3人は納得し、了承した。




